■プロジェクトの概要
地域研究による「人間の安全保障学」の構築プロジェクトは、日本学術
振興会「人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業」の研究領域II(グローバル化時代における多様な価値観を持つ社会の共生を図るシステムについて研究する領域)(1)「平和構築に向けた知の再編」プロジェクトのうちのコア研究の一つです。他のコア研究には「ジェノサイド研究」の展開および「アメリカ研究」の再編があり、三者が協力して研究事業を進めています。詳細については日本学術振興会の該当ページをご覧ください。また、地域研究による「人間の安全保障学」の構築プロジェクトは、「地域研究コンソーシアム」の研究プロジェクトの一つとしても位置付けられています。本コンソーシアムの詳細についてはこちらのページをご覧ください。
■プロジェクトの趣旨 黒木英充(プロジェクトリーダー・東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)
国家、民族・宗教宗派、個人の諸位相において政治的暴力の発生をいかに抑止し、人類の破滅を招来しないためにいかなる安定した安全保障の枠組を創出するか、という課題は、今日の人文・社会科学研究者にとって喫緊の取り組みを要するものです。
冷戦終結後、世界各地の民族・宗教宗派問題は以前よりもいっそう先鋭化して、様々な地域紛争の形態をとって激発してきました。また政治的暴力の発現形態も多様化・劇場化してきました。この状況に対する人々の危機感・焦燥感が強まるにつれ、「文明の衝突」的な議論がしばしば政治的操作を受けて喧伝されるようになりました。同時に、個々の地域紛争の原因を客観的かつ冷静に究明する視点が弱まってきたようです。
こうしたなか、1994年に国連開発計画が「人間の安全保障」Human Securityの概念を提唱しました。これは従来の「国家の安全保障」National Securityを相対化して、個人レベルの安全を重視する視点を導入した点で画期的でした。以後国連のみならず、日本国内の研究機関も「人間の安全保障」をキーワードとして定着させるほどに多様な活動を展開してきました。開発援助の方法の再考を促したり、医療など人道援助をとりまく問題点を指摘したり、人権思想の流れのなかに「人間の安全保障」を位置づけたりする成果を挙げてきました。
しかし、世界各地における紛争・共存様態のダイナミズムを、現地の社会的・文化的な文脈のなかで位置づけて、一定の時間的スパンのなかで分析し、解釈し、現在進行中の事態に対応できるような「現地の知」を導出する研究は、依然として欠落したままだと言わざるをえません。パワーゲーム的な視点からのみ語られる国際政治学の言説と、現場で緊急事態に対応する政府機関やNGOの意思決定の間で大きな懸隔が埋められないままなのです。
このプロジェクトは、問題に応じて自在に(時間軸も含めた四次元的)空間を設定し、マルチ・ディシプリンをもって機動的に取り組む「地域研究」により、上記の欠落と懸隔を埋めるだけでなく、21世紀の人類にとってかけがえのない価値をもつ「人間の安全保障」を、学的な体系として新たに打ち立てることを、最終的な目標として設定します。
必然的に、関連する人文・社会科学、自然科学の多様な研究者を巻き込むことになりますが、従来ともすれば細分化された「ディシプリン」や「地域」のなかで充足しがちだった研究者が、総合的で通地域的な視野を獲得し、同時に現地感覚に根ざして幅広い経験・知識に裏打ちされた発言・政策提言を可能にする効果が期待されます。
またグローバル化が進む現代世界においては、地球上のある場所で発生する紛争が急速に遠隔地に影響を及ぼします。空間的には遠い世界で起こったことがすぐに私たちの身の回りの問題につながってきます。逆に、私たちの身近な出来事が、今まで想像もしなかったような領域に波及するようなことも起こります。その意味で、「人間の安全保障」は個人の身体のレベルから、生活空間、国家、超国家的領域、地球全体にまで広がる、無限の「地域」のレベルで問題にすべきことなのかもしれません。
誰もが我が事として、常に曝される問題として「人間の安全保障」を考えることができるよう、映像メディアも視野に入れた効果的な対社会発信を心がけるつもりです。
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■研究メンバー(平成18年度) 過去の年度のメンバーはこちらをご覧下さい。
地域研究による「人間の安全保障学」の構築プロジェクトのメンバーは、下記の25名です。(五十音順、敬称略)
阿部 健一 |
京都大学地域研究統合情報センター |
助教授 |
飯島 みどり |
立教大学法学部 |
助教授 |
飯塚 正人 |
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 |
助教授 |
井坂 理穂 |
東京大学大学院総合文化研究科 |
助教授 |
石井 正子 |
京都大学地域研究統合情報センター |
助手 |
岩下 明裕 |
北海道大学スラブ研究センター |
教授 |
臼杵 陽 |
日本女子大学文学部 |
教授 |
宇山 智彦 |
北海道大学スラブ研究センター |
助教授 |
帯谷 知可 |
京都大学地域研究統合情報センター |
助教授 |
栗本 英世 |
大阪大学大学院人間科学研究科 |
教授 |
黒木 英充 |
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 |
教授 |
黒崎 卓 |
一橋大学経済研究所 |
助教授 |
河野 泰之 |
京都大学東南アジア研究所 |
教授 |
小林 誠 |
立命館大学国際関係学部 |
教授 |
酒井 啓子 |
東京外国語大学大学院地域文化研究科 |
教授 |
佐原 徹哉 |
明治大学政治経済学部 |
助教授 |
床呂 郁哉 |
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 |
助教授 |
土佐 弘之 |
神戸大学大学院国際協力研究科 |
教授 |
永原 陽子 |
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 |
助教授 |
真島 一郎 |
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 |
助教授 |
松永 泰行 |
同志社大学一神教学際研究センター |
客員フェロー |
松野 明久 |
大阪外国語大学外国語学部 |
教授 |
松林 公蔵 |
京都大学東南アジア研究所 |
教授 |
山岸 智子 |
明治大学政治経済学部 |
助教授 |
山根 聡 |
大阪外国語大学外国語学部 |
助教授 |
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■関連プロジェクト
関連プロジェクトとして、「ジェノサイド研究」の展開および「アメリカ研究」の再編があります。
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