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ワ・ランチャル

〜師の教えを守った青年〜

 

ワ・ランチャルは一人の貧しい青年です。しかし、彼はできるだけたくさんの教養を身につけるために勉強をしたいと思っていました。彼は特に宗教学を学びたいと思っていました。ワ・ランチャルの父親はすでにこの世を去り、母親も学費を払えるほどの収入はなかったので、彼は、十分な収入のある家の子の友達のようには、学校で勉強をすることが出来ませんでした。しかし、ワ・ランチャルはあきらめませんでした。彼は、授業料なしで勉強を教えてくれる先生を探そうとしました。ついに彼はひとりの先生を見つけました。その先生は、ワ・ランチャルに、先生のところで働くことを条件に勉強を教えてあげよう、と言いました。

かなり長い期間、先生のところで働いたのですが、ワ・ランチャルが得た教えはたったのひとつでした。その教えは、「腹がすいたら、何も食べるな。」というものでした。それだけでは物足りなく思い、ワ・ランチャルは、別の先生を探し始めました。

しばらくして、ワ・ランチャルは2番目の先生を見つけました。その先生も、最初の先生と同じ条件でワ・ランチャルに勉強を教えようと言いました。かなりの時間がたったのですが、その先生も教えてくれたことはたったの一つでした。その教えは、「歩きつかれたら、休め。」というものでした。やはり、それでは満足できず、ワ・ランチャルはまた別の先生を探しました。

3番目の先生も、これまでの二人の先生と同じでした。ワ・ランチャルは一つの教えしか得ることが出来ませんでした。その教えは、「石を持て、ナイフを持て、鋭く研げ。」というものでした。このような状況なので、ワ・ランチャルはこの先生のところで勉強するのも止めてしまいました。ワ・ランチャルは、3人の先生の態度にはがっかりしていましたが、しかし、3人の先生から得た教えは常に心にとめておきました。

ワ・ランチャルは、まだできるだけたくさんの知識を得たいと思っていたので、彼は、宗教学を勉強してもう学校を卒業した彼の友達に勉強を習い始めました。友達から宗教学についていろいろな知識を得ると、ワ・ランチャルはよその土地へ出稼ぎに行くことにしました。目的は、さらに多くの知識を得ることでした。

ひとつの王国につくと、ワ・ランチャルはその王国のモスクに置いてくれるよう、許可を願い出ました。そして、許可が下りると、ワ・ランチャルはそのモスクに住みました。彼は、毎日、その礼拝堂ですべての雑用をこなしました。暇なとき、ワ・ランチャルは、そのモスクでコーランを勉強している子供達に勉強を教えました。ワ・ランチャルにつく生徒の数は、しだいに多くなってきました。そして、彼は、親切でとても優秀なコーランの教師であると評判になりました。

それをねたみ、ワ・ランチャルに対抗意識を感じる教師もいたようでした。その教師は、その国の国王に、ワ・ランチャルは生徒達を間違った方向へ導くような教えを説いていると訴えました。国王は、ワ・ランチャルを捕らえるよう命じました。彼は罰を受けることになりました。その罰とは、その国を治める国王の娘と結婚することでした。その王の娘は何度も結婚しましたが、結婚するといつも、まもなく夫が突然死んでしまうのでした。そのため、彼女と結婚しようという男性はもういませんでした。

ワ・ランチャルは、王の娘と結婚させられると、他の何人かの人とともに宴会の席に招かれました。その宴会の席にはワ・ランチャルを王に訴えた人もいました。食事が準備されると、ワ・ランチャルは突然空腹感をおぼえました。そして、彼は、「腹が減ったら、食べるな」という先生の教えを思い出しました。その教えに従って、ワ・ランチャルは食事をとるのをやめました。ワ・ランチャルに分けられるはずだった料理は彼の隣に座った人に分けられました。

食事がすむと、ワ・ランチャルの分の料理をもらった人が突然腹痛をおこしました。そして、まもなくその人は死にました。その人が食べたワ・ランチャルの分の食事には毒がもられていたようでした。以前、国王にワ・ランチャルの悪い噂を流した人が毒をもったのでした。しかし、彼が毒をもったことは誰も知りませんでした。ワ・ランチャル自身も、その人が国王にワ・ランチャルの悪い噂を流したせいで自分が捕らえられ罰を受けることになってしまったのだ、ということを知りませんでした。

その出来事のあと、そのワ・ランチャルを国王に訴えた人がワ・ランチャルのもとを訪れました。彼は、一人の護衛官を連れてきて、ワ・ランチャルに、川へ黒い石を取りに行くようにとの国王からの命令を伝えに来た、と言いました。ワ・ランチャルは、護衛官に付き添われ、川へ向けて出発しました。川へ行く途中で、ワ・ランチャルはとても疲れてしまいました。そこで、彼は、「歩き疲れたら、休め」という前に習った先生からの教えを思いだし、立ち止まって休みました。護衛官には、そのまま歩きつづけるよう言いつけました。護衛官は、しばらく歩きつづけると、突然、痛みにもだえるような叫び声をあげ、血まみれになって、地面に倒れました。まもなく、彼は死にました。彼は、前にワ・ランチャルを訴えた人が仕掛けたわなにかかってしまったのでした。

ワ・ランチャルが宮殿に戻ったのは、もう夜だったので、彼は黒い石を王の所へは持っていきませんでした。その石は明日、王に渡すことにしました。それから、彼は、今は彼の妻になった王の娘の部屋に行きました。姫はベッドの上でもう寝ていました。彼は、眠っている姫を起こしてしまってはいけないと思い、静かに姫の寝ているベッドに座りました。ポケットの中の黒い石が邪魔だったので、ポケットの中から取り出しました。すると、彼は「石を持て、ナイフを持て、そして鋭く研げ」という教えをふと思いだしたので、腰にさしてあったナイフを抜いて、黒い石を持ってナイフを研ぎました。ワ・ランチャルがナイフを研ぎ終わると、彼は、そばで寝ている姫の足の間から1匹の白いムカデが出てくるのを見つけました。ムカデに噛まれる前に彼は手に持っていた鋭く研がれたナイフで、すばやくそのムカデを殺しました。そのムカデは、姫を守る番人だったようでした。その白いムカデが、彼女のこれまでの夫すべてを殺していたのです。そのムカデが死んだことで、姫は、その危険な番人から解放されたのでした。その後、姫とワ・ランチャルとの結婚式は盛大に祝われました。

 


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