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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Gender and Authority in Islamic Discourses: In the Case of Female Preachers in Cairo and Environs Farm Village"

Hiroko Minesaki
(Research Fellow, Japan Society for the Promotion of Science)
嶺崎 寛子(日本学術振興会特別研究員)

報告内容の概要

 本報告では、現代エジプトの二人の無名女性説教師の勉強会を事例に、カイロの事例でイスラーム言説の創出に必要な条件と宗教に対する世代間の温度差を、農村部の事例で抑圧的なジェンダー規範に抵抗するためのイスラーム言説の使われ方をミクロな視点から検討し、実態を民族誌的に描き出すことを目指した。さらに女性によるイスラーム言説の創造と流通が持つ意味を、権威と正統性という概念を手がかりとして検討した。

 それによって、特に都市部の勉強会参加者や説教師たちが行為主体(Agency)として積極的にイスラーム言説をあるいは利用し、書き換え、組み替えていることを明らかにした。その背景には近年のメディアの発達、女性の識字率向上等がある。コーランやハディースなどの原典へアクセスできる層が増加した結果、イスラーム法の再解釈が積極的に行われるようになった。女性の説法師やウラマーが出現、活躍する等、イスラームの知の体系の担い手も多様化しつつある。イスラームの知の体系および知の受容のあり方が、グローバル化や識字率の上昇等によって再編過程にあるといえよう。その中でイスラーム言説をムスリマたちが使いこなす程度は、法識字とその運用能力、メディア環境、地域、階層等によって様々であった。個々人の潜在能力(capability 潜在的に個人がもつ機会の集合[Nussbaum 2000 Women and Human Development])のレベルと、イスラーム言説とムスリマとの関係には関連性があることが観察された。

 しかしここから、ムスリマたちがなぜ、多くの資源の中からイスラーム言説を選択するのか、という疑問が生じる。理由として報告者は、イスラーム言説が、女性が利用可能な様々な資源の中でも特にアクセスしやすい、使い勝手の良い資源である点を指摘した。そして女性説教師たちが積極的にイスラームの知の体系に参入していったのは、正統性を獲得することによって権威を得ようとする生存戦略なのではないか、とアレントとアサドを援用して論じた。

 コメンテーターを務めてくださったキングスカレッジのAl-Rasheed教授からは多くの貴重な示唆を得た。プレゼンの成否を左右することながら、普段日本での学会発表では自覚しないできた、ポジショナリティ表明の重要さを特に強く感じた。一般に日本の中東研究のような小−中規模の学会世界では発表者の来歴や学問的背景がはっきりしているため、研究分野や学問的手法、立場表明を発表で明らかにする必要がある場合は多くない。しかし今回のように聴き手が発表者についての情報をまったく持っていない場合には、研究手法、研究上の立場、専門を含め、「発表をどう聞くか」についての情報を聴き手にきちんと提示する必要がある。学際的な研究をする場合には特に、この手続きが重要となってくるだろう。報告者がこの手続きをきちんと踏まえていたなら、より実り多い質疑応答ができたことは疑いない。この経験を奇貨とし、今後の海外での英語発表に生かしてゆきたい。

会議参加の感想

 予想外の予定が入り、急遽当初の予定より早く帰国しなければいけなくなった関係で、会議後の予定に同行できなかった。飛行機の時間が迫っており質疑応答にも時間を割けず、質問に十分に答えられなかったこと、貴重な機会を生かしきれなかったこと、フロアの人々とのディスカッションに十分に参加できなかったことは大変残念であった。黒木先生はじめ、関係者の方々には急な予定変更のため、余計なご心配とお手数をおかけしたことをお詫び申し上げたい。

 レバノン初訪問が、この会議参加という形であったことを好運に思う。他の発表者および参加者の方々、先生方との学問的な交流に得るものは多かった。

 最後に、このような貴重な機会を与えてくださった東京外国語大学の先生方と関係者の方々に、深くお礼申し上げます。ありがとうございました。

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