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ランゲ・クディワイとプトリ・ランルン

〜死んだフィアンセを追いかけた王女〜

 

これからお話しするのは、ランゲ・クディワイという一人の王子の物語です。彼は、海を隔てた向こう側の王国の姫に恋をしました。

彼ら二人は、結婚の約束をかわしました。ランゲ・クディワイは100日後に彼女を迎えに来ると約束しました。しかし、不幸にも、ランゲ・クディワイは、その数日後に亡くなってしまったのです。ランゲの父君も母君もとても悲しみました。

彼の葬式のため、3日後に1頭のやぎが屠殺されました。そして、7日後には1頭の牛が、40日後には1頭の水牛が屠殺されました。そして、これら3頭の毛皮は広げられ、日干しにされました。

そして、100日経つと、ランゲ・クディワイの魂はプトリ・ランルンを迎えに来ました。プトリ・ランルンは、ランゲがすでに死んでいるということを知りませんでした。彼女は両親に別れを告げると、恋人についていきました。

遠く離れた所まで行くので、プトリ・ランルンは出発の前にジェリゴ(悪魔よけの植物)を用意しました。海を渡って、陸に上がると、ランゲ・クディワイが夜通し歩きつづけようと言うので、プトリ・ランルンは怖くなってしまいました。そして、悪魔よけのジェリゴの汁をランゲ・クディワイにかけました。

ランゲ・クディワイは言いました。「わあ、これはひどい。大アリがぼくの体に噛みついたんだ。」

プトリ・ランルンは答えました。「大アリじゃなくて、水の中にいる虫よ。」

明け方、彼らはランゲ・クディワイの王国に着きました。

ランゲ・クディワイは自分のフィアンセに言いました。「そこは水浴び場だよ。僕は先に帰って、両親に君を連れてきたことを伝えに行く。君はここで待っていてくれるかい。」

ランゲ・クディワイは宮殿へは帰らず、自分の墓に戻りました。いくら待ってもランゲクディワイが現れないので、プトリ・ランルンはそこで水浴びをしました。

プトリ・ランルンが水浴びをしようとすると、突然、水浴び場の涌き水が光を放ちました。この不思議な光景を一目見ようと、人々がやってきました。

この摩訶不思議な現象についての噂は、王の耳にも入りました。プトリ・ランルンは、王に謁見するように呼び出されました。プトリ・ランルンと話しをして、王は彼女がどういう人物で、どうやってその水浴び場まで来たのかを知りました。王は、一族の者達と宮廷に使える者達に、ランゲの死を彼女には秘密にしておくように言いました。

数ヶ月が経ちました。プトリ・ランルンは、いまだにランゲの帰りを今か今かと待っています。ある日、彼女は小さい子供と一緒に散歩をしていました。散歩の途中、プトリ・ランルンは、ヤギと牛と水牛の毛皮が拡げてあるのを見つけました。彼女は驚いて子供に尋ねました。しかし、その子供は答えようとしません。王に殺されてしまうと恐れていたのです。

プトリ・ランルンは何度も何度も聞きました。そしてついに子供は、そのヤギと牛と水牛の毛皮は王の息子、ランゲ・クディワイのお葬式の残りだと言いました。プトリ・ランルンはその子供の話しを聞いて泣きました。彼女はずっと嘆き悲しみました。

「ねえ、ヤギさん、どうしてお前はこんなふうになってしまったの?」とプトリ・ランルンは叫びました。

「おお、プトリ、私は王子様の死後三日の儀式で屠殺されたのですよ。」

「ああ、牛さん、どうしてお前はこんなふうになってしまったの?」彼女はまた叫びました。

「おお、プトリ・ランルン、私は王子様の死後七日の儀式で屠殺されたのです。」

「おお、水牛さん、どうしてお前はこんなふうになってしまったの?」彼女は叫びました。

「プトリ、私はランゲ・クディワイ王子の死後40日の儀式で屠殺されたのです。」

プトリ・ランルンは、王の前では、ランゲ・クディワイの死を知らないふりをしていました。

王が田んぼに出かけると(昔は王も畑仕事をしていたのです)、彼女はこっそり王子様のお墓に行きました。彼女は、7本のめぼうきの葉とカップ1杯の水を持っていきました。お墓に水をかけるためです。

プトリ・ランルンは恋人のお墓の前で、「ああ、あなた、もしも私のことを愛しているのなら、このあなたのお墓を開いてちょうだい。」と嘆きました。

すると、魔法の力で、お墓が開いたのです。彼女は中に入りました。すると、お墓はまた閉じました。

お墓の中には道がありました。プトリ・ランルンはその道に従って進んで行きました。すると、途中に椰子の木ほどの大きさの1匹のムカデがいました。

「やあ、これは、人間の世界の匂いだな?」その巨大なムカデは驚いて大声を出しました。

「ご先祖様、私はプトリ・ランルンです。」と彼女は言いました。

「それで、一体何の用でここに来たんだい?」ムカデは尋ねました。

「ランゲ・クディワイに会いに来たんです。」彼女は答えました。

「おおそうか、それなら急いで彼を追いかけなさい。もう少ししたら、彼は他の人と結婚させられてしまうよ。」

プトリ・ランルンは走ってランゲ・クディワイを追いかけました。途中で彼女は鶏を持った男の人に会いました。彼女はその人にランゲを見たかと尋ねました。

「ああ。彼はまっすぐ歩いて行ったよ。」と、その男の人は答えました。

プトリ・ランルンはまっすぐ歩いて行きました。歩いていくと、ランゲ・クディワイがいました。そして長いこと彼ら二人は恋人同士でおしゃべりを楽しみました。しかし、プトリ・ランルンは疲れて眠り込んでしまいました。彼女が目を覚ますと、すでにランゲの姿はそこにはありませんでした。

彼女は彼を探すため、また歩き始めました。彼女は小さな子供と遊んでいるおばあさんに出くわしました。二人はプトリ・ランルンに話しかけました。「わあ、このかわいい女の子は一体どこの世界から来たんだい?お嬢さん、どこへ行くの?」

「ランゲ・クディワイを追いかけているんです。」彼女は答えました。

「たった今、彼がここで眠っているのを見たよ。ほら、そこに彼が吸っていた煙草の灰が落ちているだろう。」

やっと、彼女はまたランゲ・クディワイに会うことが出来ました。おしゃべりをした後、彼女はまた疲れて眠ってしまいました。彼女が目を覚ますと、彼はまた姿を消していました。

プトリ・ランルンはまた彼を探し始めました。彼女は途中で織物を織っている少女に会いました。彼女に聞いて、また彼を追って歩き始めました。プトリ・ランルンはシリー(タバコがわりに噛む葉)を噛んでいるお年よりと網を投げている男の人に会いました。彼女は二人にもランゲの行き先を尋ねました。

彼女はここまで様々な困難を乗り越えてやってきましたが、扉のぴっちり閉じた洞窟を目の前にしたときには、彼女はがっくりきてしまいました。プトリ・ランルンは、もうだめだと思い、涙が頬をつたって落ちました。しかし、そこに彼女に同情心を覚えたセパットという名のおばあさんが現れました。このおばあさんがプトリ・ランルンを救いました。おばあさんは、プトリ・ランルンを魔法の指輪を持った小さな子供に変え、彼女に一緒に洞窟に入ろうと言いました。

死後の世界では、今は収穫期でした。田んぼではたくさんの若者達が楽しそうに仕事をしています。その中にランゲ・クディワイもいました。ランゲは、指輪を持った一人の子供を見つけました。ランゲは、セパットおばあさんに言って、その子供を水浴びに連れて行かせてもらいました。

二人だけになると、ランゲは「ああ、ああ、いとしい君、どうしてこんな姿になってしまったの?」と言いました。

「あなたを追いかけて洞窟の中に入るために、こういう姿になってしまったの。」

その小さな子供はしばらくの間、セパットおばあさんに育てられました。その後、その小さな少女は、またとても美しいプトリ・ランルンの姿に戻りました。そして、ランゲ・クディワイはプトリ・ランルンを迎えに行き、セパットおばあさんにまた二人で外の世界に戻らせてほしいとお願いしました。セパットおばあさんは、その願いをきいてくれました。おばあさんは彼らに、ほんのしばらくのあいだ目を閉じるようにと言いました。そして、再び目を開けると、彼らは人間の世界に戻っていたのでした。

この幸せな二人は、ランゲ・クディワイの父のもとを訪れました。彼らは結婚し、宮殿で幸せに暮らしました。

 


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