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中東研究日本センター(JaCMES)における研究活動
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"Iraq and the Neighboring Arab Countries after the War"

Akiko Yoshioka(Researcher, The Institute of Energy Economics, Japan)
吉岡明子(日本エネルギー経済研究所)

 今回の研究発表「Iraq and the Neighboring Arab Countries after the War」においては、2003年のイラク戦争後のイラクと、周辺国を中心とするアラブ諸国との関係を取り上げた。アラブ諸国はいずれも、イラク戦争後に発足した新政権と一定の距離を置いており、積極的に支援しようとする動きは見えない。そうしたアラブ諸国の態度が何に起因しているのかという点を、本報告では大きく2つの要因を取り上げて説明した。まず1つ目は米国という要因、2つ目はシーア派及びイランという要因である。

 1つ目の要因(米国)については、まず、イラク戦争前の、イラクに対する脅威認識に関する米国とアラブ諸国とのギャップ、米国が唱える中東民主化論へのアラブ世界の反発といった状況が存在した。さらに戦後の占領政策を進める上で、米国がシーア派・クルドを中心とする旧反体制派政党を頼ったこと、彼らがアラブ連盟の提案を拒否したことも、アラブ諸国がイラクに対して距離をおく一因となったと考えられる。さらに、米国と敵対するシリア(及びイラン)は、イラクの次に米国に攻撃されるのは自国かもしれないとの現実的な脅威に直面しており、米国の占領政策を支援しようとする立場にはなかった。

 2つ目の要因としては、戦後のイラクでイランとのつながりが深いシーア派宗教政党が政界の中枢を占めるようになったことが、アラブ諸国にイランのプレゼンス拡大に対する大きな懸念を抱かせている。さらに、イラク国内におけるスンニー派のプレゼンスが決定的に縮小し、シーア派・クルド連合による「多数派の独裁」が行われた結果、イラク国内のスンニー派及びアラブ諸国において、戦後の政治プロセスそのものの正統性を疑問視する声が挙がっている。加えて、イラク政権を率いるマーリキ首相は、宗派主義的である上に国民和解を進められるだけの能力を欠いていると見なされるようになっている。そのためアラブ諸国は将来のイラクのリーダー候補とコンタクトを保っており、それが、イラク政権にアラブ諸国へ不信感を抱かせる要因ともなっている。このように相互不信の構図がイラクとアラブ諸国との間でできあがっており、現在の政治プロセスが続く限り、双方の関係が大きく変化することは難しいと考えられる。

 こうした報告の内容に対し、コメンテータを務めて頂いたHilal Khashan教授からは、イラクに対して強い影響力を持っている隣国はイランでありまたトルコであることから、なぜ「アラブ諸国との関係」をテーマに取り上げたのかという背景説明が不十分だとの指摘を頂いた他、シリアやイランはそれぞれに米国との関係改善を望んでおり、「反米」という枠でくくることへの疑問がなされた。また、Timur Göksel教授から、クルド問題もイラク周辺国にとって非常に重要であり、その点を分析に加えるべきではないかという指摘を頂いた。頂いたコメントは非常に貴重で有益なものであり、今後の分析に生かしていきたいと思う。

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