日本で作ろう!マダガスカル料理 第8回 アクー・シ・ヴアニウ(Akoho sy Voanio)の巻 |
『マダガスカル研究懇談会ニュースレター Serasera』2005年 第12号 pp.6-8 掲載
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1.用意するもの(4人から6人分)
- 鶏肉(胸肉とモモ肉) 300g〜400g
- トマト 2個から3個
- ジャガイモ 2個から4個
- 玉葱 1個
- ニンニク 1個
- 生姜 1個
- ココナッツミルク缶詰 1缶
- コショウ 少々
- 食用油 少々
- 塩 小さじ 一杯半
- 市販の固形ブイヨン・スープの素 1個
- 水
- 深めの鍋
- 大根おろし器
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2.料理方法
- 玉葱の皮を剥き、みじん切りにします。トマト1個を4つくらいに切ってから、へたの部分を取り、また種子の部分を手で揉み潰すようにして取ります。マダガスカル料理の場合、トマトの薄皮を湯剥きする必要はありません。ニンニクは薄皮を剥いておきます。
- 鶏肉をゴルフボール大くらいに切り分け、軽く塩とコショウをふっておきます。
- 鍋に、食用油を入れ加熱します。油の量は、鍋の底に薄く一面に油が広がるくらいを目安とします。
- 加熱した油から少し白煙が上がり始めたら、まずみじん切りにした玉葱を入れ、焦がさないように気を付けながら中火でよく炒めます。この時、油がはねますので、やけどしないように注意してください。
- 玉葱がしんなりとしてきたら、トマトを加えて、同じように炒めます。
- 炒めていた玉葱とトマトがペースト状になったところで、切り分けておいた鶏肉を入れます。鶏肉の表面にしっかりと火が通り、玉葱やトマトが肉の周りによくからまるくらいまで、かき混ぜながら炒めます。
- それから鍋に水を加えます。水の量は、500ccから800ccくらいです。加える水の量を多くするとできあがった料理はスープ状になりますし、少なくするとシチュー状になります。どちらの食感のアクー・シ・ヴアニウにするかは、作る人の好みです。
- 次ぎに、市販の固形ブイヨン・スープの素を1個投入します。さらに、ニンニク1個の半分くらいを大根おろし器ですりおろして、入れます。生姜を少々、これも大根おろし器ですりおろして加えます。この料理の場合、生姜は隠し味ですので、入れすぎないように気をつけてください。最後にココナッツミルクを1缶加え、しばらく煮込んだところで塩を入れて味を整えます。
- 煮立ったら、弱火にします。ココナッツミルクを加えた汁は、吹きこぼれやすいので注意してください。煮込み時間は、1時間から2時間くらいです。鶏肉の皮が柔らかくなった事を確かめてから、火を止めてください。
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3.ここがポイント!
- 煮込んでいるうちに鶏肉から脂肪が出てきて、その脂とココナッツミルクの味とが良く調和します。ですので、鶏肉は自然養鶏や地鶏などの高価なものを使ってください。ブロイラーの鶏肉では、その独特の脂臭さのため、この料理がだいなしになってしまいます。また、胸肉ともも肉を半分半分くらい取り混ぜて使うとほどよい脂の量になります。皮と肉の間にある脂肪がこの料理にコクと風味を与えますので、鶏肉は必ず皮付きのものを購入してください。
- この料理の主役は鶏肉とココナッツミルクですが、それだけでは味にコクがでません。玉葱・トマト・ニンニク・生姜・固形ブイヨンの全ては、鶏肉の脂臭さを消し料理にコクを出すための隠し味的な役割を果たします。ですから、この料理の場合、これらのものを入れすぎて、その素材の味が直接に感じられてはいけません。ただしそれらの材料の中では、ニンニクは多少多めに入れても構いません。
- ココナッツミルク缶詰は、東南アジア料理や中華料理の素材専門店に行かなくても、最近ではスーパーマーケットでもタイ産などのものが簡単に入手できるようになりました。この缶詰は古くなってきますとミルクが固形化してきますので、買う際には缶を手でふってみて中味がまだ固形化していないかどうかを確かめてください。逆にマダガスカルでこの料理を作る時は、市場でココナッツの実を買ってきて、自宅でそれを割り、実の内側にへばりついているコプラを専用の道具(mbozy)でこそぎ落とし、さらにそれをザルの中に入れ洗面器などの中でよく揉み絞りながらミルクを抽出しますので、そこまでだけでもちょっとした作業になります。
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マジュンガ州やディエゴスワレス州、タマタヴ州、チュレアール州などの海岸部一帯にはココ椰子が多数生育していますので、ココ椰子の実も市場などで簡単に入手することができます。ニワトリはマダガスカルの何処の市場でも売られていますから、ココ椰子の実の入手の容易な海岸部地方の町では、このアクー・シ・ヴアニウは日常のあるいは日曜日や祭日のありふれた家庭料理です。日本のマダガスカル大使館において開催されるレセプションで出されるマダガスカル料理の中にも、このアクー・シ・ヴアニウが定番化しています。農村部に行きますと、ニワトリは客をもてなすためのご馳走になくてはならない家禽ですから、アクー・シ・ヴアニウも来客用の料理となります。とりわけ、後ろ脚のモモの部分は大事な来客に対し供される部位ですから、もし皆さんがマダガスカルの農村に行かれてニワトリ料理が出された上、自分の皿にこのモモが載せられていたり、家の主がモモをわざわざご飯の上にこれを載せてくれたりした時は、賓客として扱われていると思って間違いありません。
アクー・シ・ヴアニウとは、<ニワトリとココ椰子の実>の意味です。マダガスカル語でココ椰子の実を指すヴアニウ(voanio)は、<実>(voa)+<ニウ>(nio)すなわち「ニウの実」の意味で、この<ニウ>は広くオーストロネシア語でココ椰子を指します。ココ椰子は太平洋が原産地とされ、マダガスカルからアフリカへはヨーロッパ人の進出以前に人為的に持ち込まれ栽培が広まったと考えられています。また、鉄製のギザギザのリングを先端にはめた腰掛け状のコプラを削る専用の道具(mbozy)がマダガスカルで用いられていますが、これと全く同じ形状の物が東南アジアから太平洋にまで分布しているそうです。一方ニワトリを指すマダガスカル語アクー(akoho)はスワヒリ語経由のバンツー語起源であるにもかかわらず、全世界のニワトリの起源地は東南アジアとりわけスマトラ辺りではないかと現在推定されています。それらの事を考えあわせれば、マダガスカル人の祖先となった人びとが、東南アジアからココ椰子の実とニワトリを船に積んで、インド洋を渡った可能性が高くなります。もしかしたらこのアクー・シ・ヴアニウを移住先の土地でも食べたかったがために、マダガスカル人の祖先はわざわざこれらの物を携えて行ったのかもしれないと想像すると、楽しくなります。同じように鶏肉をココナッツミルクで煮込むタイ料理のグリーンカレーと比べ、鶏肉以外の具を入れない点でもまた味付けの点でも、アクー・シ・ヴアニウははるかに素朴な料理ですが、不思議と食べ飽きることがありません。材料の入手は容易ですので、日本でマダガスカル人の祖先から伝えられたかもしれないマダガスカル家庭料理の味にチャレンジしてみてください!
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