<スマトラの昔話> 前のお話 次のお話

ヘビ娘 

昔、シマルングンの地域を統治していた王には一人の娘がいました。その娘は、とてもかわいくて、そのかわいらしさはどこでも有名でした。そのため、とある若い王様は、そのかわいい娘を自分の妃にしたいと思いました。その若い王は、その可愛い娘の父が統治している国の近くの国を統治していました。
その当時の慣習に従って、そのまだ若い王は、娘に求婚するために使節を送りました。必要なものをすべて用意すると、その使節は娘の住む国へ出発しました。その国に到着するとすぐ、その使節団は直接、宮殿にいる娘の父君に会いました。使節団は、娘の父君によって、快く迎えられました。使節団の一人が、娘に彼らの国王の妃になってもらえるよう求婚するために来たのだと伝えました。娘の父君は、彼らの結婚の申し出を喜んで承知しました。そして、その使節は娘と彼らの王の結婚式を2ヶ月後に行うと約束しました。結婚式は、若い王の宮殿で大々的に行われることになりました。結婚式の時期になったら、彼らは娘をまた迎えに来ると約束しました。娘の父君との話し合いが済むと、使節団はまた国に帰っていきました。
若い王は、彼の求婚が好意をもって受け入れられたと知り、とても喜びました。王は、結婚式に必要なものをすべてすぐに準備するよう命じました。
娘も両親から自分が若い王と結婚することになったと知らされて喜びました。そして、彼女の両親は、彼女に、その結婚が破談してしまうような問題を起こさないよう気をつけるようにと注意しました。結婚が破談に終わったら、両親がとても恥ずかしい思いをすることになるからです。
結婚式を数日後にひかえたある日、いつものようにその娘は、侍女達に付き添われて水浴びをしに行きました。娘が水浴をする場所は、周りを葉の生い茂った大きな木に囲まれたとても澄んだ涌き水のあるところでした。その涌き水の周りには、その娘のために水浴び用の池が作られていました。その池の端には、大きな石があり、娘はそこに座って、冷たい水で涼を楽しむのでした。
水浴び場に着くと、侍女たちは、娘のといた長く量の多い髪を洗うためのシャンプーを用意しました。その間に、娘は服を着替えました。そして、侍女から渡されたシャンプーをもって池の中に入りました。
髪を洗い終わると、娘は全身を冷やすためにしばらく水につかりました。それから、池の端の大きな石に、足を水のなかに投げ出して、座っていました。そのとき彼女は、自分が花嫁台の上にお婿さんと並んだら、我が娘が王様と結婚するのを望んでいた両親がどんなに喜ぶだろう、と想像していました。その両親の夢がもうすぐかなうと思うと、彼女はとても嬉しい気分でした。
彼女が石の上に座っていると、急に突風が吹きました。その突風で池を覆っていた一本の大きな枯れ木が折れて、彼女を直撃しました。とがった先が彼女の鼻に当り、深い傷いになってしまいました。彼女は痛くて悲鳴をあげました。彼女の怪我した鼻を見て、侍女たちは駆けよってきました。血の流れる鼻を押さえながら、彼女は侍女に鏡を渡してくれるよう頼みました。
鏡を受け取ると彼女はすぐに自分の顔を映しました。先のとがった枯れ木に当って、彼女の高くてきれいな鼻の先は傷がついてしまっていました。それを見て、彼女は驚いて叫び声をあげました。鼻の傷のせいで、彼女の可愛い顔は醜くなってしまいました。
彼女は、しばらくの間、悲しみにくれて、傷つき醜くなった顔を鏡に映して見つめていました。その傷つき醜くなった顔では、求婚してきた王様とももう結婚できないだろうと思い、彼女は涙を流しました。彼女はその顔の傷のせいで結婚が駄目になったと思い込んでいました。そして、その破談は、両親をがっかりさせ、彼らに恥をかかせてしまうだろうと思いました。彼女は、彼女の尊敬する両親をがっかりさせ、恥をかかせてしまうのが嫌で、どうしようかと悩みました。
しかし、解決策は見つからず、失望してとても悲しみました。悲嘆にくれて、彼女は突然手を合わせ気持ちをこめて心の中で祈りました。涙を流しながら、彼女は神に、彼女が両親をがっかりさせ恥をかかせてしまうことに対して彼女に罰を与えてくれるようお願いしました。
祈りが終わってしばらくすると、突然、彼女の体は下の方から徐々にヘビの姿にかわりはじめました。やがて、体の半分ぐらいまでヘビの姿に変わりました。この恐ろしい状況を見て、彼女はすぐに、侍女たちに、宮殿にいる両親にこのことを伝えるよう命じました。
侍女たちが彼女の両親に、彼女がヘビに姿を変えてしまったことを伝えると、両親はとても驚きました。それから、彼らはすぐに彼女の水浴び場のほうへ行きました。彼らが到着すると、彼女の姿はもうありませんでした。彼らがそこに見たのは、池の淵にある大きな石の上にとぐろを巻いて座っているヘビだけでした。さっきまで大きな石の上に座っていた娘は、もうヘビに姿をかえてしまっていたようでした。そのヘビのうろこは色鮮やかで、きらきら光っていて、とてもきれいに見えました。
そのヘビは悲しげに頭を振って、両親の顔を見つめました。その娘の化身であるヘビは、あたかも、悲しい気持ちで何かを話しかけているようでした。それからまもなく、その大きなヘビはとぐろを巻いて座っていた大きな石を離れて這って行きました。あっという間に、そのヘビは藪の中へと消えて行きました。彼女の両親と、侍女たちと、彼らを追ってきた者たちはみな涙をかくせませんでした。彼女を助けてあげられる人は誰もいませんでした。彼女が自分の両親を失望させ恥をかかせてしまう自分に罰を与えるよう神にお願いしたために、起こった悲劇でした。
 


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