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プトリ・アユ

〜空までとどく宮殿〜

 

ソロのジョヨクスモ王子は、偉大な神学者でした。本来なら、彼は王になることもできたのですが、王になるよりも神学者になることに魅力を感じていました。そして、彼は王位継承権を弟のスチプトクスモに譲りました。

そのことに反対する国民の怒りから逃れるため、彼と妻は生まれ故郷の土地を離れ、二人で、行く当てもなく、さまよい歩きました。

ジョヨクスモ王子は、竹でいかだを作りました。彼らは一羽のガチョウを連れていかだに乗りこみました。そのガチョウは、彼らが上陸する場所を決めるのに使うのです。つまり、ガチョウを陸に放し、ガチョウがその場所で止まったら、ジョヨクスモたちも上陸し、そこで暮らそうというのです。

神のご加護もあって、ジョヨクスモ王子は無事にいかだの旅を終わらせ、のちにジャンビという名で知られるようになる場所に上陸することになりました。ジョヨクスモ王子が上陸した土地は「タナ・ピリ(選ばれた土地)」と名付けられました。いかだに乗っている間、王子は、将来、新しい定住の地にモスクを建て、そこに住むと宣言していました。

タナ・ピリに住んで数年後、ジョヨクスモ王子には三人の子供ができました。一番上の子はプトリ・アユ・ピナン・マサックという名前の女の子でした。彼女は後にプトリ・アユという名で知られるようになります。その下の子は二人とも男の子でした。

プトリ・アユ(「美しい娘」の意味)は、その名の通りとても顔立ちのよいきれいな娘でした。彼女を見る人は皆、彼女の虜でした。彼女の美しさは地域中で知られるようになりました。たくさんの王の息子達が彼女にプロポーズしに来ました。中には中国から来た王子もいました。彼の名前は、タン・エン・ライです。プトリ・アユは、空にとどくほどの高さの宮殿を建てるという条件で彼のプロポーズを承諾しました。その宮殿は、一晩で、おんどりが朝を告げる前までに建てなければいけませんでした。

タン・エン・ライはその条件を受けました。夜になると、タン・エン・ライは、袖をまくり、魔法を使って宮殿を建て始めました。魔法を使ったおかげで、夜明け前に宮殿はほとんどできあがっていました。プトリ・アユの父は、中国人の王子を婿にしたくないと思っていたので、それを見てとても慌てました。

そのためジョヨクスモは、魔法を使って、日が昇るのを早めてしまいました。そして、宮殿が出来あがる前に夜が明けてしまいました。まだ夜が明ける時間ではないのですが、辺りが明るくなったのに騙されて、雄鶏もコケコッコと朝を告げてしまいました。そのため、タン・エン・ライのプロポーズは丁重に断られました。

タン・エン・ライ王子はくやしくて、頭にきて、そのつくりかけの宮殿をめちゃくちゃに壊してしまいました。そして、彼はジャンビを後にしました。

プトリ・アユは実はタン・エン・ライのことが好きだったので、父の忠告に従って条件を付けたことを後悔していました。その後、プトリ・アユは病に倒れ、しばらくして、この世を去りました。彼女はタナ・ピリに埋葬されました。

その宮殿の廃墟は今でもジャンビの河口付近に、タン・タラナイという名前で残っています。この物語は19世紀ごろにおこった話です。

 


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