1.食事 サカフ(sakafo)
タクシ・ブルースやトラックが頻繁に通る街道沿いには、たくさんの現地食堂 ホテーリ (hotely) がある。「ホテル」と名がついていても大半は電気もない小汚い食堂で、もし宿泊できる場合には mandray vahiny 「お客泊めます」、 misy chambre 「部屋あります」などの表示がある。タクシ・ブルースは、各社とも一つの路線ではほぼ同じ時間帯に出発するため、大体同じ場所で食事をとることになる。が、何処で何時食事をとるかを決めるのはあなたではなく、タクシ・ブルースの運ちゃんであることを忘れてはいけない。例えば、首都からマジュンガに向かう午後発の便の場合、151km走ったManerinerinaの寒村で夕食、329km行ったMaevatananaの町で深夜給油かたがた休息、425kmのAmbondromamyの村で眠気覚ましとリラックスのコーヒー・ブレイクが、平均的なプログラムである。では、肝心なこと、このような現地食堂で供される料理とは、そしてそのお味とは?AmbatondrazakaやMoramangaのホテーリのようにたいへんバラエティに富んだ料理を用意しているところもあるが、ま、次が全国共通メニューであろう。
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akoho アクー: ニワトリ
vorona ヴルナ : トリ(家鴨・鵞鳥・七面鳥など)
henan'omby ヘナヌンビー: 牛肉
lelan'omby レラヌンビー: 牛タン
tsaramaso sy hena ツァラマス・シ・ヘーナ : インゲンと牛肉
anana sy hena アナナ・シ・ヘーナ : 葉野菜と牛肉
henan'kisoa ヘナンキスア: 豚肉
henan'kisoa sy anana ヘナンキスア・シ・アナナ:豚肉と葉野菜
trondro チュンジュ: 魚
kitoza キトウーザ : 薫製牛肉
saosisy ソーシースイ: ソーセージ
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左:ホテーリの食事(Ambatondrazakaにて)
右:ホテーリの食事 ヴァーリ・アミ・アナナとキトゥーザ(Ambatondrazakaにて)
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所や季節によってはこの他にも、ondry ウンドリイ:羊、karopa カルパ:鯉、amalona アマールナ:鰻、fanihy ファニーヒ:コウモリ、tandraka ターンダラカ:テンレック(マダガスカル固有の食虫動物)、orana ウーラナ:ザリガニなどに、お目にかかることもある。これらの素材の料理方法は、ro ル:水をたっぷり入れて煮たスープ、ritra リトラア:ひたひたの水を鍋に入れて煮飛ばしたもの、saosy ソースイ(フランス語に由来):ルとリトラアの中間 の三種が基本であり、調味料は塩のみ。こう記すと、とてもお味の方は望めないように思うかもしれないが、天然有機農耕や飼育?による素材の持ち味の良さかはたまた煮込みの力か、これらのおかず類(laoka ラウカ) は、量の少なさやリトラアの脂っぽさ、ご飯やおかずが盛られてくるホーローやプラスチックの食器の安っぽさと小汚さを別にすれば、何処のホテーリもそこそこ食べられるし、中にはとっても美味しい店もある(と思う)。むしろ問題は、おかずの前にホテーリの席に座ると間髪入れずに配られるご飯にある。並盛りの プラ(plat フランス語の「皿」に由来)、小盛りのドウミ( demi フランス語の「半分」に由来)と食欲に応じて盛り加減を注文できるが、並盛りの飯などは日本のどんぶり飯の一杯半かそこらある。ところが、この飯、タクシ・ブルースがよく立ち寄るホテーリにその傾向が著しいが、砂や小石の混入率が高いのである。要するに、よく客が入るホテーリほど、米と炊く前に入念に小石や籾殻などを選り分けている時間などないということ。が、それも一般的な傾向であって、一回めに入ってよかったからと安心すると、二回めには小石が口の中でじゃり、三回目がまたセーフ、四回目はどうか誰にもわからないという予測不可能性が原則。したがって、ご飯を口の中に入れた瞬時に異物を察知する能力を高めるくらいが、せいぜいの自己防衛。ま、それが嫌であまりお腹も空いていないようならば、お粥(sosoa ススア)や雑炊(vary amin'anana ヴァーリ・アミアナナ)、あるいはコーヒーにムフ(mofo)で済ませる手もある。

左:ファミリアール ホテーリで食事停車中(国道4号線マジュンガ州)
中:立ち喰いの食事 ヴァーリ・アミ・アナナとキトゥーザ(フィアナランツゥアにて)
右:立ち喰いの食事 ムフ各種(アンツィラベにて)
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ムフの説明は大変に難しく、マ−英辞典やマ−仏辞典では、「いろんな種類のパン、ビスケット」などと説明されているが、どうもしっくりしない。フランス・パンやケーキ、ビスケットもムフの範囲に入るが、それで全てではない。各地方毎の代表的ムフとしては、炊いたご飯に塩か砂糖を入れて臼で搗いて油をひいた型に入れて焼き上げた中央高地のムフ・ラマヌーナカ(ramanonaka)、米粉や小麦粉と熟したバナナを臼で搗きバナナの葉でくるんで茹でた東海岸地方のムフ・ラヴィナ(ravina)、水で溶いた米粉に砂糖と酵母を入れて一晩寝かせ軽く発酵させてから型に流し込んで焼き上げた西海岸地方のムフ・ムカーリ(mokary)、インドネシアにもそっくり同じあるものがあると聞く米粉・落花生・黒砂糖などを混ぜ合わせバナナの葉にくるんで蒸した中央高地のムフ・クーバ(koba)などがある。この他にも皮を剥いだバナナ一本丸ごとを水で溶いた小麦粉の衣をつけて揚げたムフ・アクンドウル(mofo akondro)、水に溶いた小麦粉に砂糖と酵母を入れて発酵させてから油で揚げたムフ・ボウリナ(mofo baolina)やメナ・ケーリ(mena kely)などなど、最初に書いたようにコーヒーによく合うものが多く、コーヒーと一緒に食べてもホテーリの飯の三分の一か半分の値段で済む点もいい。とは言え、これまた、用いた油が古くないものであるなどの条件がつく。
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