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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Controversies over Labour Force Naturalisation: 30 Years of Emiratisation in the United Arab Emirates"


Koji Horinuki (Ph.D. Candidate, Kyoto University)
堀拔 功二(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程)

 今回の報告は、アラブ首長国連邦(UAE)における「労働力自国民化」政策、いわゆるエミラティゼーションの問題について、政治経済的論争として捉え直し、問題の構造を明らかにする試みであった。労働力自国民化政策は、UAEに限らず湾岸アラブ諸国で広く導入されており、急増する外国人労働者人口を抑え、またポスト石油時代の人的資源を開発するために、30年以上も前から導入されている。しかしながら、常にこの問題は議論され、解決のための政策が導入されているにも関わらず、未だに解決されていない。そこで、「なぜ30年間も堂々巡りの議論は続くのか?」を問いに、労働力自国民化をめぐる問題と政策を、政治経済的論争として分析した。

 労働力自国民化の政治経済的論争の背景として、三つの対立点を指摘した。第1に、「政府VSビジネス界」の対立がある。ここには、政府側の労働市場に対する「不公正な競争」と、ビジネス界の労働市場は自由市場であるとの反論が繰り返されている。第2に、国内政治における「労働力自国民化推進派VS自由市場派」の対立がある。完全な労働力自国民化を目指す労働省に対して、ドバイ首長など政府による強制的な自国民化政策を反対する立場が示される。第3に、「政府VS自国民労働者」の対立がある。政府には、その正当性の原泉として雇用(=資源分配)の責任がある一方で、国民によるレントシーキングを生みやすい問題がある。以上のような対立点は、これまでの国家建設や急速な経済発展の中で創りだされた構造的問題であると結論づけることができる。このような状況の中、UAE政府は硬直化した社会構造と政策間調整のジレンマに直面しており、労働力自国民化を成功させるためには、政府による強力なイニシアチブが必要であると主張した。

 報告のコメンテーターとして、アブドゥルハーリク・アブドゥッラー教授(UAE大学)を招聘して頂いた。UAEを代表する政治学者で、政治・社会問題について常に批判的な立場で発言をしている識者である。報告者の議論については、概ね異論はなく、構造的問題を指摘・分析した点は評価された。しかし、第3の対立点については再検討の必要があること、また全体の議論の目的をよりクリアにする必要性などを指摘された。発表の場でのコメントや、その後の個人的な議論など非常に有益であり、報告者の今後の研究を進める上で重要な経験となった。

 ベイルートにおける今回の報告機会は、海外での報告・議論という部分だけではなく、ディシプリンの異なる若手研究者同士の交流や自分の研究を見つめ直すという点で、極めて貴重な機会となった。報告機会を与えて頂いた東京外国語大学中東イスラーム研究教育プロジェクトおよび関係者の皆様に、この場をお借りしてお改めて御礼申し上げたい。

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