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マドマドの成立

〜天地創造物語〜

 

ニアスの神話によると、この世界とここに存在するものすべては、ロワラギによって創造されたと言われています。彼は9層からなる空を創りました。それから、トラーとよばれる1本の生命の木をつくりました。その聖なる木は、2つの実をつけました。また、ロワラギは1匹の金色の蜘蛛をつくりました。そして、この金色の蜘蛛が温めていた卵が孵化すると、中からこの世で最初の1対の神が誕生しました。男の方の神様はトゥハモラーギ・トゥハモラーナー、女の方の神様はブリティラオアギ・ブリティラオアナーという名前でした。彼らの子孫達はのちにそれぞれ9層の空に住むことになります。

ロワラギはこの天地の創造に、いくつかの色を材料として用いました。彼はそれらの色をシハイと呼ばれる魔法の杖で混ぜて使いました。1対の神の子孫にシラオという名の神がいました。彼は空の一つ目の層の王になりました。そこは地上にもっとも近い層です。この空の層はテテホリ・アナーと呼ばれています。シラオ神の正式な名前は、ウウ・ジホノまたはシラオ・ウウ・ザトといいます。シラオには3人の妻がいました。それぞれ3人の男の子をもうけていました。

シラオは、もう年老いたので統治者の地位から身を引こうとしました。すると、9人の息子達が王座を奪おうと口論をはじめてしまいました。シラオは、この厄介な問題を解決するために、舞踊のうまさで王位決定戦を行うことにしました。宮殿の前庭で踊って王位を競うのです。この王位決定戦に勝ったのは、一番末の子のルオ・メウォナでした。偶然にも、このルオ・メウォナは両親が一番かわいがっている息子で、民衆からも最も尊敬されている神でした。彼は謙虚でまた賢明でもありました。ルオ・メウォナはすぐにシラオに代わって王位につきました。

他の8人の息子達の気持ちをなだめようと、シラオは、ニハの地、即ち人間の土地(ニアス)に降りたいという彼らの希望を了承しました。兄達の行動を監視するため、ルオ・メウォナ王も末の息子のシログを地上のウル・モローのヒアンバウナ・オノモンドラに降ろしました。ヒアンバウナ・オノモンドラは、現在の西部ニアスのマンドゥレヘ県にあります。

8人のシラオの息子達のうち、4人は無事に地上に降り、ニアスの人々の祖先となりました。すなわち、(1)ヒアワラギ・シナダまたは通称ヒアは中部ニアスのゴモ県ボロナドゥに降り、テラウンバヌア、グロ、メンドゥロファ、ハレファなどの一族の先祖になりました。(2)ゴゾ・ヘラヘラ・ダノ、通称ゴゾは、北部ニアスのラヘワ県のヒリマジアヤ北西に降り、バエハ一族の先祖になりました。(3)ダエリ・バガンボラギ、通称ダエリは東ニアスのグヌン・シトリ県イダノイにあるトラメラに降り、ゲア、ダエリ、ラロサなどの一族の先祖になりました。(4)フル・ボーローダノ、通称フルは、北西ニアスのアラサ県ラエフアのある場所に降りそこでンドゥル、ブーローローなどの一族の先祖になりました。

ルオ・メウォナの一番下の息子シログは西ニアスに降りて、ゼブア、バウォ、ゼガなどの一族の先祖になりました。

シラオの他の4人の息子達は不幸にも途中で災難にあい、地上までたどり着くことができませんでした。そのため、彼らはニアスの人々の先祖となることはできませんでした。その4人の王子達のうちバウワダノー・ヒア通称ラトゥナ・ダノは、体が重すぎて地上に降りようとしたとき、地球を貫通してしまったのです。彼は、ダオ・ザナヤ・タノー・シサゴロまたの名をダオ・ザナヤ・タボ・セボロという大蛇に変身しました。この名前は「地球を受け止めてくれているのは彼だ」という意味です。

戦争で人間の血が滴り落ちて自分の体に当たると、彼はとても怒り、体をゆすって地震を起こします。

その大地震がおさまってくれるように、ニアスの人々は「ビハ・トゥア!ビハ・トゥア!」と叫びます。「十分でしょう、ご先祖様、十分でしょう、ご先祖様」という意味です。

「私達は過ちを犯していました。もう戦争はしません。」と蛇に対して誓うために、彼らはこの言葉を叫ぶのです。

また、ゴゾ・トゥハザガ・ロファという名の王子は、地上に降りるときに鎖が切れてしまって、川の中にザブンと落ちてしまったのです。それ以来、彼は川の神として魚を支配しています。そのため漁民達は彼をあがめているのです。

そして、ラキンドゥロライ・シタンバリナという王子は、地上に降りようとしたときに風にさらわれて、木に引っかかってしまいました。それから、彼はベラ・ホグゲウ即ち森の神となり、猟師達から尊敬されています。

シラオの息子達のうち、一番不運だったのが、シフソー・カラです。シラオが彼を地上に降ろそうとしたとき、彼は、現在ララガと呼ばれる石ころだらけの場所に落ちてしまったのです。その後、彼は、不死身の魔法の力をもつ人々の先祖となりました。

この一族の名字の由来についてのお話は、ホホと呼ばれる韻文の形式をとっています。通常、ホホは結婚式や通過儀礼などの慣習儀式でうたわれます。

 


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