■「小児錦」文字資料コーパス構築へむけた資料集とデジタル化
 ■Corpus of Xiao-Er-Jin Script of Muslim Chinese: Collection and Digitalization
 ■代表者: 町田和彦

「小児錦(Xiao-er-jin)」は16世紀中頃より、中国回民の経堂教育(マスジドにおけるイスラーム経典教育)において発達した、アラビア文字を用いた漢語の表記法である。漢語の発音をアラビア語の字母を用いて表したもので、本来は経典の注釈などに用いられた。経堂教育の発達以降、この教育を受けた回民の間に広まり、日常生活における記録、通信等に用いられるようになった。口語を表記したものであるため、中国各地の方言が反映される場合が多い。現代においても、寧夏、青海、甘肅などで少数ながら使用例が見られる。また回族によるコーランの出版事業の際にはアラビア語、中国語訳とあわせて小児錦訳が掲載されていることも少なくない。当研究プロジェクトではこの「小児錦」を中心にすえ、周縁的なアラビア文字の世界を研究対象として取り上げる。
 
アラビア文字文化と漢字文化の中間にあってユニークな価値をもつ「小児錦」文字文化については、その存在と文字文化研究のうえでの重要性が中国の研究者からたびたび指摘されてきてはいたが、今日まで本格的な研究は行われていない。
 よって本研究プロジェクトでは、将来の本格研究の基盤作りとして、この「小児錦」の資料(写本、刊本、碑文の画像その他)を可能な限り収集し、収集資料を整理しデータベースを構築するとともに、資料本体をデジタル化して「小児錦」の文字資料コーパスを構築することを目的とする。 前述の通り、「小児錦」は本来イスラーム経典教育に用いられた文字であり、印刷された資料の多くはイスラーム経典である。これは「文字による聖典と注釈のコーパス構築」というGICASの研究計画に沿うものである。中国イスラーム文化研究、中国言語文化研究、アラビア文字文化研究という複数の研究領域に関わる資料群を組織的に収集し、webで提供することの意義は大きい。また当文字資料コーパスの構築と公開は当事者である中国第二の少数民族回族(人口900万人弱)の文字文化振興にも寄与するものであり、当民族の「デジタル・デヴァイド」解消への貢献ともなりうる。


「小児錦」の一例。上段は漢語、中段はアラビア語、そして下段が「小児錦」である。
李殿君『中阿双解字典』(上海,1955年)部分。

 メンバー
研究代表者 町田和彦
研究協力者 安藤潤一郎、王建新、黒岩高、佐藤実、菅原純、吉澤誠一郎 
 
2001年度の活動
本格研究の準備として、以下に挙げる活動を行った。
(1)国内での関連資料の収集: 個人所蔵の小児錦テキストの複写物を入手
(2)収集資料の整理・デジタル化と公開: (1)の資料デジタル化を外注(→参照サイト)
(3)海外予備調査(中国西北部):3月に2名派遣。予備調査として現地インフォーマントからの聞き取り調査。資料収集を実施。
 
2002年度の活動
(1)収集資料の整理
(2)研究ワークショップ「中国におけるアラビア文字文化の諸相」の開催(10月)
(3)海外調査(中国沿海部・西北部−夏期)
(4)報告書『中国におけるアラビア文字文化の諸相』(町田ほか編、AA研)の出版発行
 
2003年度の活動予定
(1)収集資料の整理・デジタル化と公開
(2)収集資料研究会の開催(2-3回)
(3)研究ワークショップ「周縁アラビア文字文化の世界」(仮題)の開催
(4)報告書『アジア文字アラベスク』(仮題)の出版発行

(5)海外調査(中国、中央アジア、欧州)
 
「小児錦」プロジェクトのページ(インデックス)
プロジェクト収集文献リスト
・研究ワークショップ「中国におけるアラビア文字文化の諸相」-comming soon
調査報告(1)「小児錦についての基礎的知識と今後の展望」(黒岩高・安藤潤一郎)
調査報告(2)「広東回族のイスラム文字文化と寺院教育」(王建新)
調査報告(3)「2002年夏調査報告」(黒岩高)-comming soon
最終更新日:2003.4.10
e-mail: kmach@aa.tufs.ac.jp

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