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聖なる石

〜双子に下された罰〜

 

シマルングン地方のジョルラン・カタラン村に、住民達から神聖な石だと言われている大きな石がありました。人々はその大きな石が多くの人に利益をもたらす不思議な力を持っていると信じていたので、その石を大事に扱ってきました。その石は、儀式の最中に雨がふらないようにしてくれるというような不思議な力を持ってると信じられていたのです。
ここでは、そのジョルラン・カタランの聖なる石にまつわる伝説についてお話ししましょう。
昔々、双子の兄弟がいました。上は男の子で、下は女の子でした。小さい頃から両親は彼ら二人を一緒に育てていたので、大きくなるまで二人はいつも一緒でした。兄は妹を可愛がり、妹も兄を大事にしていました。兄がどこへ行くにも、妹はいつもついてきました。兄は、ほんの少しでも妹が見えなくなると、妹に会いたくて仕方がなくなってしまうのでした。それは妹も同じでした。
やがて、兄は成長し立派な青年になりました。そして、妹も成長して顔立ちのよいかわいい少女になりました。二人の関係は、小さい頃と変らず、仲良しでした。二人はいつも一緒に両親の仕事を手伝いました。
ある日、兄は誰にも告げずにちょっと外出しました。そのとき、妹は畑に出かけていました。妹は家畜の豚のえさにするためにタロイモの軸(葉柄)をとりに行ったのでした。
兄が家に戻ってくると、家に妹はいませんでした。彼は人に聞きながら、妹をあちこち探し回りました。しかし、彼女の行き先を知っている者はいませんでした。いくら探しても妹が見つからないので、兄はとても不安になり、寂しくなってきました。妹の帰りを待ちながら、兄は一人、家の階段のところで物思いにふけりながら座っていました。気持ちが落ち着かず寂しさがつのってきました。どうしたことか、突然、心の中で奇妙な感情が沸いてきました。いままで一度も感じたことのないような気持ちでした。
畑では、妹がタロイモの葉柄を集めていました。彼女は仕事をしながら、何度も何度も兄の顔を思い浮かべ、心の中で早く兄に会いたいと思っていました。
そろそろ夕方になる頃、タロイモの葉柄もだいぶ集まってきたので、妹はその葉柄を一つにまとめて結び、それを頭にのせて家に向かいました。家に向かって歩いている間、兄に会いたい気持ちが強くなってきました。いままで、これほどまでに兄に会いたいと強く感じたことはありませんでした。そのため彼女は、早く家に帰ろうと歩を速めました。
頭にタロイモの葉柄を載せた妹が家の裏口に現れたのを見ると、さっきから物思いにふけって階段に座っていた兄は、飛び上がって妹のところに駆け寄りました。そして、妹が頭の上にのせていたタロイモの葉柄をすぐに降ろすと、心の中にあった奇妙な気持ちに押されて、彼は妹を抱き、そしてキスをしました。二人が抱き合うと、雷鳴が轟き雷が落ちました。そして、豪雨が降り出しました。
兄はその大きな雷鳴で驚いて、妹を抱いていた手を離そうとしました。しかし、どうしたことか、手を妹の体から離そうとしても全く離れないのです。妹も自分の体を兄から離そうとしましたが、離れませんでした。それどころか、二人とも、体が徐々にぴったりくっついていくような気がしました。叫び声をあげながら、二人は体を離そうともがきました。しかし、どう体を動かしても、抱き合った二人の体は離れようとはしませんでした。逆にだんだんと一つになるようにくっついていってしまいました。
雨が強く降る中、二人の様子を見た人々が双子の兄弟の体を離そうと助けにきました。しかし、彼らも二人を離すことはできませんでした。雨は強さを増し、洪水になりました。そして、その水はゆっくりとくっついてしまった双子の兄弟を川の方へと押し流していきました。他の人々は水に押し流されるようなことはないのに、二人だけが押し流されて行くので、人々はみな驚きました。
その様子を見て、人々は彼らが川のほうへ流されてしまわないように、二人の体を引っ張りました。しかし、彼らももちこたえることができませんでした。不思議な力が彼ら二人を川の方へ引っ張っていっているようでした。人々は恐ろしくなりました。彼らには、水に押し流されて行く二人の体をどうすれば引き離せるのか全く分かりませんでした。
どこからか、「みんなが頭に巻いている布を結んでつなぎ合わせ、それを双子の兄弟の体にしばり付けろ」という声が聞こえてきました。彼らは急いで自分達の頭にしばってある布をつないで、それを意識を失ってしまっている双子の兄弟の体に結びました。そして、双子の兄弟を川の中から引っ張り出そうと、力いっぱいその布を引きました。しかし、とても重く感じました。双子の兄弟の体の一部が川から出ると、人々がそれを見てとても驚きました。彼らの体の一部が石に変っていたのです。だから、二人の体を川から引き出そうと引っ張っているときに、とても重く感じたのです。
彼らは、双子の兄弟の体全部を陸に引上げようと、力いっぱい引っ張りました。

双子の兄弟の体は徐々に陸に上がり、ようやく体全体が陸に上がりました。しかし、陸に上がると、二人の体は徐々に石に変わっていき、やがて全体が石に変ってしまいました。人々は、その奇妙な出来事を目の当たりにし、驚きそして恐れました。そして、その石がだんだん大きくなっていくのを見て、人々はさらに驚きました。石が大きくなるのがおさまると、人々は、これが天罰であることに気づきました。その双子の兄弟のように慣習で禁じられている行為をしてしまうと神様が罰を与えるのです。

 


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