(27)
   27秒間の集会の場における発言を求めたわけではないめいめいの会話。
 

 
(1) 「待つ」・「続く」を意味するツィミヘティ方言(Faridnonana 1977 p.23)。したがって、
ここでは「続いている問題がある」、すなわち「懸案がある」ことの意となる。
(2) フランス語のpresqueに由来する単語で、「殆どの」・「大半の」の意。
(3) 「分ける」・「区分する」の意(Richardson 1967(1885) p.72)。
(4) メリナ方言のveに相当するツィミヘティ方言における疑問文を導くための助詞。
  集会の参加者に対する問いかけの形を取ってはいるものの、ここまでのA・E・F・I・Jたちの発言の論理としては微妙な差異を含みながらもそこに共通するあたかもムラから自律し自閉した<家庭>という通奏低音に反駁するための<村長>自身の意思表示の発話であることは、次の発話との関連で明らかである。彼とても、家内的領域が存在しないと主張しているわけではない。恐らく、彼が一番反駁したい点とは、夫婦喧嘩のような形で等しく村人たちがムラという公的領域の介入を一義的に拒絶しうる家内的領域なるものを思い描くことの危うさであろう。
 
B- 5: Faharoa . Izaho tena fantatra vodin-draha tôy .
  第二に。私はこの事の結末を知っている。
Nisy horakorakan' zandriko vavy tariminy Legasy aro .
あそこのレガシの所に厄介になっていたわたしの妹が叫んだ。
ôh , voantso izahay . Satria maninona tsy nataonzareo hafa ?
私たちを呼んだわけだ。なぜ彼等は他のことをしなかったのか?
Tsy nanantso izahay . Satria raha mitôhy .
私たちを呼ばないとか。と言うのも一連の事柄だからだ。
Izahay no voalohaloha izy io(1) eh .
Fontsy(2) io . Matoy(3) izahay , maka dina tañana zaho .
私たちが現在(ムラの)先頭に立っている。それは複数だ。
私たちは頑固だ、私がムラの決まりを執行している。

Mbola hitanana ny hitaraina ?
まだ文句を(ここから先も)述べ続けるのか?
Afôdy(4) ny tañana baka izy io . Anatin'ny tanana baka trano .
今ここでムラを閉じる(て結論を出そう)。村の中に<家>は含まれる。

 
(1) izy ioは、「今」・「現在」・「その時」を意味するツィミヘティ方言(Thomas-Fattier 1982 p.306)。
(2) fôntryないしfontsyは、「沢山」・「数多くの」を意味するツィミヘティ方言(Faridanonana 1977 p.33)。
(3) matôy一語だけでは「(稲などが)熟した」を意味するが、ここではmatôy lohaすなわち「頑固な」・「言うことをきかない」の意のツィミヘティ方言(Faridanonana 1977 p.77)。ただしここでは否定的な意味あいとしてではなく、「断固としてやりとげる」意として用いられている。
(4) 「閉められた」・「閉じられた」を意味するツィミヘティ方言(Faridanonana 1977 p.32)。
ここでは、「結論を出そう」の意。
 
  夫婦喧嘩といえども常に家内的領域で処理されるわけではない具体例が、挙げられている。したがって一義的にムラから隔絶した家内的領域が存在するわけではなく、あくまでもムラと家庭とが対比される相互行為の中で両者の範域がそのつど確定されると<村長>は主張しているが、その主張が集会における大方の意見の集約としていささか強引であったことは、「含まれない」との同時発話の中に見出すことができる。
C- 6: Izahay tsy mikasika narikitry izy na tsy rikitry(1) ,
nihin'ny tañana tsy maintsy anatiny .
  私たちは、人(目撃者)が近くにいたか近くいなかったかを論じているのではなく、中に必ず含まれているムラの問題を論じているんだ。
 
(1) rikitryは「あるものが近くにある状態」を、marikitryは「近くに」を意味するツィミヘティ方言(Faridanonana 1977 p.93)。
 
  集会の場で名指しされた一人一人の起こした喧嘩や暴力行為の認定作業という事柄の性格上やむをえないにせよ、それまでの「誰がそれを目撃したのか?」否かをめぐる激しいやりとりの先行を受けて、<村長>が今一度この時の討議の主題について注意を促している。と言うのも、集会の場における人々の発言は、ともすれば自分が係わる個別の事件やもめ事の裁決の正否に帰着したからである。

 

 

 
(1) 「酔って騒ぎを起こす」・「喧嘩を引き起こそうとする」を意味するツィミヘティ方言miôlaの過去形(Faridanonana 1977 pp.84-85)。
(2) 逆接を導くツィミヘティ方言の接続詞。
 
  <村長>の、個別の喧嘩やもめ事についてではなく、ムラは<家族>や<家庭>内での事件やもめ事にどのように係わる事ができるのかという点について全般的に討議して欲しいとの要請にもかかわらず、同時発話状況を重ねながら人々が自己の発言順を確保して述べようとした事柄とは、まさに自分自身が係わる喧嘩やもめ事にムラが介入することができるか否かという個別の討議点だったようである。Uの発言は、ムラの<巡察役>によって書き留められてもおらずまた第三者による目撃も無いような喧嘩やもめ事は、家内的領域内部に留まりムラとは接合点を持たないことを主張し、自己の件に対するムラによる審理を不当と断じている。
   (20)
   20秒間の集会の場における発言を求めたわけではないめいめいの会話。
 
B-9:Izaho minenana(1) hely momba raha .
  私がそのことについてちょっと話しをします。
 
(1) 「話す」・「語る」を意味するツィミヘティ方言(Faridanonana 1977 p.83)
 
V-1:Manginagina hely , mikajia ny mifandimby .
  少し静かにしてください、相互に(発言)するように注意して下さい。
 
B- 10:Asiana momba raha izay tsy arivo(1)
tsimanaja(2) lehilay aro . Satria tsi'sy raha mapalahelo
zaho, poresoko tokan'trano anatin'trano zany .
  あそこの財産を持たない牛飼いの男性のことを加えてみてもよい。すなわち、ほとんどの<家庭>はその家の中に含まれるわけだから、私を悩ます問題ではない。
Poresoko sanany . Sanako izy io .Izany nahareny ahitako azy .
今の殆どがだ。そのように私は聞き見てきた。
Moa ve izaovy vady akany manamboatra
tokan'trano vetivety zay zany , raha ôhatra
baka fahatesaña izaovy voalohany antsôvizareo ?
そのような時とっさに<家庭>の面倒をみるのはそこの妻(以外では)誰なのか、例えば人が亡くなるということが起きた時誰が一番最初に呼ばれるのか?
Izao izaovy zany naka hery an'kafa ? Sokafo izy io.
誰が人に無理強いをしただろうか?ここで、明らかにして欲しい。
Ka ôhatra fokon'olona mandehadeha fa karotomobilo(3)
tsy vonoin'tañana hikarakara zay .
またもしムラがうまく行っていて、村が解任しない(なら)
<巡察役>がそのことを扱うだろう。

Añatiny . Añatiny tokan'trano na tôy tokan'trano tôy ,
izikoa voaomana lalana izany .
中にある。もしその決まりが既に用意されているなら、
あれこれの<家庭>の中にある。

Na hamonjy sanany ny oloña tôy , tsy ekenzareo lalana zany .
Ke tsika avelao ka fa tsy hamonjy akao ?
その決まりを認めていないあれこれの人と雖も助けるだろう。
じゃあ、わたしたちはそこで助けずに放って置けとでも?

Oa , mama(4) ne ity ary mô tsi'sy oloña tôy ?
「ああ、オジさーん(助けて)」と言った時、それでも(助ける)人はいないのか?
 
(1) ここでの arivo は、「千」の意ではなく、「数えることのできないくらい沢山」から派生した mpanarivo 「富裕者」と同じ、「裕福」の意(Richardson 1967(1885) p.67)。したがって、tsy arivo は、「富裕ではない」・「財産を持たない」の意。
(2) 牛の世話を主たる生業とする人を指すツィミヘティ方言(Faridanonana 1977 p.118)。
(3) フランス語の garde mobile <機動隊>に由来する単語で、ムラ内で喧嘩やもめ事が生じた際にそれを見届けあるいはその訴えを受け付けるムラの役職の一つを指す。
(4) 甥が母方オジに対してあるいはオジが姉妹の息子に対して呼びかける際に用いられる呼称(Faridanonana 1977 p.69)。母方オジ−甥関係には無くとも村内で男性を呼ぶ際にも、汎用される。
  <村長>が最初に言及した「あそこの財産を持たない牛飼いの男性」とは、村内に家屋と水田と牛を所有するものの農閑期以外は県庁所在地の町で生活する<家族>によって牛の世話をするために雇われている他村出身の男性とその妻と子供達のことである。彼等は、村内に居住する誰とも親−姻族関係を持たずまた自分自身の水田や畑も所有していないものの、その雇い主の空き家に住んでおり、ヴリアに出席し発言もしている。<村長>の「ほとんどの<家庭>はその家の中に含まれるわけだから、私を悩ます問題ではない」との発言は、フクヌルナの構成員の大半は村内にある家屋に住んでいるとのこのような状況を指している。その上で、個別の喧嘩やもめ事の討議や認定に際して続発した「私の<家族>以外にそれを見た人間はいないのだから、ムラとは関係ない事柄だ」とのあたかも家内的領域はムラから自閉し独立しているかのごとき発言を、<村長>は厳しく論難している。すなわち、葬式や事件などの際に人はムラの助けを求め、ムラはそれに応えて必要な援助を与えているという相互関係が日常的に確立しているにもかかわらず、自らの罰金にかかわるような問題の時だけムラとの相互関係を拒絶しようとする多くの村民の態度に対して、<村長>が声を荒立てたのである。このような家内的領域と公的領域との相互関係を断絶する制裁が正に<ムラ八分>であり、そこにおいてはムラが<ムラ八分>の対象とされている誰かに罰金を科すこともない代わりに、ムラはまた葬式や火事や泥棒などの際してもそれらの人々を助けることもないのである。ムラからの援助や救済は当然視しながら、自分の<家庭>や<家族>については「私ごとであること」による秘匿性を楯にムラによる罰金認定の討議を回避しようとするこれらの村人の態度は、先に「私たちは頑固だ、私がムラの決まりを執行している」とまで公言したこの当時の<村長>の性格に照らせば、到底容認し難いものであった。

 
  上記の<村長>の発言にもかかわらず、ここで再び討議事項はWによって個別の事件の認定へと引き戻される。Wの発言によって今度は自分たちが集会の討議の俎上にのぼることを恐れた女性Xは、すぐさま同時発話を重ねてその討議を拒否している。<村長>が、一番嫌った図式の再来に他ならない。
 

 
(1) mahazo tañana mafy は、mahazo olan-tanana 「悪事を行っているところを連行する」(Richardson 1967(1885) p.457)と同じ意味で、ここでは「捕まる」の意。
(2) ritra は、「蒸発する」・「乾上がる」・「破壊される」を意味する(Richardson 1967(1885) p.520)が、ここでは「とことん」・「繰り返し」の意。
(3) ここでの miditra は、「難しい問題に係わる」(Rajaonarimanana 1995 p.153)の意。
 
   WとXの発言に対する<村長>の怒りの感情を、表記には表れない早口の喋りとW−2の発話を遮ったことと途中二回の言いよどみとが、あからさまに物語っている。また、その感情は、「何かあったら<村長>に訴えて頼ってくるのに」との発話内容そのものにも噴出している。
Y-1:Ary zôvy tratrana nanditra ny resaka
tsy nahita amin-draha trano ?
  では<家>の問題で目撃されていない話の間は誰が捕まるというのか?
Amin'bar(1) zany mbola zany koa .
バーでのことも、まだそれと同じだ。
 
(1) 村内にあるサトウキビの発酵酒(betsa)を飲ませる酒場を指す。
 
  この集会の場における<村長>以外の発言者のムラと家内的領域を巡る関係についての基調意見は、「家族以外に目撃者のいないもめ事や喧嘩などは、<家族>の問題であってムラは扱うべきではない」というものであった。そこにさらに、Yは「バーの内部という当事者以外に目撃者がいない場所で起きた事件もそれと同様であり、ムラの裁定にはなじまない」との新たな意見を、すべり込ませようとしている。ここにおいて家内的領域は、もめ事の当事者同士とそれを目撃する第三者という外部の視線としての公的領域との対比の構図に置き換えられ、もはや内部の成員同士の親−姻族関係の有無などは顧慮の外である。
前のページへ 9 次のページへ
このウィンドウを閉じる