2.4. 世帯数
   この節では世帯数の動向を扱うが、ここで「世帯」というのは、かまどを共にする人々のまとまりを指す。それは一般的には日常生活の共同体として捉えられるが、移行的な局面では、それぞれの機能を中心として設定しうる社会単位と食い違う場合がある。この3社会では相続形態はいずれも男子間の均分相続が普通であり、たとえば、世帯が分かれる場合には家の建物も土地も儀礼に関する権利なども均等に分けられるのが原則である。世帯分かれした場合、日常生活のうちの食事に関する事柄はまず別になっても、土地を含む財産分けが遅くなったり、儀礼単位としての分割が何年も延びたりすることもある。以下で世帯を数える場合、ずれがあったとしても、かまどが別になっていれば別世帯として扱うこととする。

 

2.4.1. S村(ネワール)のカースト別世帯数の動態

S村 カースト別世帯数の推移 (1970〜1996)
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  シェショやジャプといった世帯数の多いカーストほど増加が顕著で、世帯数の少ないカーストでは、ほとんど伸びは見られないという点は、S村の人口についてすでに上記において指摘したが、世帯数の場合には同様の傾向がより顕著な形で見られる。このようなカースト差は核家族化等の世帯形態の動きと関わるが、それは以下の「世帯形態」を扱う節で検討する。なお、一時的居住者は1984年から1996年に至る間に急激に増えているが、これは80年代半ばの工場(複数)の進出による流入人口(出稼ぎ労働者)の増加による。その多くは単身者または友人との同居であるが、ここでは上に述べたことに従い「かまど」の単位をもって世帯としておくことにする。

 

2.4.2. B村(パルバテ・ヒンドゥー)のカースト別世帯数の動態

B村 カースト別世帯数の推移
 

 

 

  このB村では、S村と異なり、人口の増え方よりも世帯数の増え方の方が率としては低い。言い換えれば人口が増えてもそれに比例して世帯は増えていないということになり、平均すれば世帯内の人口が多くなっていることが予測される。この点はすぐ後に具体的に示すが、村としての人口支持力が高まり、実際に人口が増加しているときに現れている局面であり、流動している事態の一側面が示されているものである。

 

2.4.3. G村(ミティラー)の世帯数の動態


G村 カースト別世帯数の推移
 

 

 

 G村では、他のカーストに比べてタトマー・カーストの世帯数の増加が目に付く。ブラーマンもまたその人口の増加に比べれば世帯数の増加の程度の方が高い。一方、カーヤスタの場合には人口は1996年に至るまでに減少したことを見たが、世帯数は増えている。

 人口および世帯数の動きを以上のように3つの村で見てみると、必ずしも人口増加と世帯数増加が同じ方向に向くわけではないことがわかる。当然のことながら、世帯のあり方には居住条件が関連し、また経済状態や近親者の人間関係等々も反映される。一般的によくいわれる核家族化というような現象も、上のようなデータから考えると、そう簡単な問題ではないと思われる。その点をさらに明らかにするために、以下、世帯員数および世帯形態について検討してみる。

 

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