<スマトラの昔話> 前のお話 次のお話

プトリ・ブルティ・シラソ

〜種まき姫〜

 

北スマトラのニアスの人々に伝わる神話によると、この地球の上には9層の空があるといわれています。そして、それぞれの空の層には、神様の子孫が住んでいて、彼らはそれぞれの王によって支配されています。一方で、地球上、そして、ニハの地(ニアス島)には人間が住んでいます。

空の層の一つにテテホリ・アナアという王国がありました。その昔、その王国はブルグ・シライデ・アナアという神の子孫である一人の王によって支配されていました。何年もの間、その王と王妃の間には、子供が生まれませんでした。しかし、あるとき、王妃は双子を生みました。一人は男の子、一人は女の子でした。男の子のほうにはシログ・ンバヌア、女の子のほうにはブルティ・シラソという名前がつけられました。

王妃が子供を産むと、ブルグ・シライデ・アナア王はとても喜びました。彼はずっと、彼のあとを継ぐ王子の誕生を待ち望んでいたのです。しかし、ブルグ・シライデ・アナア王は、王妃が性別の異なる双子を生んだと知ると、その喜びも悲しみにかわってしまいました。なぜなら、性別の異なる双子は災難の印であり、その双子は両親に多大な不名誉をもたらすと信じられていたからです。母親の子宮にいるときから、性別の異なる双子は偉大なシハイ神によって結ばれていて、二人は恥辱な行為をしてしまうといわれていたのです。

ブルグ・シライデ・アナア王と王妃はいつもその不名誉をもたらすという双子を授かってしまい、悲しみましたが、彼らはそれでもその二人の子供を愛情たっぷりに育てました。

成人に達したシログ・ンバヌアとプトリ・ブルティ・シラソは、それぞれ魔法の力をもっていたようでした。シログ・ンバヌアが、収穫祭に出席すると、農民の収穫する作物の量は、何倍にも増えました。そのため、農民はいつもその王の息子に収穫祭に出席してくれるよう頼みました。そして、種をまくときには、農民達はいつもプトリ・ブルティ・シラソに彼らがこれから蒔く種をにぎってくれるようお願いしました。蒔く前にその種をプトリ・ブルティ・シラソがにぎると、収穫期にとてもたくさんの作物が収穫できるからです。シログ・ンバヌアとプトリ・ブルティ・シラソはこのような魔法の力をもっていました。

双子が次第に大人になって、二人の関係が次第に親密になるのをみて、ブルグ・シライデ・アナア王と王妃は、恥ずかしい行為をしてしまうのではないかとだんだん心配になってきました。それを避けるため、ブルグ・シライデ王は、シログ・ンバヌアにお妃候補をさがすよう提案しました。シログ・ンバヌアはその提案をこころよく承知し、父に、妹のプトリ・ブルティ・シラソそっくりのお妃候補を探してくると言いました。そして彼は、父に、妹そっくりの娘を探しに国中を旅する許可を求めました。

兄が出かけてしまうと、プトリ・ブルティ・シラソはいつも憂鬱な顔をしていました。それを見てブルグ・シライデ王は、娘は自分の兄を本当に愛していたのだと強く確信しました。

プトリ・ブルティ・シラソが恥ずかしい行為をするのを避けるために、ブルグ・シライデ・アナア王と王妃はプトリ・ブルティ・シラソを兄シログ・ンバヌアにもう会わせるのをやめようと決めました。そこで、ブルグ・シライデ・アナア王は、蒔いた種が育たず困っているニハの地の農民を助けるためにニハの地へ降りるようプトリ・ブルティ・シラソを説得しました。

そして、プトリ・ブルティ・シラソは地上(ニハの地)に降りました。ニハの地に着くと、彼女は、わざわざ天の国から持ってきた種を農民に分け与えました。そして、農民達はその種を蒔きました。収穫期になり、収穫量はとても増えていました。そのため、ニハの地の住民達はプトリ・ブルティ・シラソを種まき姫と呼びました。

そして、プトリ・ブルティ・シラソはニハの地の西側にあるオヨ川の河口付近に住みました。その場所で姫は農業をし、畜産業を営みました。彼女の農作物は山のように収穫され、家畜もどんどん繁殖しました。彼女は収穫の一部を、種まき用の種とするために農民に分け与えました。

ある日、自分の妹プトリ・ブルティ・シラソに似た少女を探しに旅に出ていたシログ・ンバヌアが王宮に戻ってきました。彼は、自分の探し求めていたような娘には出会えませんでした。

シログ・ンバヌアが両親に妹のプトリ・ブルティ・シラソはどこかと聞くと、ブルグ・シライデ王と王妃は、妹はもう死んでしまったと答えました。そして、彼らは、シログ・ンバヌアを妹の墓に連れて行きました。その墓を見て、シログ・ンバヌアは、妹のプトリ・ブルティ・シラソは死んだのだと信じ込んでしまいました。そして、両親がシログ・ンバヌアに見せた墓は偽物の墓であるのも知らず、彼はとても悲しみました。プトリ・ブルティ・シラソは、まだ生きていて、ニハの地のオヨ川河口近くに住んでいたのでした。しかし、両親がそのことを秘密にしていたので、シログ・ンバヌアは知るよしもありませんでした。

 


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