<スマトラの昔話> 前のお話 次のお話

ダヤン・バンディル

〜弟思いの王女〜

 

ある時代、東王国を統治していた王が西王国を統治している王の妹と結婚しました。一年ほど後、女の子が生まれました。その子はダヤン・バンディルと名づけられました。それから数年経って、今度はダヤン・バンディルに弟ができました。弟はサンデアン・ラジャと名づけられました。

ダヤン・バンディルがまだ少女で、サンデアン・ラジャがまだ幼かった頃、二人の両親は他界してしまいました。サンデアン・ラジャがまだ成人に達していなかったので、彼は父に代わって暫定的に王位に就いている彼の叔父に育てられることになりました。

ダヤン・バンディルは、東王国伝来の品々をひそかに隠していました。のちに、東王国の正式な王位継承権を持つのが弟であることの証明として、それを弟のサンデアン・ラジャに渡そうと思っていたのです。

彼らの叔父は東王国の王位を完全に自分のものにしようと、それらの東王国伝来の品々を手に入れようとしていました。しかし、ダヤン・バンディルはそれらを叔父に渡そうとはしませんでした。彼女は、叔父にその隠し場所を教えようとはしませんでした。

ダヤン・バンディルにそれらの品々を渡すよう説き伏せるのに失敗した叔父は、ダヤン・バンディルとサンデアン・ラジャを森の中へ連れて行きました。そして、叔父はダヤン・バンディルを木の上のほうに縛り付け、弟に木の下でじっとしているように命令しました。叔父は食べ物も与えず、彼ら二人を密林の奥深くに置き去りにしました。

叔父がいなくなると、サンデアン・ラジャはダヤン・バンディルを木に縛り付けている紐を解くためにその木に登ろうとしました。しかし、木が大きすぎて彼は登ることが出来ませんでした。だんだんお腹が空いてきて、サンデアン・ラジャは上にいるダヤン・バンディルに向かって大声で言いました。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、ぼくお腹がすいた。」

「周りにある若葉を食べなさい。」
と、木の上にいるダヤン・バンディルは言いました。

数日後、木の上にいたダヤン・バンディルは死んでしまいました。飢え死にしてしまったのです。彼女の体はすでに死んでしまいましたが、でも、彼女の魂はまだ生きていました。

何年もの間、サンデアン・ラジャは一人で森の奥深くに暮らしていました。彼は村へ帰って、叔父に虐待を受けるのが恐ろしかったのです。森の中にいる間、ダヤン・バンディルの魂がサンデアン・ラジャを守り育てました。

サンデアン・ラジャが青年になると、ダヤン・バンディルの魂は彼に西王国へ行くように言いました。彼女は、弟を彼らの母親の兄すなわち現在西王国の王位についている彼らの伯父に会わせようとしたのです。

ダヤン・バンディルの魂の指示にしたがって、サンデアン・ラジャは西王国目指して出発しました。何日間か大密林の中を歩き通し、サンデアン・ラジャはようやく西王国に着きました。彼はそこの王である伯父に会いに行ったのですが、王はサンデアン・ラジャが自分の甥であるとは信じてくれませんでした。だいぶ前に二人の兄弟はもう死んだと伝えられていたのです。

サンデアン・ラジャが本当に甥であることを証明するためのテストとして、王はサンデアン・ラジャに、1本の大きな木を生きた状態で森の中から宮殿の前庭に移すよう命令しました。ダヤン・バンディルの助けがあって、サンデアン・ラジャは王の命令を実行するのに成功しました。しかし、王はまだサンデアン・ラジャが自分の甥だと信じませんでした。そのため、王は、とても広い森の一部を畑として開墾するようにという二つ目のテストを課しました。広い森を誰の助けも借りずに1週間で開墾しなければなりません。

ダヤン・バンディルの助けを得て、サンデアン・ラジャはその試験もパスしました。しかし、それでも王はサンデアン・ラジャが自分の実の甥であることを確信しませんでした。そして、彼は言いました。「私はまだお前が自分の甥であると確信できない。したがって三つ目の試験として、ルマ・ボロンという名の大きな宮殿を建てることを命ずる。その宮殿の建設に要していい期間は三日間だけだ。」

「かしこまりました。伯父様のご命令のとおりにいたしましょう。」と、サンデアン・ラジャは言いました。

サンデアン・ラジャはその三つ目の試験を快くうけました。そして、ダヤン・バンディルの助けを借りて、宮殿を三日間で仕上げました。

王はサンデアン・ラジャが自分の与えた三つの試験に通ったので、彼が自分の甥であるとういことを次第に信じはじめました。しかし、王はサンデアン・ラジャにもう一つ最後の試験を課すことにしました。

ある日、王はサンデアン・ラジャを自分の目の前に呼びました。そして、王はサンデアン・ラジャに彼が立てたルマ・ボロン宮殿に住むように言いました。しかし、その前に、サンデアン・ラジャは彼が本当に王の甥であることを証明するための最後の試験を受けなければいけません。妃選びをかねた試験です。その試験では、サンデアン・ラジャは、夜にルマ・ボロン宮殿の真っ暗な部屋の中に入ります。その真っ暗な部屋の中には前もってたくさんの少女達が集められています。その中に王の娘も混じっています。サンデアン・ラジャが王の実の甥であることを証明するには、彼はその真っ暗な部屋の中で王の娘を選び出さなければなりません。

サンデアン・ラジャは、その最後の試験の内容を聞いて、不安になりました。彼は真っ暗な部屋にいる大勢の少女の中から王の娘を選び出すことなどできるわけがないと思ったのです。

ある晩、サンデアン・ラジャはルマ・ボロン宮殿の真っ暗な部屋の中に入りました。その部屋の中にはすでに王の娘と一緒に、たくさんの少女達が待っていました。部屋の中は真っ暗で何も見えませんでした。突然、その部屋の暗闇の中、サンデアン・ラジャの目に1匹のホタルがまたたいているのが見えました。サンデアン・ラジャはそのホタルのほうへたどって行きました。そのホタルはダヤン・バンディルの使者で、王の娘が座っている場所を彼に知らせようとしていたのでした。ホタルは王の娘の近くまで飛ぶと、そこでまたたきながらぐるぐる回りました。そして、サンデアン・ラジャは一人の少女の頭をつかみました。それから、サンデアン・ラジャは明かりをつけるように言いました。あかりがともされると、彼は床に座っていた王の娘の頭をつかんでいたのでした。そして、彼は、西王国を支配している王の実の甥であることが証明できたのです。

数日後、サンデアン・ラジャはその王の娘と結婚しました。その後、西王国の軍隊を率いて、彼は東王国の暴政を敷いている彼の叔父を倒すために出発しました。彼が東王国にやってくると住民達はこころよく彼を迎えました。サンデアン・ラジャは、叔父を倒すと、国民の支持で、東王国の王になりました。

 


前のお話  ▲トップ▲   次のお話