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クマラウ島の伝説

〜金を捨ててしまった男〜

 

この物語は、イスラム教が仏教にとってかわって拡まりはじめたころ、パレンバンで起こった話です。

パレンバンに、美しいことで有名な貴族の娘がいたと伝えられています。その噂は、中国のある青年のところにまで届いていました。

その中国人の青年は、彼女にプロポーズしようと思い、パレンバンまでやってきました。しかし、青年は彼女に会うことが出来ませんでした。なぜなら、当時、パレンバンではまだ未婚女性を家の中に閉じ込めておくという慣習があったからです。中国人の青年は、彼が夢に描く娘の顔を見ることすら出来ませんでした。

そうではありましたが、その娘と結婚したいという気持ちは固かったので、青年はプロポーズしようと決心しました。プロポーズは受け入れてもらえましたが、それには条件がありました。その条件の一つは、彼がイスラムに改宗することです。そして、二つめは、金を一杯に詰めた大きな壷8つを結納として差し出さなければいけないという条件でした。

中国人の青年はその条件を全て承諾しました。彼は自分の国に使節を送って、両親に金を詰めた大壷8つを送ってくれるよう頼みました。

彼の両親は、彼のお願いを軽く引きうけてくれて、息子に金を送ることにしました。しかし、当時、航海はとても危険で海賊も多くいました。そこで、両親は品物が無事に息子の手に渡るようにとあの手この手を考え、そして、いい案を思いつきました。

壷に金を詰めたあと、その上に香辛料のタウチョと椰子酒を置いて、金を覆い隠すのです。そうすれば、誰からも金が入っていると疑われることなく無事に息子のところに届くと思ったのです。

しかし、なんと、その秘密は息子にも知らされていなかったのです。青年は、両親から送られてきた壷を見ましたが、金などはどこにもなく、タウチョと椰子酒しか見ません。青年はとてもがっかりしました。そして、怒ってその壷をすべて底の深いムシ川に投げ捨ててしまいました。

後で彼は自分が川に捨てたものが実は金だったということを知ると、とても驚いて、気を失ってそのまま死んでしまいました。

このとても悲しい出来事は、ムシ川の中にあるクマラウ島で起こった出来事です。

この自分のフィアンセの悲しい知らせを聞いて、娘もすぐにクマラウ島にわたり、そこでまもなく彼女もこの世を去ってしまいました。

きっと彼ら二人はもともと一緒になる運命だったのでしょう。この世では一緒になれませんでしたが、あの世ではきっと一緒になって幸せにくらしていることでしょう。

 


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