<スマトラの昔話> 前のお話 次のお話

魔法のクチャピ

 

ある村にジョハナという名の一人の青年が住んでいました。ジョハナがまだ母親のお腹の中にいたときに、父親はどこかへ行ってしまって、そのまま戻ってきませんでした。そのため、ジョハナは母親と二人で暮らしていました。

その村のほかの人達と同じように、ジョハナと母親も自分達の畑で稲作をしていました。彼らは畑仕事で生計を立てていました。田植えをして数ヶ月後、除草作業の時期がやってきました。しかし、母親が草むしりに行こうと誘っても、ジョハナは「草むしりをする必要なんてない」と言いました。彼の持っている魔法のクチャピ(ギターと琴を合わせたような弦楽器)で、畑にたくさん生えている雑草をきれいにすることができると言うのです。

他の人たちがそれぞれ自分の畑で一生懸命草むしりをしているとき、ジョハナはクチャピを弾きながら彼らのところにやってきました。ジョハナはクチャピを弾きながら、「草よ消えろ、稲よ育て。」と言いました。彼らは、ジョハナが草むしりもせずにクチャピを弾いているのを見て驚き、「どうして自分の畑の草むしりをしなんだ」と尋ねました。ジョハナは答えました。「僕はわざわざ苦労して草むしりをする必要なんかないんだよ。この僕の持っているクチャピは魔法のクチャピで、畑に生えている雑草をきれいにすることができるんだ。だから、クチャピを弾いていれば、草むしりなんかしなくてもいいのさ。」

最初、人々はクチャピが畑をきれいにしてくれるなんて嘘だろう、と思い、ジョハナの言うことを信じませんでした。しかし、ジョハナがただ毎日クチャピを弾いているだけなのに、彼の畑が草もなくきれいになっているのを見ると、彼らもジョハナのクチャピの魔法の力を信じるようになりました。それからまもなく、ジョハナが畑をきれいにしてくれる魔法のクチャピを持っているという噂は村中に伝わりました。

その噂を聞いて、一人の男がジョハナのところにやっきました。その男は「怠け者さん」というあだ名で呼ばれていました。彼は、妻が畑で働いていても、全く手伝おうとしないほど怠け者なので、そういうあだ名が付けられたのでした。怠け者さんは、いつもばくちをやったり、コーヒーの屋台でチェスを打ちながらおしゃべりをしたりしていました。

ジョハナに会うと、怠け者さんはジョハナの魔法のクチャピを貸して欲しいと頼みました。

「ぼくはそのクチャピを弾いて自分の畑をきれいにしたいんだよ。」と、怠け者さんはジョハナのクチャピを指差しながら言いました。

もちろん、ジョハナはそう簡単にはその魔法のクチャピを怠け者さんに貸そうとしません。怠け者さんがどんなにお願いしても、ジョハナはクチャピを貸そうとしませんでした。ジョハナがどうしてもクチャピを貸してくれないので、怠け者さんは金のアクセサリーとそのクチャピを交換しようと言いました。ジョハナはこれを待っていたのです。ジョハナは怠け者さんの申し出に応じました。それから怠け者さんは妻の金のアクセサリーを取りに家に戻りました。

しばらくして、怠け者さんは金のアクセサリーを持って、またジョハナのところにやってきました。クチャピを怠け者さんに渡す前に、ジョハナはそれをきれいに包んでいました。それから、ジョハナは怠け者さんにクチャピを渡し、クチャピの魔法の力が消えてしまわないように、怠け者さんが守らなければいけない3つの約束を伝えました。

一つ目の約束は、クチャピをすぐに弾いてはいけないということです。弾く前に三日三晩待たなければいけないのです。二つ目は、そのクチャピを台所の石の料理台の上にある籠においておかなければいけないという約束です。そして三つ目は、クチャピを子供に弾かせたり触らせたりしてはいけないという約束です。これら三つの約束のうち、一つでも破ってしまうと、そのクチャピの魔法の力は消えてしまうと言いました。

約束をすべて聞き終わると、怠け者さんは、その約束を絶対に守ると約束しました。ジョハナに別れの挨拶をすると、怠け者さんはクチャピを持って家に帰りました。家に帰る途中、魔法のクチャピを手に入れた彼は、うきうきして口笛を吹きながら歩いていました。彼は、この魔法のクチャピがあれば、仕事をしなくても草ぼうぼうの畑をきれいにできると信じ込んでいたのです。

家の庭に着くと、怠け者さんは、庭で遊んでいる彼の三人の子供達に会いました。父親がなにか包みを持っているのを見て、三人の子供達は何を持っているのかと聞きました。子供達の質問に答えず、怠け者さんは、そのまままっすぐ台所に入りました。そして、クチャピを石の料理台の上の籠の上に置きました。三人の子供達は、父親に気付かれないように、彼が台所に置いたものが何なのかこっそりと見に行きました。

怠け者さんは、籠の上にクチャピを置くと、ジョハナとチェスをしようと思い、ジョハナのところへ行きました。彼は、コーヒーの屋台でおしゃべりをしているジョハナを見つけると、屋台に入り、ジョハナにお金をかけてチェスをやろうと言いました。ジョハナは喜んで、その誘いに応じました。

チェスを打ちながら、怠け者さんはジョハナにクチャピを籠の上にちゃんと置いてきたことを言いました。それから、ジョハナは言いました。「三日後には、君は自分の目でクチャピの魔法を見ることになるんだよ。君が自分の好きなようにクチャピを弾けば、君の雑草だらけの畑はきれいになる。稲の成長を妨げている雑草があっという間にすべて消えてしまうんだ。」

怠け者さんがジョハナとチェスに熱中している間、彼の三人の子供達は父親が籠の上に置いた包みが何なのか調べようとしていました。父がその中身を教えてくれなかったので、彼らは、どうしてもその中身を知りたいと思っていたのです。

しばらくして、怠け者さんとジョハナがチェスに熱中していると、どこからかクチャピの音色が聞こえてきました。そのクチャピの音を聞いて、怠け者さんは、屋台から飛び出しました。彼の上の子が、二人の弟や数人の友達と一緒に道でクチャピを弾いていたのでした。子供達は、怠け者さんが台所の籠の上においたクチャピを持ち出していたのでした。

それを見て、ジョハナは言いました。「これでクチャピの魔法の力はもう消えてしまったよ。もう、あれで君の畑の雑草を消すことはできない。」

心の中で、ジョハナは笑っていました。なぜなら、そのクチャピは魔法の力など持っていなかったからです。前日の夜の間に、彼はこっそり自分の畑の草むしりをしていたのです。そして、昼間になって、彼はクチャピを弾いて、そのクチャピが彼の稲の畑をきれいにしたのだと言っていたのでした。

 


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