日本で作ろう!マダガスカル料理 第7回
キモ(khimo)の巻
初出:『マダガスカル研究懇談会ニュースレター Serasera』第11号 pp.9-11 掲載
1.用意するもの(4人から6人分)
  1. 牛挽肉  400g〜500g
  2. トマト  2個から3個 または 湯剥きホールトマト缶詰 1缶
  3. ジャガイモ  2個から4個
  4. 玉葱   1個
  5. ニンニク 1個
  6. 生姜   1個<
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  8. レモン  1個
  9. 丁字(クローブ) 少々
  10. コショウ 少々
  11. 食用油  少々
  12. 塩 小さじ 一杯半
  13. 市販の固形ブイヨン・スープの素 1個
  14. 水 
  15. 深めの鍋
  16. フライパン
  17. 大根おろし器
2.料理方法
  1. 玉葱の皮を剥き、みじん切りにします。生トマトの場合は、1個を4つくらいに切ってから、へたの部分を取り、また種子の部分を手で揉み潰すようにして取ります。マダガスカル料理の場合、トマトの薄皮を湯剥きする必要はありません。市販の湯剥きホールトマト缶詰の場合は、この作業を省いてください。ニンニクは薄皮を剥いておきます。
  2. 鍋に、食用油を入れ加熱します。油の量は、鍋の底に薄く一面に油が広がるくらいを目安とします。
  3. 加熱した油から少し白煙が上がり始めたら、まずみじん切りにした玉葱を入れ、焦がさないように気を付けながら中火でよく炒めます。この時、油がはねますので、やけどしないように注意してください。
  4. 玉葱がしんなりとしてきたら、トマトを加えて、同じように炒めます。
  5. 炒めていた玉葱とトマトがペースト状になったところで、水を入れます。水の量は、700ccから1リットルくらいです。水の量を多くするとできあがったキモはサラサラした食感になりますし、少なくするとミートソース状になります。どちらの食感のキモにするかは、作る人の好みです。ここで、市販の固形ブイヨン・スープの素を1個投入します。
  6. 挽肉を、フライパンに油をひいて、炒めます。この時、軽く塩とコショウをふります。
  7. 炒めた挽肉を、鍋の中に入れます。その後、ニンニクと生姜を大根おろし器ですって、加えます。加えるニンニクと生姜の量も、作る人のお好みによって変えてください。マダガスカルでは大根おろし器がありませんので、市販されている小さな杵と臼でニンニクや生姜を搗いて潰してから、鍋に加えます。塩で味を整え、最後に丁字(クローブ)を何本か入れ、弱火で煮込みます。煮込み時間は、2時間から3時間くらいです。
  8. ジャガイモを茹でて、皮むきをします。茹でて皮を剥いたジャガイモ1個を、さらに4つくらいに切ります。キモは煮込み時間が長いため、煮込みの最初からジャガイモを入れますと、そのうちに形が無くなりドロドロになってしまいます。ですので、煮込みの最後の20分前くらいになってから、ジャガイモを入れる必要があります。
  9. 食べる直前に、レモンの絞り汁をたらします。レモン汁の量は、お好みです。特にサラサラ系の食味と食感を求める方には、レモン汁をたらしますと肉や脂の臭みが消えますので、お忘れなく。
3.ここがポイント!
  1. キモは、トマトの量、加える水の量、ジャガイモの量によって、出来上がった時の食感と食味を変えることができます。サラサラしたスープ状の食感と食味が好みならば、トマトとジャガイモの量を少なくし、その代わり加える水の量を多めにします。ミートソース状の食感と食味が好みならば、トマトとジャガイモの量を多くし、その代わり加える水の量を少なめにします。フランスパンと一緒に食べるならばスープ状のキモが、ご飯と一緒に食べるならばミートソース状のキモが、良く合います。また、ご飯と一緒に食べるキモを作る時は、少し加える塩を多めにしてください。
  2. キモには、マダガスカルの東部で栽培・生産されている丁字(クローブ)を、入れます。丁字独特の香りが、キモの食感と食味を増すと共に、キモを他のマダガスカル料理にはない味へと導きます。しかしながら丁字の匂いはかなり強いため、入れすぎないように注意してください。牛挽肉400g〜500gで、丁字5つか6つくらいが目安です。また隠し味として、煮込みの後半で、市販のカレー粉を少し加えることもお勧めです。
  3. 作り置いて一晩経ったカレーの味が良くなるように、キモも前日に作り置きしたものに翌日もう一度火を通すと味が深みを増します。
 khimoと綴って<キモ>と読ませる料理名称そのものが、この料理のマダガスカル起源でないことを、物語っています。公用マダガスカル語の正書法に従うならば、kimoと綴られるはずですし、またその時は<キム>と読むところです。さらにキモは、インド−パキスタン系の人びとが経営する食堂や軽食喫茶店の定番メニューの一つとなっていますから、マダガスカルに19世紀頃から在住するインド−パキスタン系の人びとの料理に由来するものと思われます。しかしながら、インド−パキスタン系の人びとが多く居住するマジュンガ市内などでこのキモは、ごくありふれたマダガスカル人の家庭料理として、日常的に食されています。もともとはインド−パキスタン系の人びとの料理だったものが定着したと言う点では、日本における<カレー>と似ているかもしれません。牛挽肉が割合安いこと、イスラム教徒であるか否かにかかわらず豚肉を食べることの禁忌(ファディ fady)を持つ人が多いこと、マジュンガの町の市場には必ずある材料から作ることができること、煮込み時間さえあれば手軽に作ることができること、トマトや玉葱・ニンニクなどマダガスカル人に馴染みのある素材の味がベースであること、そして何よりも加える水の量によっておかず全体の量の増減を図ることができる点で、マジュンガなどの日常的家庭料理として定着したものと考えられます。  キモは、「ここがポイント!」で書きましたように、入れるものの中味は同じでも、入れるものの量によって、味を変えることができます。そのため、各家庭で作られるキモもインド−パキスタン系の人の経営する食堂等で出されるキモも、家庭と店によってかなり味が異なります。ですので、キモを作る時は、マダガスカルで食べた自分が気に入ったキモの味を目安として舌の上に思い浮かべながら、塩を含めた入れるものの量を各自調節してみてください。
 
  私が好きなキモの味は、マジュンガ市内の中心部、Bank of Africa銀行(昔のBTM)の前を南に港の方へ50mくらい行った道の左手にあるオテル・トロピック(Hotel Tropic)の食堂のものです。<ホテル>と名がついてはいますが、マダガスカル現地食堂オテーリ(hotely)に毛が生えた程度の食堂です。しかもこの食堂、食べ物のメニューは、このキモ一つしかありません。テーブルに座ると何も言わなくてもボーイさんが、フランスパンとレモンの一切れの載った皿とコップを置いてくれます。それだけ味に自信があるのでしょう、確かにこの食堂は午前9時半くらいの開店と同時にいつもマダガスカル人やコモロ人で賑わっています。このオテル・トロピックの食堂のキモは、フランスパンと共に食するもので、サラサラのスープ状です。丁字の香り付けと玉葱・ニンニク・生姜など香味野菜とのバランスが絶妙で、私はこの食堂のキモの味の再現に挑んでいますが、まだ成功していません。
  
  手軽なマダガスカル版<カレー>の味に、日本で挑戦してみてください!
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