<スマトラの昔話> 前のお話 次のお話

サリオト

   〜妻との誓いを破った夫〜

 

昔々、サリオトという名の一人の青年がいました。彼は、ある村に母親と二人で住んでいました。父親はサリオトがまだ幼かった頃すでに亡くなっていました。サリオトの仕事は畑仕事とルカという道具を使っての魚釣りでした。

サリオトは魚釣り用のルカを夕方、畑仕事から帰ってきた後、川に沈めます。そして、翌日早朝、畑に行く前にルカを調べます。そして、さかながかかっていたら、その魚をもって家に帰り、食事用に母親に調理してもらっていました。サリオトの日常はこのようなものでした。

ある朝、サリオトが川に沈めたルカを調べに行きましたが、ルカには魚は1匹もかかっていませんでした。しかし、ルカの中にいれた餌だけはなくなっていました。サリオトはそれを見て驚きました。彼のルカに魚のかかっていないことなどなかったからです。

その出来事の後、1週間ずっと彼のルカには魚がかかりませんでした。サリオトの母親は彼に聞きました。

「どうしてお前は魚を持ってこなくなってしまったんだい?」

「この1週間ぼくのルカに魚がかからないんだ。ルカ中の餌はなくなっているのに。」と、サリオトは言いました。

ある朝、サリオトが川に沈めたルカを調べに行ったときのことです。彼は期待と不安が入り混じる思いでルカを引上げていました。ルカを川の中から引上げ終わると、サリオトは驚きました。ルカの中にとても大きな魚が1匹かかっていたのです。その大きな魚はうろこが黄金色に輝きとてもきれいでした。サリオトは大喜びでその魚をもって家に帰りました。

家の庭に着くと、彼は「お母さん、お母さん、大きな魚が釣れたよ。」と、母親を呼びました。

しかし、母親の返事がなかったので、サリオトはその大きな魚を米倉に置き、家の中へ入りました。

しかし、サリオトの母は家にはいませんでした。サリオトは母親を探しに、また家の外に出ました。サリオトが大きな魚を置いておいた米倉の方を振り向くと、なんと、そこには大きな魚は見当たらず、とても美しい少女が座っていたのでした。

サリオトは勇気を出して、自分のほうを見て微笑んでいる美しい少女に近づきました。彼はいままでにこんなに美しい少女を見たことがなかったので、心臓がどきどきしていました。そして、サリオトは彼女に誰なのかと尋ねました。

その少女は微笑んで言いました。「わたしは、あなたがこの米倉の上に置いた大きな魚の化身です。」

それから、その少女は、「サリオトと彼の母親と一緒に暮らしたい」と言いました。サリオトはその美しい少女の願いを聞き入れました。

彼らが一緒に暮らしはじめて、もう長いことが経ちました。そして、ある日、サリオトはその少女にプロポーズしました。その美しい少女は、一つの条件を受け入れてくれれば、結婚してもいいと言いました。その条件とは、サリオトが、「彼女は米ぬかでサリオトに買われた女だ」と言わないと誓うことでした。サリオトが米ぬかを餌にしてルカで魚を釣っていたので、少女はサリオトにそう誓わせたのでした。

サリオトが誓うと、サリオトとその少女は結婚しました。サリオトはそのきれいな少女を妻にすることが出来、嬉しかったので、畑仕事にますます精を出しました。

毎朝、畑仕事に行くとき、サリオトは妻に畑にお弁当を持ってくるのを忘れないようにと言いました。また、彼は、糊の水を持ってくるのも忘れないようにと言いました。サリオトは、糊の水を飲むと力がついて、健康にいいような気がしていたので、糊の水を飲むのを好みました。

ある日、サリオトの妻が彼に弁当を届けに行く途中、突然、とても変った鳥の鳴き声が聞こえてきました。彼女はその鳥の鳴き声をちょっと聞いてみたいと思い、その鳥の鳴いている木の下に立ち止まりました。どうしたことか、やがて、サリオトの妻は、その鳥の鳴き声のリズムに合わせ踊りたい気分になってきました。時間がたつに釣れて彼女は踊りに夢中になってしまって、糊の水がこぼれてしまっていることにも、夫にお弁当を持って行くのが遅れてしまったことにも気づきませんでした。サリオトはお腹を空かせながら妻がお弁当と彼の好きな糊の水を持ってきてくれるのを今か今かと待っていました。

妻が畑に着くと、サリオトはうんざりした表情で妻を迎えました。彼は、妻が糊の水をこぼしてしまってほとんどなくなっているのを知ると怒りました。しかし、妻は、どうして糊の水がこぼれたのか、また、どうしてお弁当を届けるのが遅れてしまったのかの理由をサリオトに言いませんでした。

このような出来事が6日間続けて起こりました。そのため、サリオトは妻を疑いました。そして、7日目、また妻がお弁当を届けるのが遅れ、糊の水もこぼしてしまっていたので、サリオトはカンカンに怒りました。その怒りをぶちまけるため、妻が米ぬかで買った女であることを言ってしまいました。

サリオトが誓い破ってしまうと、突然地面が大きく揺れ、豪雨が降ってきました。まもなく、サリオトの畑と村は地面に飲まれて消えてしまいました。

後に、サリオトの村と畑のあった場所は、トバ湖地域の聖なるアスと呼ばれるようになりました。

 


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