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トゥンガル・パナルアンの杖

〜木に飲み込まれた双子〜

 

双子の子供をもつ一人の王がいました。一人は男の子で、もう一人は女の子でした。男の子のほうにはアジ・ドンダ・ハタフタン、その妹にはタピ・ラジャ・ナ・ウアサンという名前がつけられました。小さい頃から青年になるまで、二人の関係は親密で愛情に満ちていました。そのため、彼らの両親は、二人が一線を越えて恥辱的な行為をしてしまうのではないかと心配しました。そのようなことのないように、二人は引き離されてしまいました。

王は、アジ・ドンダ・ハタフタンには知らせないで、彼の妹タピ・ラジャ・ナ・ウアサンに遠い所へ行くよう命じました。彼女が二度と兄に会えないようにと、タピ・ラジャ・ナ・ウアサンは、その遠い場所に置いていかれ、そこで彼女の母親の家族とともに暮らしました。

アジ・ドンダ・ハタフタンが、彼のとてもかわいがっている妹を探しに行ってしまわないようにと、彼には、タピ・ラジャ・ナ・ウアサンはもう死んだと伝えられました。しかし、妹の墓を見せてもらえなかったので、彼は、妹のタピ・ラジャ・ナ・ウアサンが死んだということを信じませんでした。あらゆる手段を用いてアジ・ドンダ・ハタフタンは妹を見つけようとしました。そして、彼は、ついに、妹が隠されている場所を突き止めました。そして、アジ・ドンダ・ハタフタンは、妹を連れだし、二度と引き離されてしまうことのないよう、二人で森の中へ逃げ込みました。

その静かな森の奥深くで、アジ・ドンダ・ハタフタンと妹のタピ・ラジャ・ナ・ウアサンは、恥辱的な関係をもってしまいました。そのあとで、アジ・ドンダ・ハタフタンは果物を探しに行きました。彼は果物がたわわに実った一本の木を見つけました。アジ・ドンダ・ハタフタンはその実をとろうとその木にかけ登りました。しかし、上まで登ると、その木は彼の体を呑み込んでしまったのでした。呑み込まれずに済んだのは顔だけで、顔が幹から飛び出したようになってしまいました。アジ・ドンダ・ハタフタンは助けを求めて叫びました。その叫び声を聞いて、妹のタピ・ラジャ・ナ・ウアサンが愛犬をと一緒にやってきました。その木にくっついてしまった兄を見て、タピ・ラジャ・ナ・ウアサンはすぐに彼を助けようと木に登りました。しかし、上まで登ると、タピ・ラジャ・ナ・ウアサンもその木に呑まれてしまいました。それを見て、彼女のかわいがっていた犬も木に飛びつきましたが、やはりその木に呑まれてしましました。

アジ・ドンダ・ハタフタンの父は、しばらくあちこち探し回った後、アジ・ドンダ・ハタフタンと妹と彼女の愛犬が、頭だけ残して木に呑まれた状態で、死んだようになっているのを見つけました。それを見て、その二人の子供を救おうと、アジ・ドンダ・ハタフタンの父はすぐにダトゥと呼ばれる超自然力をもつ呪術師を探しました。何人かのダトゥがやってきました。超自然力をつかって、ダトゥたちはアジ・ドンダ・ハタフタンと妹のタピ・ラジャ・ナ・ウアサンを助けようとしました。しかし誰も成功しませんでした。逆にダトゥたちは全員、その木に呑まれてしまいました。

国王であるアジ・ドンダ・ハタフタンの父は、その双子の子供達を助けるために、また一番強い超能力をもつダトゥを探すよう命令しました。そして、ダトゥ・シ・タボ・ディバナナという名の並外れた超能力を持つ一人のダトゥがやってきました。そのダトゥはすぐに念入りに調査をしました。そして、そのダトゥは、国王であるアジ・ドンダ・ハタフタンの父に、その木に呑まれてしまった者たち、神の力によって生命を奪われてしまっているので、もう生き返らせることはできない、と言いました。そのダトゥによれば、彼らの死は突然だったので、彼らの顔には、敵を恐れさせる不思議な力があるとのことでした。ダトゥ・シ・タボ・ディバナナは、また、国王に、その木を切って一本の杖にするよう提言しました。その杖には、その木に呑まれて死んだ人すべての顔を彫り、また、同様にその木に呑まれて死んだアジ・ドンダ・ハタフタンの犬の顔も彫るのです。そうして作る杖は、魔法の杖となるのです。その杖の魔法の力は、すべての敵を追い放い、長い乾季には雨を降らせることもできるでしょう。

その後、その木は切り倒されました。そして、上から下まで彫刻が施された一本の杖が作られました。その彫刻は、アジ・ドンダ・ハタフタン、タピ・ラジャ・ナ・ウアサン、他の一人の女性、四人のダトゥ、一匹の犬、そして一匹の爬虫類が彫られていました。

彫刻が施されると、その杖はアジ・ドンダ・ハタフタンの両親の住む村に持って帰られました。その後、いけにえとして、一頭の牛が屠殺され、儀式が行われました。その儀式は、後にトゥンガル・パナルアンと名づけられたその魔法の杖をあがめるために行われたものでした。

その後の時代、アジ・ドンダ・ハタフタンの父がおさめる国に襲来する敵はすべて、魔法の杖、トゥンガル・パナルアンを使うことで、簡単に追い返すことができました。敵は、その杖に彫られた人間の顔を見て恐くて逃げてしまうのです。また、トゥンガル・パナルアンの杖は、長い乾季が到来するたびに、雨降らしに用いられました。そうして、農民達は、乾季にも水不足に悩まされることがなくなったのでした。

 


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