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トゥアン・ソルマリアット

〜叔父を踏み台にした王子〜 

 

トゥアン・ソルマリアットは、トゥアン・ラハット・ディパネイ王とその妃のロンガフニン王妃の息子です。トゥアン・ソルマリアットがまだ青年の頃、彼の父親であるトゥアン・ラハット・ディパネイ王はこの世を去りました。トゥアン・ソルマリアットがまだ王位に就くことができなかったので、彼の叔父つまり父の弟のトゥアン・ラハット・マナンダルが暫定的に王位に就きました。
トゥアン・ラハット・マナンダルは、心の中で、このままずっと王位を占めていたいと思っていました。そのため、彼はトゥアン・ソルマリアットを殺害する方法をあれこれ考えました。その計画を実行するために、彼は一人の呪術師と共謀しました。
ある日、トゥアン・ラハット・マナンダルは仮病をつかって往診にその呪術師を呼びました。呪術師は、トゥアン・ソルマリアットに、「叔父の病気を治療には毒蛇が温めている卵が必要だ。叔父様の病気を治したいのなら、毒蛇の卵を取ってきなさい」と言いました。呪術師は、トゥアン・ソルマリアットが毒蛇にかみ殺されることを企んで、そう言ったのですが、何も知らないトゥアン・ソルマリアットは森の中へ毒蛇の卵を探しに出かけました。
森の中に着くと、トゥアン・ソルマリアットは、卵を温めている毒蛇から卵を奪ったら、蛇に噛まれてしまうのではないかと怖くなって、座って泣きじゃくっていました。突然、彼の目の前に一人のおじいさんが現れました。その老人はトゥアン・ソルマリアットにヘビを手なづけるための呪文を教えました。その呪文を唱えて、トゥアン・ソルマリアットは、毒蛇に噛まれることなく、毒蛇の卵を手に入れることに成功しました。そして、その毒蛇の卵を持ちかえって呪術師に渡しました。
その毒蛇の卵で治療を施しましたが、叔父の病気はまだ治りませんでした。そして、呪術師は言いました。「トゥアン・ソルマリアット、叔父様の病気を治すには、別の薬を与えなければなりません。叔父様の病気を治したいのなら、トラの尻尾についた糞を取ってきなさい。」
トゥアン・ソルマリアットは、叔父の病気を早く治してあげたかったので、トラの糞を探しに森の中へ行きました。森の中に着くと、前に彼を助けてくれたおじいさんが現れました。その老人は、彼にトラが襲いかかってこないようにする呪文を教えました。その呪文を使って、トゥアン・ソルマリアットは、尻尾についたトラの糞を取るのに成功しました。そして、それを持って帰り、呪術師に渡しました。その薬を与えても、叔父の病気はまだ治りませんでした。
叔父は、間接的にトゥアン・ソルマリアットを殺すために、病気がまだ治っていないふりをしていたのです。しかし、神聖な力をもつ老人のせいで、叔父の邪悪な計画はどれも成功しませんでした。そのため、トゥアン・ラハット・マナンダルは、トゥアン・ソルマリアットを騙して、深い谷底に突き落としてしまいました。トゥアン・ソルマリアットを谷に突き落とすと、トゥアン・ラハット・マナンダルは、トゥアン・ソルマリアットはもう死んだと思いこんで、安心しました。
しかし、実はトゥアン・ソルマリアットは無事でした。彼は谷底で、文字の書かれた7本の竹を見つけました。その7本の竹には、病気の治療法、占いの方法、死者の魂を呼び出す方法、そして慣習に関する指示などが書かれていました。トゥアン・ソルマリアットはそれらを木の皮に書き写しました。
そして、トゥアン・ソルマリアットは、その谷から出て、ある王国に到着しました。偶然にも、そこの王国のトゥアン・バタン・トル王は病気を患っていました。トゥアン・ソルマリアットの治療で、その王の病気は治りました。そのため、その功績にこたえるため、トゥアン・ソルマリアットは、婿養子としてその王の家族に迎えられました。婿養子として、トゥアン・ソルマリアットは王の7人の娘の中から相手を選ばなければならなかったのですが、トゥアン・ソルマリアット自身は、トゥアン・バタン・トル王の娘を嫁にするのが嫌でした。
トゥアン・バタン・トルの王国に滞在中、トゥアン・ソルマリアットはよく王の犬を連れて狩りに出かけました。ある日、トゥアン・ソルマリアットが犬と狩りに出かけたとき、犬が彼の生まれ故郷の国へ通じる道を見つけました。そして、トゥアン・ソルマリアットはこっそりと宮殿に入りました。トゥアン・ソルマリアットは母親に会いましたが、そのまま宮殿に戻るつもりはありませんでした。彼は母親に、「母上、わたくしは叔父がわたくしが宮殿へ上がるための踏み台になる用意があるのでなければ、宮殿に戻るつもりはありません。」とだけ言いました。
トゥアン・ソルマリアットがトゥアン・バタン・トル王の国に戻った後、プトリ・ロンガフニンがトゥアン・ソルマリアットの要求をトゥアン・ラハット・マナンダルに伝えました。トゥアン・ラハット・マナンダルは恐ろしくなって、トゥアン・ソルマリアットの言う通りにすると言いました。トゥアン・ソルマリアットが宮殿に戻るときには、慣習にのっとった歓迎の儀式を行うことにしました。
トゥアン・ソルマリアットと再会して、母親は、彼の叔父が彼の言うとおりにすると言っていたことを伝えました。また、彼が宮殿に戻ってくるときには伝統儀式で迎えられるということも伝えました。そして、彼らはトゥアン・ソルマリアットが宮殿に戻る日を決めました。
その日がきて、トゥアン・ソルマリアットがやってきました。住民は喜んで彼の帰郷を迎えました。宮殿へ上がる階段の近くでトゥアン・ラハット・マナンダルは不安な気持ちで待っていました。宮殿への階段を上がるとき、トゥアン・ソルマリアットはトゥアン・ラハット・マナンダルの体を踏んで上がりました。トゥアン・ラハット・マナンダルはその場で死に、彼の遺体は宮殿の階段の下に埋められました。昔のシマルングンの人々の信仰によると、トゥアン・ラハット・マナンダルの魂は、ベグ・ニ・アンダルという名の宮殿の階段の番人になったそうです。
トゥアン・ソルマリアットが宮殿に戻って1ヶ月後、彼が王に就任するための儀式が行われました。彼は、国王になりました。彼はその国の国王であると同じに最高の呪術師でもありました。彼は様々な超自然の教えを身につけていたからです。彼はその超自然の力を使って、黒魔術を解いたり、病気の治療をしたりすることができました。また、トゥアン・ソルマリアットは、住民達から様々な質問や相談を受けました。彼が谷で見つけた文字の書かれた竹から、役に立ついろいろな知識や慣習の教え、また法律についての知識を得ていたからです。

そしてその後、トゥアン・ソルマリアットは、一人の娘を妃に選びました。トゥアン・ソルマリアットの結婚を祝う儀式は大々的に慣習にのっとって行われました。

 


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