6.事故
幸いにして、現在までのところ、僕自身が乗ったタクシ・ブルースが事故を起こした経験は、夜間に道を横断していた牛の腰の辺りをスペール型がはねとばした以外、無い。直接目撃した例では、マジュンガの町を同時刻に出発した2台のスペール型のうち、僕の乗った車の前を走っていた一台が、突然舗装道路上を左右によるけるように走行していたかと思うと、そのうちすっーと路肩をはずれて道を飛び出し横転したことがある。幸い、この時はあまりスピードが出ていなかったことと道路とまわりの土地との間に高低差がほとんど無かったため、死者はもちろんのこと意識を失ったような重傷者も出さずに済んだ。同乗のタクシ・ブルースの運ちゃんに同じプロとしての立場からの事故原因についての説明を求めたら、「おおかた、酔っぱらっていたんじゃないの」との答え。僕には、居眠り運転のように見えたが。1000kmにならんとするような超長距離便には2人運転手が乗るが、600kmからそこらまでは1人で運転するため、眠気は大敵である。ま、タクシ・ブルースの運ちゃんもプロであるからして、ホテーリでコーヒーを飲んだり、カーステレオで音楽をかけたり、そのために助手席に座らせた若い女性客と話をしたり、どうしてもという時は仮眠をとったりして、眠気をやり過ごす術を身につけてはいる。が、ある時のファミリアールの運ちゃん、時々車を停めてはラジエターからお湯を汲んで顔を洗っていたのには、いささかぎょっとした。しかし、事故現場を目撃したということから言えば、過積載やブレーキ故障が原因であろうか、カーブや下り坂で荷崩れを起こし横転しているトラックをよく見かけるし、首都からマジュンガに向かう国道4号線のアンカズベ(Ankazobe)を過ぎた標高2000mを超える山中の谷底に草むして転がっている車両の残骸もやはりトラックが圧倒的に多い。とは言え、タクシ・ブルースについても次のような話を聞いている。国道2号線は、改修工事が終わってからタクシ・ブルースがびゅんびゅん走るようになったことは既に述べたが、この道確かにきれいに舗装されてはいるものの、道程の半分は標高1300mから1600mの中央高地から東海岸へと下る山岳道路のため湾曲部が多い。そのため、カーブをはみ出たタクシ・ブルース同士もしくはタクシ・ブルースとトラックの正面衝突の大事故がままあると言う。また、1993年に南部への入り口の町フィアナランツア(Fianarantsoa)で聞いた話では、そこからさらに60kmほど南に下ったアンバラヴァウ(Ambalavao)の町の近くで、橋の上で停車したタクシ・ブルースに後続のタクシ・ブルースが突っ込み、3台が橋から下の川に転落、乗客数十名が水死や圧死したとか。

ファミリアール パンク修理中(国道7号線アンタナナリヴ州)
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