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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Cosmology of French Writing in Arabic Countries: Algeria and Lebanon"

Satoshi Udo(Ph.D. Candidate, The University of Tokyo)
鵜戸 聡(東京大学大学院総合文化研究科)

 本報告では、アラブ・フランコフォニー世界からアルジェリアとレバノンの文学を例として、そのフランス語使用の特徴を対比的に論じた。

 まず、レバノンのフランス語文学は余り知られていないがフランコフォニー文学全体のなかでも非常に古い歴史をもつことを指摘しつつ、その地におけるフランス語の移入の歴史背景を概説するところから始めた。発表の念頭にあったのはマグレブやカリブ、ブラック・アフリカなど植民地におけるフランス語の地位との対比関係である。フランスの委任統治領になる以前からレバノンには修道会を通じてフランス語が入り込んでおり、その淵源はおそくとも18世紀に遡る。もっとも特徴的な現象は、20世紀初頭にフランス語が啓蒙主義とフランス革命の言語として新興知識階級に受容されたことであり、オスマントルコからの独立を戦い取るための思想的基盤ともなったことである。このような背景があったため、植民地諸国のフランコフォン知識人がフランス語に対して愛憎半ばする感情をもったのと異なり、レバノンのフランコフォンはすべからくフランコフィルであった。

 この対比関係を具体的に論じるために、血みどろの独立戦争を経験せねばならなかったアルジェリアから詩人・小説家・劇作家のカテブ・ヤシン(Kateb Yacine, 1929-1989)、レバノンからはドゥルーズ派の詩人ナディア・テュエニ(Nadia Tueni, 1935-1983)を特に選び、それぞれのフランス語と「祖国」に対する態度を探ることとした。

 カテブ・ヤシンはそのフランス語使用に関し、「武器」としての言語はそれが誰のものかを問わないと論じているが、同時にフランス語の世界に分け入ることの苦難にも言及している。一方ナディア・テュエニにはこのような屈折した言語観は見受けられない。しかし、双方ともに、アラブ・ベルベル世界において他者の言語であるフランス語を使うことに対して意識的ではあった。

 そのような言語的概観の上で、テマティックなレベルとして、彼らがどのようにして自分たちの国を文学テクストに描こうとしたのかを問うたが、それはすなわちカテブにおけるネーション、テュエニにおけるアリエール・ペイ(後背地)という二つの概念を比較しつつ、アイデンティティの探求としてのポエティック(制作)を論じる試みであった。

 結論のみを記せば、ドゥルーズ派・イスラーム・マロン派・ギリシア正教という異なる宗教をもつ4人の女性を同一のアリエール・ペイの中に描きつつそこに自らを同一化させていくテュエニと、二千年の歴史の変転の裡にアルジェリアに至ったあらゆる民族・宗教・言語を統合していく歴史の絶え間ないダイナミズムのなかにネーションの姿を幻視したカテブは、ともに人間のアイデンティティを一枚岩的な個に塗り込めるのではなく、その個すらも内部に複数性を抱えていることを示しているのであり、それは他者の言語であるフランス語で書くという行為と不可避的に結びついているのである。

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