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ルンドゥ・ニパフ

    〜ヘビとカエルの恩返し〜

 

ルンドゥ・ニパフという、ある王の息子がいました。ルンドゥ・ニパフの叔父は、権力を奪うため、その王を殺しました。ルンドゥ・ニパフも叔父に命を狙われていたので、国を離れ、放浪せざるをえませんでした。

ある日、密林を横切って歩いていましたが、途中で疲れてしまったので、ルンドゥ・ニパフは葉の茂った大きな木の下で座って休むことにしました。すると、突然、一匹のカエルを口にくわえたヘビが、彼の目の前を横切りました。そのカエルは痛くて叫び声をあげていました。とても悲痛な叫び声でした。ルンドゥ・ニパフは立ちあがり、すぐにそのヘビを追いかけました。ルンドゥ・ニパフが木の棒でそのヘビの頭を押さえつけると、ヘビの口にくわえられていたカエルは跳ねて逃げていきました。

そして、ルンドゥ・ニパフは、大きな木の下のもとの場所に座りました。彼が座ってしばらくすると、さっきのヘビが突然彼の前に現れました。何をする間もなく、ルンドゥ・ニパフは、そのヘビが「やあ、少年、どうしてお前はあの俺の獲物のカエルを逃がしたんだ?」と言うのを聞きました。そのヘビが上手にしゃべるので、ルンドゥ・ニパフは驚いて怖くなりました。

「俺の質問に答えろ。さもないとお前を殺すぞ。」とヘビはまた言いました。怖さのあまり震えながら、ルンドゥ・ニパフは言いました。「ごめんなさい。お父さんに、誰か困っている人がいたら助けてあげなければいけないと言われていたから、僕はあのカエルを逃がしてあげなければいけなかったんだ。もし僕があのカエルを逃がしてあげなかったら、僕はお父さんの忠告を守らなかったことになるし、僕の義務をはたさなかったことになってしまう。」

「それなら、お前は俺を助ける義務もあるだろう。あの獲物のカエルにかわるものをお前が今すぐにくれないと、俺は飢え死にしてしまうんだから。」と、そのヘビは言いました。

「かわりに何をあげればいいの?」ルンドゥ・ニパフはおどおどしながら尋ねました。

「お前の太ももの肉をさっきのカエルと同じぐらいの大きさに切って、それをくれよ。」と、ヘビははっきりと答えました。

他にどうしようもなかったので、ルンドゥ・ニパフはそのヘビの言うとおりにせざるをえませんでした。ルンドゥ・ニパフは太ももの肉を切りましたが、激痛が走り、傷口からは血がだらだらと流れ出ました。

ルンドゥ・ニパフの太ももの肉をもらうと、その毒ヘビは素早く茂みの中へと這って行きました。一方、ルンドゥ・ニパフは痛みのあまり、倒れてしまいました。

まもなく、そのヘビが、一枚の木の葉を口にくわえ、ルンドゥ・ニパフのところへまた戻ってきました。ルンドゥ・ニパフは、ヘビに噛み付かれると思い、叫び声をあげました。しかし、ヘビは「おい、少年、この俺が口にくわえている木の葉を取って、それでその太ももの傷をふきな」と言いました。

ルンドゥ・ニパフはすぐにヘビに言われたとおりにしました。その木の葉が傷口に触れると、その傷は治ってしまい、傷跡もまったく残っていませんでした。ルンドゥ・ニパフが、そのびっくりするような出来事を見て、まだあっけにとられていると、ヘビは「お前は、親の忠告を守り、自分の義務を臆することなく果たすことのできる若者だから、この葉をもつ資格がある。大事にしまっておけ。その葉はどんな病気でもなおすことができるんだ。」と言いました。ヘビはそう言い終わると、すぐに茂みの中へ消えて行きました。

何週間かさまよい歩いて、ルンドゥ・ニパフはある大きな王国に着きました。彼は、夫も子供もない、ある老婆の家に入れてもらいました。その老婆は、ルンドゥ・ニパフが行儀のよい少年だったので、彼のことをとてもかわいがりました。

ある晩、老婆はルンドゥ・ニパフに、その国の王の一人娘がもう長いこと重い病にかかっているという話をしました。何十人もの有名な呪術師が治療しましたが、その王の娘の病気は治全然りません。

翌日、ルンドゥ・ニパフはこっそりと王宮に行きました。王の許可を得て、彼は、お姫様の病気の治療を試みました。ヘビにもらった病気を治す葉でお姫様のひたいをはらうと、そのとてもきれいな少女の病気はあっという間に治りました。王様はそれを見てとても驚きました。その功績にこたえるために、王様はルンドゥ・ニパフを自分の娘と結婚させました。

1年後、ルンドゥ・ニパフと妻は船で川を渡り、彼の生まれ故郷の国へ航行しました。彼らは、武装兵士をたくさん乗せた大きな船を数十艘従えていました。ルンドゥ・ニパフは、父を殺し現在王位 についている叔父に対し正義を正そうとしていたのです。

彼の国への航行中、父から受け継いだ指輪がルンドゥ・ニパフのかわいらしい指から抜け、川の中へ落ちてしまいました。ルンドゥ・ニパフの一行は船を止め、指輪を探しましたが、見つかりませんでした。ルンドゥ・ニパフは悲しみました。その指輪は、彼が父にかわって王位を継承する資格をもつ者であることを証明する指輪だったからです。その指輪をなくしてしまったということは、ルンドゥ・ニパフが王位継承の資格を失ってしまったというのと同じことです。

ルンドゥ・ニパフと彼の妻が船の上で物思いにふけっていると、突然一匹のカエルが川から飛び上がり彼らの目の前に着地しました。するとカエルは川に落としてしまったルンドゥ・ニパフの指輪を口から吐き出しました。すぐにそのカエルはまた川に飛び込みました。そのカエルはルンドゥ・ニパフが以前に助けたカエルでした。生まれ故郷の国に着くと、ルンドゥ・ニパフは、彼の護衛隊に彼の叔父の軍隊の攻撃に備えておくよう命じました。彼は彼の到着が彼の叔父に攻撃によって迎えられるだろうと確信していたからです。しかし、一人の老人がルンドゥ・ニパフの元を訪れ、ルンドゥ・ニパフに、3日前に残酷で権力気違いの彼の叔父は他界した、と伝えました。叔父は、森に鹿狩に出かけたときにヘビにかまれて死んだのでした。老人のその話を聞いて、ルンドゥ・ニパフは、治療の葉を彼にくれたヘビが叔父に噛みついて、叔父は死んだのではないか、と思いました。そのルンドゥ・ニパフの推測は間違いではありませんでした。そのヘビが彼の叔父に噛みついたのです。

ルンドゥ・ニパフが彼の故郷の国に戻ってきて、その国の人々は喜びました。彼らは長い間彼の登場を待っていたのです。そして、その国の人々はルンドゥ・ニパフに、父の後を継いで国王になってくれるようお願いしました。

 


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