次は、出発時刻。これは車種と異なり、料金とは無関係である。例えば、首都アンタナナリヴとマジュンガの間の路線では、主として昼間走行する早朝出発便と主として夜間走行する午後出発便の二つがある。どちらを選ぶかはあなた次第であるが、マダガスカルの景色を楽しむためならば当然早朝出発便を選択するべきであろう。ただし、10月から12月頃の晴天の日中走行は、クーラーの無いタクシ・ブルースの車内、サウナ風呂状態となる。また、満月前後の明るい月がある白く蒼い夜の走行も捨てがたい味があることを言い添えておこう。殊に、乾季の終わり、牛に新芽を食べさせたりあるいはただ何となく習慣で野山に放たれる野火は、エコロジストの嘆きをよそに、暗いタクシ・ブルースの行く手に妖しい輝きとゆらめきを与える。
  この夜間走行便、タクシ・ブルースでは特に珍しくはないが、路線によっては途中の道路の治安状態のため、昼行便しか無いこともある。なぜなら、タクシ・ブルースの乗客の荷物と現金を狙った強盗団が、街道のそここに出没するとここ20年近く言われ続けているからである。また、夜間の治安が格段に悪い首都アンタナナリヴの場合、マジュンガ午後発の夜間走行便は、首都の手前30kmから100km前後の町に一旦停車して仮眠をとり、夜が明けてから市内に入ってくる。午後10時頃から午前5時頃までのアンタナナリヴ市内を荷物を持ってうろうろするなどは、強盗被害から見れば、ほとんど自殺行為に等しい。
  最後に座席位置のチョイスについて。ファミリアールは、先の旅行ガイド書が指南するように、いかに助手席を確保するか、あるいは少なくとも中席をいかに逃れるかの争いとなる。券売所のおっさんやあんちゃんと顔見知りになるのが、必勝法の近道ではある。
  旅行者の場合は、ま、なるべく早めに切符を買って乗客名簿の上位にリストアップされるようにした上で、「良い席ちょうだいね」と三回くらい繰り返すのが常道か。スペールやタタまたミニ・ビュスやボーインの場合、ノートに書かれた座席位置表が示され、その中からお好みのシートを選べる場合がある。一番良いシートは、どの車種でも助手席だが、これはまず若い女性の占有席である。隣に若い女性を置くことは、長距離タクシ・ブルースの運転手にとっての最大の敵、眠気の防止対策と思し召せ。あなたが若く容貌にもそれなりの自信をもつ、そしてマダガスカル語の少しも話すガイジン女性ならば、この席はあなたの予約席である。スペールやタタまたミニ・ビュスの場合、助手席以外では何処が良いかということになると少し意見が分かれるであろうが、乗降口に近く、巻き込みの埃や排気ガス、あるいは前に座った乗客の吐瀉物をかぶることの少ない運転席の後ろのシート辺りであろうか。
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