日本で作ろう!マダガスカル料理 第6回
ムフ・ラヴィナ(mofo ravina)の巻
初出:『マダガスカル研究懇談会ニュースレター Serasera』第10号 pp. 2004年
1.用意するもの(4人から6人分)
  1. バナナ 1房  6本から10本くらい
  2. 上新粉 1袋 (小麦粉も可)
  3. 三温糖 少々
  4. 笹の葉または竹の皮またはラップ
  5. 水 
  6. 鍋もしくは耐熱ガラスボール
  7. すり鉢と擂り粉木
  8. 電子レンジ
2.料理方法
  1. バナナの皮を剥き、また表面の繊維をよくとります。この繊維が入っていると、出来上がったムフ・ラヴィナの味にえぐみが出ます。
  2. 皮を剥いたバナナを手で適当に細かく折ってすり鉢に入れ、擂り粉木でそれをどろどろになるまで擂り潰します。マダガスカルではこの過程を、臼と杵を用いて行います。
  3. どろどろになったところで上新粉を加え、やはり擂り粉木でよく混ぜ合わせます。擂り粉木を持ち上げてみて、擂り粉木の周りにバナナと上新粉の混合体が付着し垂れて落ちなくなるまで上新粉を加えます。上新粉を加えすぎますと、出来上がったムフ・ラヴィナが粉っぽい味になる上に固くなりますし、また逆に上新粉の量が少ないと、べとついた感じに仕上がります。また用いたバナナに甘みが少ないと感じられた時は、砂糖を適時加えてください。ただし、バナナ自体の甘みと味がこの食べ物の生命ですので、砂糖の追加は少量に留めてください。また砂糖は、グラニュー糖やしょ糖よりも、三温糖を用いるようにしてください。つなぎに加える粉は小麦粉でも構いませんが、もちもちっとした食感を出す上では、上新粉の方が適切です。
  4. 次ぎにその擂り潰したバナナと上新粉の混合体を、大さじに1杯か2杯取り、ラップまたは笹の葉または竹の皮の真ん中に置いて伸ばし、それを包みます。1回にたくさん取りすぎますと、後の加熱に時間がかかりますし、また途中でパンクして中味が流れ出す恐れがあります。マダガスカルでは、バナナの葉でくるみます。もし手近でバナナないし芭蕉の葉が入手できる時は、それらの葉にくるんでください。葉で二重にしっかりと包み、凧糸で結わえます。加熱している間に、バナナの葉はムフ・ラヴィナにほんのりとした香気を与えてくれます。ただ、日本の多くの地域ではバナナや芭蕉の生葉の入手が難しいため、笹の葉や竹の皮やあるいはラップで代用してください。ラップで包んだ時は、凧糸で結わえる必要はありません。
  5. バナナの葉、笹の葉、竹の皮でバナナと上新粉の混合体をくるんだ時は、そのまま鍋に入れて茹でて頂いても構いませんし、あるいは蒸し器で蒸して頂いても構いません。茹で時間や蒸し時間は、包んだ葉の色の変化と立ち上る湯気の匂いで判断します。念のために一つ取り出し、試食してみることが確実です。それらの葉や皮が入手できずにラップで包んだ場合は、耐熱ボールにそれらの包みを重ねて入れ、上から熱湯を注ぎます。それから、そのボールを電子レンジに入れ、10分から15分電磁加熱します。
3.ここがポイント!
  1. 最近はバナナも以前に比べ、様々な産地の様々な種類のものが輸入されるようになりました。なるべく完熟しており、甘みの強い品種を選んで購入してください。そうすれば、バナナと上新粉を混ぜ合わせる途中で砂糖を加える必要がありません。バナナの風味と甘みを楽しむ食べ物ですので、砂糖の使用をなるべくひかえることが肝要です。ただ、日本に輸入されるバナナは青い未熟の状態で輸送され、むろで熟させてから出荷する品が多いため、砂糖を加えないと甘みが足りない場合が多いようです。砂糖を加えることによる味の調節は、バナナと上新粉を混ぜ合わせたものを実際に口に入れてみて行います。
  2. バナナか芭蕉の葉でくるんで、茹でるか蒸すことがベストです。これらの葉の香りが、ムフ・ラヴィナに独特の香味を添えます。中華素材として売られている竹の子の皮、日本料理の素材として売られている笹の葉を用いることも可能です。こちらのほうが、バナナや芭蕉の葉よりも入手が容易でしょう。ラップで包むやり方は味気なくまた耐熱性に問題があるように見えますが、電子レンジを活用すればそれなりにちゃんとムフ・ラヴィナが出来上がります。
 ムフ・ラヴィナ(mofo ravina)とは、すなわち<葉っぱのムフ>の意味です。では、<ムフ>(mofo)とは何でしょうか?1835年に出版された最初のマダガスカル語−英語辞典において既に「パン・ビスケット」との説明が与えられ、1883年に出版されたロンドン宣教協会のリチャードソンたちが編纂した現代に至るまで最も詳細な英語−マダガスカル語辞典でも全く同じ説明が踏襲されています。しかし、日本の粽(ちまき)に似た外観と食感をもつ、このムフ・ラヴィナが<パン>や<ビスケット>と類似しているでしょうか?ラゼミッサ・ラウリスン著、1985年出版のマダガスカル語−マダガスカル語辞典には、「粉砕された米粉や小麦粉で作られ、油で調理されたりあるいは窯の中だけで調理された食べ物」との説明が与えられています。ムフ・ラヴィナには、この説明に包含されない部分がありますが、米粉や小麦粉などがつなぎとして加えられていることは共通しています。パンもケーキもビスケットもあるいはこのムフ・ラヴィナも粉を用いて作られている点において、等しくムフと呼ばれるのでしょう。
 ムフ・ラヴィナは、バナナが生えている地方で広く作られています。農村ではハニン・キュッタナ(hanin-kotrana)すなわち副食ないし間食としてこのムフ・ラヴィナが食されていますし、またタクシ・ブルースで旅する人たちにとっては道中の手軽な口なぐさみとして親しまれています。ムフ・ラヴィナは冷えますと固くなりますので、道中で購入する際は、なるべくまだ熱いくらいのものを選ぶように注意してください。このムフ・ラヴィナ、マダガスカルの人びとの間のみならず台湾の先住民やフィリピン・インドネシアの人びとの間でも見られ、オーストロネシア語族の人びとに共通する食べ物のようです。バナナは、東南アジアが起源だと指摘されていますので、ゆえのないことではありません。臼と杵が無くともすり鉢と擂り粉木があれば簡単に作ることができますし、他のムフと異なり油を用いませんので、後片づけも楽です。マダガスカル人の祖先の<おやつ>の味に日本で挑戦してみてください!
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