<スマトラの昔話> 前のお話

マリン・クンダン

〜ある船乗りの一生〜

 

マリン・クンダン少年

昔々、西スマトラに、多くの舟が寄港し、多くの人々で賑わっていた港がありました。

ある日のことでした。

ギンティンがその港から近いところにある小さな家々の間の路地を小走りに走っていました。ギンティンを見かけた友人達が、彼を呼びとめました。

「ギンティン、どこへ行くんだい?」と、ザイナルが尋ねました。

ギンティンは立ち止まって、額の汗を拭いながら言いました。「ダトゥック先生に言われて、マリンの家に行くところなんだ。」

「僕達はちょうどマリンの家に行ってきたところなんだよ。でも、マリンはいなかったよ。彼の病気のお母さんしかいなかった。」

「マリンのお母さんは病気なの?いつごろから?」

「4日前に病気になったって言ってたよ。だから、マリンはお母さんの代わりに、港へ行って食べ物を売り歩いているんだよ。」と、ザイナルは言いました。

「そうか。だから、マリンは昇級試験があるのに、道場を休んでしまったんだ。それじゃあ、僕は、ダトゥック先生の家に行って、そのことを伝えてこよう。」

ギンティンは友達にさよらなを言うと、先生の家に向かいました。

ダトゥック先生は、剣舞の踊り手でした。彼は子供達をたくさん集めて剣舞の道場を開いていたのでした。マリン・クンダンもその道場に通 っていました。

マリン・クンダンはとても賢く、友人達や先生からとても好かれていました。それどころか、ダトゥック先生は、彼を自分の養子にし、剣舞の踊り手に育てあげ、自分の道場を受け継いでもらおうかとさえ思っていました。

ギンティンがマリン・クンダンの母親のことをダトゥック先生に知らせると、先生の顔は曇りました。

「彼はそんなに困っているのか。それなのに、人の助けに頼らないようにと、私達にもその苦労を伝えなかったなんて...。」と、ダトゥック先生は言いました。

「マリン君は、絶対に人に迷惑をかけたがらないから。」と、ギンティンは言いました。

ダトゥック先生も頷きました。彼は、父親が死んで以来、マリンと母親の生活が困窮していたことを知っていました。マリンの母親は自分と息子が食べて行くために、港で食べ物を売り歩いていました。

「マリンがまた道場に来られるように、母親を助けてあげなければいけないな。ギンティン、ウダ先生のところに行ってマリン・クンダンのお母さんをいますぐ治療してやってください、とお願いしてきてくれるか?治療費は私が払うから、と言って来てくれ。」と、ダトゥック先生は言いました。

ギンティンは大喜びで、ウダ先生のところに飛んで行きました。ギンティンはウダ先生にそのことを伝えると、先生をマリンの家へ連れて行きました。

そのころ、マリンは港で食べ物を売り歩いていました。彼は、その食べ物を頭にかつぎ、人々の賑わう港や港の近くの住宅街の路地を行ったり来たりしていました。しかし、もう夕方近くなるのに、食べ物はまだたくさん売れ残っています。服も汗びっしょりでした。それに、お腹も空いてきました。しかし、売りきるまでは我慢しようと思いました。しかし、その間もずっと、彼は母親のことが心配で頭が混乱していました。

大きな家の前で、マリン・クンダンは立ち止まって、頭の上に乗せていた売り物を下に降ろしました。目の前を通 り過ぎる人たちを眺めながら、彼は顔の汗を拭いました。彼はそこに立って、誰か食べ物を買ってくれる人はいないか、と待っていました。しかし、誰も立ち止まってはくれませんでした。マリン・クンダンは悲嘆に暮れました。お腹もとても空いてきました。それに、母親のことがますます心配になってきました。

その山積みの売り物と、母親のことを考えると、彼はどうすればいいのか分からなくなりました。そして、その大きな家のドアの前で座りこんでしまいました。突然、ドアが開きました。マリンはびっくりして売り物を手に持って飛び上がりました。マリンは恥かしそうにその家のご主人の顔を見ました。

「どうもすみません。こんなところに座りこんで、道をふさいでしまって。」と、マリンは枯れた声で言いました。

ドアを開けたのは、上等な服を着た体格のよい男の人でした。その男の隣には、マリンより少し年下らしい少女が立って、マリンを見つめていました。

「お父さん、このお兄さんがもっている食べ物は、おばちゃんがいつも売っているのと同じじゃない?」と、その少女はマリンが売り歩いている食べ物を指差して言いました。

少女の父親は何も答えませんでした。彼は鋭い目つきで、マリン・クンダンの頭の先から足のさきまでじろじろと見ていました。

マリン・クンダンはその少女に微笑んで言いました。

「おばちゃんは、ぼくのお母さんだよ。ぼくのお母さんは、もう4日前から病気で寝込んでいるから、ぼくが代わりに売り歩いているんだよ。」すると、突然、お腹が締め付けられるように痛くなってしまい、目の前が暗くなったかと思うと、マリンは意識を失ってしまいました。少女が叫びました。「お父さん、この人、気絶しちゃったよ!」


 

船乗りになる

疲労がたまっていたのと、お腹が空きすぎてしまったのとで、マリン・クンダンは気を失ってしまったのでした。その家の主人と、ウミという名のその少女は使用人を呼んで、マリンを家の中へ運びました。

マリンが再び目を覚ますと、家の主人とウミはマリンにお腹一杯になるまでご飯をご馳走しました。マリンが家の主人とウミにお礼を言って、家に帰ろうとすると、主人が引き止めました。彼はマリンにいろいろと質問をしました。

ウミの父親は商人で、大きな船を1隻持っていました。マリン・クンダンの出身、生い立ちを聞いて、そして、彼の健康で丈夫そうな体を見ると、ウミの父親は彼に船乗りにならないか、と持ちかけました。

もちろん、マリン・クンダンはその話しを聞いてとても喜びました。その当時、船乗りは少年達のあこがれだったのです。しかし、彼は、まずは母親の許可を得なければいけないと思い、その場ではすぐにはその申し出を受けませんでした。

マリン・クンダンが家についた頃には、母親の状態もだいぶ良くなっていました。ウダ先生の治療のおかげでした。

「お前の剣舞のダトゥック先生が、ウダ先生を治療のためにここによこしてくれたんだよ。ダトゥック先生はとてもいい人だね。お前もあとで、先生には恩返しをしなきゃいけないよ。ところで、ギンティンに会ったかい?ギンティンは、ここへウダ先生を案内した後、お前を探しに港まで行ったんだけど。」と、母親が言いました。

しかし、マリンは、ウミの父親の船の船乗りになることで頭が一杯で母親の話しを聞いていませんでした。マリンは母親の質問には答えもしないで、船乗りになってもいいかと聞きました。母親は突然の話しにびっくりしてしまいました。

「お前はまだ子供じゃないか。それにお前がいなくなってしまったら、私はここで一人で残るのかい?お前のお父さんが死んでしまって、私にはお前しかいないのに、それでも行ってしまうというのかい?」と、母親は悲しそうに言いました。

「お母さん、ぼくは、ぼく達の生活を変えたいんだよ。ぼくは、生活が苦しくて、人から同情されてしまうのがもう嫌なんだ。ぼくは、立派で金持ちで人から尊敬されるような人になりたいんだよ。だから、家を出て船乗りになるのを許してくれよ。」と、マリン・クンダンは意気込んで言いました。

「それじゃあ、船乗りになったら、ダトゥック先生の道場はどうするんだい?」

「ぼくは剣舞の踊り手にはなりたくないよ。ぼくは、ウミのお父さんみたいな立派な商人になりたいんだ。」

マリンの母親は、この燃えあげるような息子の強い意思に、呆然としました。彼女は、重い気持ちで、息子の願いをきいてあげました。

マリン・クンダンは大喜びで、母親に抱きつきました。

「ぼくは、立派な商人になって戻ってくるよ。そして、もうお母さんにこんな苦しい思いはさせない。ぼくはだれからも尊敬されるような人になるよ!」

「ねえ、マリン。ウミのご両親は使用人をつかっているかい?」と、突然マリンに質問しました。

「どうしてそんなことを聞くの?」と、マリンはびっくりして聞きました。

「つまり、私が彼らの家の使用人になれば、私も寂しくならずにすむだろう?」

「そうだ。ぼくが航海に行ってしまったら、お母さんは一人ぼっちになってしまうんだ。」と思い、マリン・クンダンはすぐにウミの父親に会いに行きました。そして、母親が船乗りになる許可をくれたこと、母親がウミの家で使用人として働かせて欲しいと言っているということを伝えました。ウミの両親はそのマリンの母の申し出も快く承諾してくれました。それどころか、マリンの母をただの家政婦ではなく、ウミの養育係として雇ってくれると言いました。

それから、マリンは道場へ行って、友達や先生に船乗りになることを伝えました。みんなとても驚きました。とくにダトゥック先生は、とても驚き、それと同時に悲しみました。マリンを自分の養子にし、道場を継いでもらうという夢も、これで消えてしまったのです。しかし、先生はマリンのために成功を祈り、マリンを送り出しました。

そして、その日からマリンは大商人ウミの父が所有する船の船乗りになったのでした。大きな海を航海し、島から島へ高価な品物を運びました。はじめはマリンに与えられた仕事はただの雑用でした。しかし、彼の賢明さと辛抱強さが認められて、あっという間に重要な仕事が与えられるようになりました。

数年が経ち、マリンも大人になりました。彼はもうベテランの船乗りでした。ウミの父親にもかわいがられ、正式にではありませんが、ウミの父親の右腕として認められていました。

マリン・クンダンは成長するにつれ、ますます凛々しい青年になり、女の子たちは彼を見ると、彼に夢中になりました。ウミもマリンのことが好きでした。ウミもとても美しく成長しました。ウミの両親もそのことを喜んでいました。

ある日、ウミの父親の船は遠洋を航海をしていました。絹とじゅうたんの生産国を目指していたのです。当時、絹糸とじゅうたんは商人たちにとって魅力的な商品でした。航海はとても長く、退屈でしたが、海賊や台風の危険がいっぱいでした。しかし、ウミの父親はマリンがいれば大丈夫だと信じていました。

目的地に向けて航海をはじめて1ヶ月後、猛烈な台風が襲ってきました。海面 には荒波が立ちました。ウミの父親のその大きな船でさえ、その台風には耐えることができませんでした。大波が船を直撃しました。第1マストが折れ、帆が破れました。海水が船の中にどんどん入ってきます。数人の船乗り達も海に放り出され、波に飲まれてしまいました。しまいには、ウミの父親とマリンまでもが海に放り出されてしまいました。そして、船もバラバラに壊れてしまいました。

しかし、マリン・クンダンは一命を取り留めました。折れて海面 に浮いていた船の柱をしっかりとつかんでいたのです。彼はある島に流れ着きました。その島の島民が彼を助け、怪我が治るまで看病してくれたので、彼はすっかり元気になりました。しかし、彼は台風に襲われたときに頭を強く打って、記憶を失っていました。

マリンが流れ着いたその島は、とても小さな島でした。島に住む人もほんのわずかでした。島民の大部分は男の人でした。島民たちは気性が激しく、またお互いを信じるということをしませんでした。マリン・クンダンが島に流れ着いたときも、島民たちはみな冷たい目で見ました。しかし、マリンがとてもいい体つきをしているのを見ると、看病してやることにしたのです。

 


 

海賊をやっつける

マリンがその小さな島に漂流してきて、1週間が経ちました。しかし、彼の記憶はまだ戻りません。彼は自分が何者なのかも、どうしてその島にたどり着いたのかも、分かりませんでした。

彼が島に着いて2週間目、その小さい島に1艘の船が到着しました。島民たちは喜び叫びながらその船を迎えました。

「親分のお帰りだ!」と、その島の最長老が叫びました。

その「親分」とは、その船の船長でした。「親分」は体が大きく、ひげもじゃの怖い顔をして、腰には金の彫刻の入った剣を差していました。彼が威張ったような歩き方で船を降りてくると、島民たちは敬服して彼を迎えました。

「今回の収穫はすごいぞ!」と親分は言いました。「捕虜はそれほど多くはないが、金や宝石など値の張るものばかりだ。ほら、宝箱を陸に上げろ。それから盛大な宴会を開くぞ。今回の大収穫を祝ってな。」と、親分は言いました。

島民たちは歓喜の声を上げました。それから、船の積み荷や捕虜達を陸に降ろしました。その間、一人の島民がマリン・クンダンのことを親分に報告しました。親分はその報告に驚いて、マリンをすぐによこすよう言いました。親分は、マリン・クンダンをじろじろと眺めて、どこから来たのか尋ねました。しかし、マリン・クンダンは黙りこくったまま何も答えませんでした。

「こいつはどうやらかなりの恐怖を経験し、記憶を失ってしまったようだな。しかし、体格はいいし、丈夫そうだし、おれの子分にするにはもってこいだ。よし、記憶を取り戻させよう。それまでほかの捕虜達と一緒にしておけ。」と、親分は言いました。

マリン・クンダンは捕虜達と一緒に、収容所に入れられました。その夜、一人の捕虜がマリン・クンダンをじろじろと見ていました。その人はマリン・クンダンに近づいて、ほかの捕虜達から離れたところにマリン・クンダンを誘いました。

「マリン・クンダン。お前、マリン・クンダンだろ?」と彼はマリン・クンダンの肩をたたきながら言いました。

「マリン・クンダン?誰だ、それは?」と、マリン・クンダンは不安そうに言いました。

「お前、記憶を失ってしまったのか。かわいそうに。自分のことも分からないなんて。マリン・クンダンはお前の名前だよ。ほら、思い出せよ。」と、その捕虜は言いました。

「マリン・クンダンがぼく?ぼくはマリン・クンダン?で、君は誰だい?」

「おい、親友よ。ほら、ぼくの顔をよく見てみろよ。数年前のことを思い出してみろよ。ぼくたちは一緒にダトゥック先生のところで剣舞を習っていただろう。おい、ぼくのことを思い出してくれたかい?ぼくはギンティン。お前の友達だよ!」と、その捕虜は言いました。

ギンティンという名前、ダトゥック先生、そして剣舞。その友人の言葉のおかげで、マリン・クンダンの記憶はすっかり戻りました。

「ギンティン、お前か?!」とマリン・クンダンは言うと、その幼なじみに抱きつきました。

久しぶりに会うことができて、彼ら二人は夢でも見ているかのようでした。それから、マリンはギンティンにどうして捕虜になってしまったのか聞きました。

「ある晩、1艘のとても大きな船がぼく達の港にやってきたんだ。そして、夜明け前、その船の乗組員がこっそり上陸した。彼らは港の警備員達を気絶させ、町の中へ侵入した。そして、抵抗する者をだれかれ構わず殺したんだ。どうやら、奴らは海賊で、海賊の卵をさがしに若い少年達を誘拐しに来たようなんだ。それで奴らは僕達の道場にもやってきた。僕達は抵抗したけれど、奴らが急に襲ってきたものだから、こてんぱんにやられてしまった。ダトゥック先生は必死に抵抗したけれど、殺されてしまったよ。先生は降参するぐらいなら死んだ方がましだと思ったのさ。道場の友達もみんな殺されるか捕まってしまうかどちらかだった。ぼくも海賊に捕まってぶん殴られて気を失ってしまったんだ。それで、気が付いてみたら、ほかの捕虜達と一緒に船の中にいた、というわけさ。」と、ギンティンは語りました。

マリン・クンダンの顔が曇りました。しかし、マリンは感情を押さえて質問しました。「ウミの父親の家族はどうなったか知っているかい?やはり海賊にやられてしまったのかい?」マリン・クンダンはウミの家に居候している自分の母親を思い出して聞きました。

「確かではないけれど、船の中からウミの家が燃え上がっているのが見えたよ。きっと、海賊が彼女の家の財宝を奪って、そのあと火を放ったのだろう。」

「そんなのひどい!あいつらに復習してやる!」

「ちょっと怒りを静めろよ、マリン。ぼくだって、お前と同じ気持ちさ。でも今は焦っちゃいけない。まずは作戦をたてなきゃ。敵は一人じゃないし、それに殺し屋集団なんだぞ。」

「そうだな。まずは作戦を練ろう。」

「それじゃあ、今度はお前の話しを聞かせてくれよ、マリン。実はウミの父親の船が台風にあって沈没したって話しは町にも届いていたんだ。だから、ぼくたちはその船の乗組員は、お前もウミのお父さんも含めてみんな死んでしまったのかと思っていたんだよ。」

マリン・クンダンは何が起こったかを話し始めました。「ぼくだって、自分が助かるなんて思いもしなかったし、それにこんなヘンな島に漂着してしまうなんて思いもしなかったよ。ぼく自身もほかの乗組員がどうなったのかは知らないんだ。ほかに助かった人がいるのかどうか全然分からないんだ。」

ギンティンは友人の話しを聞いて感心していました。それから、彼らは時期を待って復習しようと約束しました。捕虜になって数日後、彼らは、その島が海賊の隠れ家だということを知りました。その島の住民はすべて海賊で、その島の指導者は海賊の親分だったのです。

マリン・クンダンとギンティンは海賊になりました。そして、ほかの海賊達のように略奪行為をしました。海賊行為をするたびに彼らは人を殺さなければいけませんでした。彼らは心が痛みました。しかし、海賊たちに復讐をするためには、本物の海賊のように振舞わなければならなかったのでした。

数ヶ月後、彼らの復讐のための作戦もだいぶ煮詰まってきました。海賊をしている人の中には彼らと同じように復讐を企んでいる人が数人いることも分かりました。彼らは協力して、さらに作戦を練りながら時を待ちました。

マリン・クンダンもギンティンも自分達の企みを隠すのがとてもうまく、海賊の親分でさえ、彼らに疑いをかけたりはしませんでした。それどころか、親分は2人に大きな仕事を任せました。

2人はその仕事をうまくやってのけました。それを見て、親分に忠実なベテラン海賊たちは2人に嫉妬するようになりました。そして、ベテラン海賊たちはギンティンとマリン・クンダンを消してしまおうと企みました。

しかし、マリン・クンダンとギンティンはその計画を嗅ぎ付け、ともに復讐を計画している同志たちを集め話し合いをしました。

ある日の昼、海賊船が次の餌食を探しているときのことでした。海賊船の上で、大騒動が起こりました。海賊の親分は部下たちが喧嘩でもしているのだろうと思い、ギンティンとマリンを呼びました。そして2人に喧嘩を静めてくるように言おうとしました。

しかしそのとき、マリンはいきなり短刀を抜いて猛烈な勢いで親分に襲いかかったのです。同時にギンティンは、親分の付き人に襲いかかりました。マリンとギンティンの同志たちも争いに加わりました。そして、激しい争いが起きました。

船のデッキでは、ギンティンとマリンの同士達対親分の忠実な子分たちの激しい戦いが繰り広げられました。一方、船のブリッジではマリン・クンダンが親分と戦い、ギンティンが親分に忠実な子分と戦っていました。

両者の力が互角だったので、その争いはなかなか決着がつきませんでした。しかし、剣舞を習っていたマリン・クンダンは簡単に海賊の親分を倒してしまいました。ギンティンもまた簡単に親分の付き人を倒してしまいました。

海賊の子分たちは自分たちの親分がやられてしまったのを見て、縮みあがりました。そして、戦闘意欲もなくしてしまい、海賊の親分側の人たちは次々とみな倒されてしまいました。しかし、そのうちの3人が甲板の脇の方へ逃げて海に飛び込もうとしました。しかしそのとき、突然彼らはブリッジにいるマリンとギンティンをめがけて短刀を投げたのです。

マリン・クンダンは、「ギンティン、危ない!」と叫びながら身をかわしました。しかし、ギンティンは逃げおくれ、2本のナイフが彼の胸に深く突き刺さってしまいました。ギンティンは死んでしまいました。マリンはギンティンの仇を討とうと、その3人の海賊に襲いかかりました。3人の海賊は逃げる間もなく、みんなマリンに刺されて死にました。

まもなく、甲板のほうから、勝利の叫び声が聞こえてきました。マリン・クンダン側の勝利でした。たくさんの犠牲者がでましたが、彼らは海賊を倒したのです。マリンは反乱が成功して安心しました。しかし、ギンティンが犠牲になってしまったのを見て、とても悲しみました。

マリン・クンダン達は、死体を海に投げ捨てました。同志たちの希望に押されて、マリン・クンダンは新しい指導者になりました。彼らは、これからどうするかを話し合いました。そして、海賊船を商船にすることで意見が一致しました。

マリン・クンダンは舵手にマラヤの国に向けて舵をとるように言いました。そして、航海しながら、船の色を商船らしい色に塗り替えました。

マラヤの国につくと、いろいろな港で彼らは商売をはじめました。マリンは、ウミの父親の所で働いていたときに身につけた商才を発揮しました。商売は繁盛し、船もさらに立派になりました。その船が昔は海賊船だったと疑う人など、誰もいなかったでしょう。


 

アジザ

数年後、マリンは海賊船を大きく立派な商船に買い換えました。乗組員は、心を入れ替えた元海賊達でした。彼らは元海賊だとは分からないほど、荒々しさはすっかり消えていました。

彼らの商売は波に乗り、成功を重ね、ついにマリン・クンダンはマラヤ国の大商人たちと肩を並べるほど有名な商人になりました。

彼が夢に描いていたことが現実のものとなったのです。彼はとても喜びましたが、ときどき西スマトラの故郷を思い出しては、母親やウミ達はどうしているんだろうと考えていました。ギンティンから聞いた話しでは、彼の町の人たちはみな海賊に襲われて死んでしまったということでした。しかし、本当にみんな死んでしまったのでしょうか?

マリン・クンダンの望郷の念はさらに強まりました。しかし、彼の成功はまだ完璧ではありませんでした。つまり、彼には人生の伴侶がまだいませんでした。そのことを考えると、ウミのことが思い出されました。「彼女は今ごろはきっともう大人になって、マラヤ国にいる貴族の娘たちに負けず劣らず美しく成長しているだろう。しかし、ギンティンの話しでは、ウミの家は海賊に焼かれてしまったそうではないか。ウミは助かっているのだろうか?もし助かっていたとして、ウミはまだ、ぼくのことを忠実に待っていてくれているのだろうか?いや、もう何年もぼくの方から何の頼りもないのだから、きっとほかにいい人を見つけてしまっているだろう。」と思い、ついに、マリンはアジザという知り合いの貴族の娘にプロポーズすることに決めました。

マリンは結い納品などをすべて揃え、アジザにプロポーズをしに行きました。思っていた通 り、彼のプロポーズはすぐに受け入れてもらえました。結婚式の日がきました。マリンはアザジとともに並んで座りました。たくましく凛々しい婿と美しい嫁のお似合いのカップルでした。誰がマリンが貧しい家の出だなどと信じたでしょうか?

結婚式は7日間に渡って盛大に行われました。結婚式の招待客はほとんどが貴族や大臣たちでした。

妻を持つと、マリンはますます商売に精を出しました。マリンはときどきアジザを連れて諸国を回りました。彼らはとても幸せそうでした。

マリン・クンダンは妻をとても愛していました。妻もマリン・クンダンをとても愛していました。マリン・クンダンは妻の望みは何でもかなえてあげました。しかし、一つだけ、妻の願いを聞いてあげられないことがありました。それは、妻がマリン・クンダンの出身を尋ねたときのことです。

マリン・クンダンは、大金持ちの貴族の娘である妻に、自分のみすぼらしい生い立ちを語りたくなかったのです。

アジザも最初は、マリン・クンダンが自分の生い立ちについて何も話してくれないことを我慢しました。マリン・クンダンは妻が自分の生い立ちについて質問しても、すぐに話しをそらしてしまうのでした。

ある日、アジザはマリン・クンダンにきちんと答えるように要求しました。そして、マリン・クンダンは答えました。「ぼくの親も君の親と同じで貴族だったんだ。でも、もう死んでしまったんだよ。」

「それなら、お墓に連れていってちょうだい。あなたのご両親にお祈りしたいわ。」

マリン・クンダンはたじろぎました。

「敬虔なムスリムの子は、親が生きていても死んでいても、親を敬い無事を祈るのよ。だから、あなたのご両親のお墓参りをさせてちょうだい。」と、アジザは言いました。

「祈るだけなら、遠くからでも祈ることはできるだろう?わざわざお墓まで行かなくても、ここからだって祈れるじゃないか。」

「あなた、私を愛しているのなら、このたった一つのお願いを聞いてちょうだいよ。もし、聞いてくれないのなら、...。」

マリン・クンダンはもうこれ以上、このアジザの願いを拒むことはできませんでした。そして、舅に妻と二人でしばらくの間出かけて来ることの許可をもらいました。マリンは故郷へ向けて航海する途中ずっと、暗い顔をしていました。アジザが元気付けようとしても無駄 でした。船の乗組員たちも心配していました。

マリン・クンダンの豪華な商船は帆をはって風に押されて航海を続けました。波を蹴って大海原を航海して行きました。航路を阻むものは何もありませんでした。しかし、目的地に近づくに連れ、マリン・クンダンの不安は高まりました。


 

故郷にもどる

ギンティンから聞いた話は嘘ではありませんでした。港もマリンの故郷の村も海賊一味に荒らされていたようでした。港に寄港すると、荒らされた跡がはっきりと残っているのが見えました。ウミの家族の壊された家に入ってみましたが、人の気配はありませんでした。

マリン・クンダンは船の乗組員に船で待っているように命令し、彼は一人で上陸し母親の消息を探りました。そこに残っている人たちは皆マリンの知り合いでしたが、マリンは知らない振りをしていました。そして、彼は偉そうに言いました。「私は、あなた達の知り合いのマリン・クンダンとは違う。ただ顔が似ているのだろう。」

ついにマリン・クンダンは母親がまだ生きているという情報を手に入れました。マリンの母親はウミと一緒に暮していたのでした。ウミの家は海賊に焼かれましたが、その犠牲になったのは、ウミの母親だけだったのでした。今、マリン・クンダンの母親はウミとともに、マリン・クンダンの生まれ育った家に住んでいたのでした。そのことを知ると、マリン・クンダンは喜ぶどころか、重い気持ちになってしまいました。それから、彼は妻の待つ船に戻りました。

「今、ここの住人にお金を渡してぼくの両親の墓を探してきてくれるよう頼んだ。だから、船でしばらくその結果 を待とう。」と、マリン・クンダンは嘘をつきました。

「私達も一緒に探しましょうよ。それにあなたはここに兄弟や友達がいるんでしょ?会いに行きましょうよ。そして、私のことをみんな紹介してくださらない?」

マリン・クンダンの顔が青ざめました。そして、つらそうに言いました。「急に体の具合が悪くなってしまったようだ。その前にしばらく休ませてくれ。」

「ええ、休んだ方がいいわ。あとで具合が良くなったら、あなたの兄弟や友達に会わせてね。」と、彼女は青ざめた顔のマリンを見て少しも疑わずに言いました。

しかし、マリン・クンダンは答えませんでした。

村の人々は、マリン・クンダンが帰ってきたと大騒ぎになりました。彼らはマリン・クンダンが成功をおさめて戻ってきたことを称えましたが、マリンが村の人に対し知らない振りをするといって文句を言いました。

そのとき、村のはずれにあるマリン・クンダンの生家では、マリンの母親が寝こんでいました。ウミはマリンの母親のそばに座って、彼女の足をもんでやっていました。

「娘よ。」と、マリン・クンダンの母親は言いました。「ここ数日、同じ夢ばかり見るんだよ。逃げてしまった私達のニワトリのシロが、戻ってくるんだ。そして、私がシロを籠の中に入れようとすると、シロは突然私に向かって攻撃してきて、私は転んでしまうんだよ。この奇妙な夢が頭から離れなくって..。」と、マリンの母親は言いました。

マリン・クンダンの母親がウミの養育係になって以来、ウミは彼女を自分の母親のように思っていました。いつも一緒にいたので、彼女達はおたがいに本当の親子のように思っていました。だから、ウミもマリンの母親を「お母さん」と呼んでいました。

「ねえ、お母さん。」と、ウミはマッサージをしている手を休めずに言いました。「夢は寝ているときに見るものよ。起きているときにずっと夢のことばかり考えていたら病気になってしまうわ。」

「でもね、私はこの夢はきっと、お前がすぐに夫をもつということを暗示しているんじゃないかと思うんだよ。」

「お母さん、そんなありそうもないことを言わないで。お母さんだって分かっているでしょ。私はマリン・クンダン以外の人と結婚なんかしないわ。」

「でもね、ウミ。お前も分かっているだろうけど、マリンはもういないんだよ。お前のお父さんと一緒に海で台風にやられて死んでしまったんだよ。」

「みんなはそう言うけど、私はまだマリンは生きていると信じているのよ。マリンはきっといつか戻ってくるわ。」

そのとき突然、ドアをノックする音がしました。ウミはドアを開け、その客を家の中へ通 しました。その客は、マリンの幼なじみ、ザイナルでした。

「大ニュースだ!マリン・クンダンが戻ってきたんだ!」と、ザイナルはおおはしゃぎで言いました。

「えっ?!」と、ウミとマリンの母親は耳を疑いました。そのザイナルがもってきた知らせにウミもマリンの母親もびっくりしました。

「ザイナル、いま、なんて言ったんだい?」と、マリン・クンダンの母親が聞きかえしました。

「マリン・クンダンが戻ってきたんだよ。それも大商人になって。船だって、ものすごく大きくて豪華なんだよ!でも、...」と、ザイナルは突然黙りこくってしまいました。

「でも...、なんだい?」と、マリン・クンダンの母親が聞きました。

「でも、なに?」と、ウミも聞きました。

本当は、ザイナルは、マリンが妻を連れて帰ったということを言いたかったのです。しかし、ウミの気持ちを考えると、なかなか口に出せませんでした。それと、ザイナルは、マリンが村の知人たちを知らない振りをしていることも言いかけたのですが、マリン・クンダンの母親はそんなことを言っても信じてくれないだろうと思い、口に出せませんでした。そして言いました。「マリンのお母さんもウミも港へ行って、自分の目で直接見ておいでよ。」

マリン・クンダンの母親は両手を上に上げて祈りました。「神様、ついに私の息子を私の元に戻してくださったのですね。本当に感謝します、神様。」それから、顔を拭きました。そして、ウミの手を引っ張って言いました。「ウミ、ほら、マリンを迎えに行こうよ。急ごう。お前も早く彼に会いたいだろう?」


 

母のののしり

マリン・クンダンの船が停泊しているデルマガでは、たくさんの人が集まっていました。みんなその豪華な船を見に集まってきていたのです。中にはマリンの幼馴染たちもいました。彼らはその船の持ち主が本当にマリン・クンダンなのか確かめに来ていたのです。人々はその船の豪華さに驚いて騒いでいました。あまりにもうるさくてマリン・クンダンがゆっくり休めないほどでした。

マリン・クンダンは家来達に、船の周りに集まってきている群衆を追い払うよう命令しました。しかし、無駄 でした。それどころかますます多くの人が船の周りに群がってきました。マリン・クンダンはうんざりして、船室を出て、自分で群集を追い払おうとしました。

マリン・クンダンが大声を出して群衆を追い払っていると、彼の目は、船に近づいてくる2人の女性にくぎ付けになりました。彼は驚いて血が止まりそうになりました。その2人の女性は自分の母親とウミだったのです。

「マリン。私の息子、マリン!」と言いながら、マリンの母親はマリンに駆け寄りました。ウミも母親の後を追ってマリンの方へ駆け寄りました。しかし、マリンの隣に女性がいるのに気づくと、立ち止まりました。ウミの顔は真っ青になりました。

マリン・クンダンは心臓がどきどきしました。母親に対する愛情が突然湧き上がりました。しかし、彼はこの乞食のようなみすぼらしい姿の母親が恥かしかったのです。母親の服は継ぎはぎだらけで、白髪混じりの髪の毛は絡まってぼさぼさでした。マリンは隣にアジザがいることを思い出すと、母親に対する愛情もさっと消え、恥かしさだけが残りました。

「このおばあさんはいったい誰?」と、アジザは不安そうにマリンに尋ねました。

「この人?多分、ぼく達に施し物をもらいに来た乞食かなにかだろう。」と、マリン・クンダンは震える声で言いました。

船への階段を上ろうとしていたマリンの母親はその息子の言葉にショックを受け、その場に立ちつくしました。そして、目を見開いて言いました。

「マリン・クンダン。私はお前のお母さんだよ。長いこと会っていないから分からなくなってしまったのかい?」

「ぼくのお母さんだって?」というと、マリン・クンダンはアジザの方を見ました。「お前、いまの言葉を聞いたかい?ぼくの母親だってさ。ハハハ。ああ、おかしい。」

しかし、アジザは全く笑いたい気分ではありませんでした。彼女は夫の顔とそのおばあさんの顔を見比べました。彼女は、このおばあさんと夫の顔には共通 点が多いことに気づきました。そして、言いました。「あなたは私の夫のお母様なのですか?」

「あら、かわいいお嬢さん。あなたはマリン・クンダンの奥さんなのかい?」と、マリン・クンダンの母親は逆に聞き返しました。

「ええ、そうです。」

そのアジザの返事を聞いて、ウミはショックを受けてめまいを起こして倒れてしまいました。

「ほう?」マリン・クンダンの母親はマリンの方に向き直って言いました。「まったくお前は今までずっと忠実にお前の帰りを待っていたウミを裏切るつもりかい?彼女の家族の親切を忘れてしまったのかい?」

「黙れ!ぼくは貴族の息子だぞ!たわごとを言うな!」と、マリン・クンダンは怒鳴りました。

「マリン・クンダン。本当にお前は私の息子のマリン・クンダンではないのか?」と、マリン・クンダンの母親は聞きました。

「あなた」と、アジザが口を挟みました。「もしもこの人があなたのお母様なのなら、なぜそれを認めようとしないの?お母様がこのような状態で恥かしいから?」

「こいつは本当にぼくの母親なんかじゃないんだ!ぼくの母親はお前の母親と同じで貴族なんだ!」と、マリン・クンダンは言いました。

「マリン・クンダン、もう一度、よく、このお前のお母さんの顔を見てごらん。本当にこの私がお前のお母さんではないのか、よく思い出してごらん。」と、マリン・クンダンの母親は言いました。

「こんちくしょうめ!うちに帰って鏡を見てみろ!お前がぼくの母親にふさわしいとでも思うのか?!」と、マリン・クンダンは怒鳴りました。

アジザは、この夫と老婆の口論を聞いて、突然頭が痛くなってきてしまいました。そして、船室に駆けて行きました。

マリン・クンダンも妻の後を追って部屋に入ろうとしましたが、その前にまた母親にひどい言葉を吐きました。「お前のせいでぼくの愛する妻の具合が悪くなってしまったじゃないか!臭い乞食は遠くへ行ってしまえ!」

「きっと、お前は我が息子のマリン・クンダンではないのだろう。それならば、この卑しい私を許しておくれ。」と、マリン・クンダンの母親は言いました。「しかし、もしもお前がこの私の息子なのだとしたら、神様がお前の罪を許してくださいますように。お前が目覚めますように。そして、私はお前のことを許そう。」

マリン・クンダンは妻の後を追って、船室に行きました。

「あなた、自分の母親を認めない親不孝者の子供には、神様が罰を下すわよ。お願いだから、彼女があなたのお母様なのなら、今すぐに彼女に謝って来て。そしてここに呼んでちょうだい。」と、アジザは言いました。

マリン・クンダンはその妻の言葉を聞いて頭に血が上りました。そして、もう一度船室から出ると真っ赤な顔で言いました。

「お前は、ぼくと妻の愛情までもぶち壊したんだぞ!このくそばばあ!早く消えうせろ!お前を見ていると吐き気がする!」しかし、マリン・クンダンの母親はじっと黙っていました。マリン・クンダンは船員を呼んで言いました。「こんな港、早く出るぞ!帆を揚げろ!帰るぞ!」

船員たちは急いで錨を上げ、帆を張りました。そして、船はゆっくりと動き出しました。

突然、マリン・クンダンの母親が両手を上げ、言いました。「神様、彼がもしも私の息子なのなら、彼の運命をあなたにお任せします。私はあんな親不孝者の息子などいりません。あのような親不孝者は長生きしても罪を重ねるだけです。それよりは、罪を重ねさせないためにも、彼の命を終わらせてしまってください!」

マリン・クンダンの母親がそう言い終わると、突然、稲妻が空を走りました。そして、雨が強く降りだし、海には荒波が立ちました。

母親の願いが神に通じたのでした。

雨はさらに強く降りました。しかし、マリン・クンダンの母親はその場に立ち尽くし、波にゆれる息子の船を見つめました。

マリン・クンダンも船員たちも必死に舵をとろうとしました。大波が船を襲いました。船は波をかぶり、浸水してしまいました。息子の死を願った母親も、やはり愛する息子が災難に見まわれるのを見るのが耐えられなくなってしまいました。そしてもう一度祈りました。「神様、彼を罰するのを待ってください。もしも神様が彼を救ってやってもいいとお思いなら、彼を救ってやってください。しかし、彼が救われるというのは、また罪を重ねるということなのでしょうか?それならば、彼を石にしてしまってください!」

突然、稲妻が光りました。それと同時に雷鳴も轟きました。高い波があがりました。そして、また稲妻が光りました。ついに、船は崩壊し、海岸に打ち上げられました。マリン・クンダンの体は稲妻に打たれて真っ黒焦げになり、遠くに飛ばされました。そして、陸に落ちると、マリン・クンダンの体は石に変わりました。

雨が突然やみました。空もまた晴れわたってきました。人々はその奇妙な出来事を見て驚きました。親不孝者のマリン・クンダンの体が石に変ったのにはとても驚きました。

神様は、母親の望み通り、親不孝者のマリン・クンダンに罰を与えたのでした。

 

 


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