<スマトラの昔話> 前のお話 次のお話

二人の王の物語

〜一人の姫と七人の夫〜

 

昔々、ドゥグル・ドゥニア王とサリトゥオレラ王という二人の王がいました。二人の王国は離れたところにあるため、彼らはそれまで実際に会ったことはありませんでした。
あるとき、サリトゥオレラ王はドゥグル・ドゥニア王の超自然の力についての噂を聞きました。その噂によると、ドゥグル・ドゥニア王は他人の心の中を読むことができ、その人の考えていることが分かるそうです。その噂を知って、サリトゥオレラ王はドゥグル・ドゥニア王を妬ましく思いました。サリトゥオレラ王は自分こそが当時シマルングンにいた王の中で最も超自然力に長けた王だと思っていたからです。サリトゥオレラ王の超自然力もとても強力で、死者を生き返らせる力ももっていました。
サリトゥオレラ王はドゥグル・ドゥニア王に挑戦しようと思い、お互いに問題を出し合い、その答えを言い当てる勝負を申し出ました。そして、負けたほうが目をほじくり出さなければいけないという条件をつけまし。ドゥグル・ドゥニア王はそのサリトゥオレラ王の挑戦を受けました。
その勝負の前に、サリトゥオレラは、ドゥグル・ドゥニア王でも当てられないだろうと思うような難しい問題をたくさん用意しました。問題の答えを当てられなければ、目をほじくり出さなければならないのです。
勝負の日がきました。二人の王は、問題の答えを当てるのがうまいのはどちらかを競い合うために、向き合って座りました。両者側からの証人がその二人の王の勝負を見守りました。
ドゥグル・ドゥニア王が最初に問題を出す側になり、サリトゥオレラ王が答える側になりました。それから、サリトゥオレラ王が問題を出す側になり、ドゥグル・ドゥニア王が答える側になりました。そのようにして交互に何度か繰り返され、すべての問題が出し尽くされました。
結果は、ドゥグル・ドゥニア王は超自然の力でサリトゥオレラ王の問題をすべて当ててしまい、一方、サリトゥオレラ王は、ドゥグル・ドゥニア王が出した問題をいくつか答えることができませんでした。サリトゥオレラ王の負けです。彼は目玉をほじくり出さなければなりません。しかし、サリトゥオレラ王は、恐ろしくなって、走って逃げて行ってしまいました。それから、彼はドゥグル・ドゥニア王に捕まらないように森の中に隠れました。
その出来事から1年後、一人の青年がよその王国からドゥグル・ドゥニア王に会いにきました。彼は、ドゥグル・ドゥニア王の一人娘のラッティン・ブンガ姫にプロポーズしに来たのです。ドゥグル・ドゥニア王はその青年のプロポーズを拒否はしませんでしたが、すぐに受け入れもしませんでした。ただそのプロポーズを検討すると言っただけでした。王の決定をを待つ間、青年は王のためにいろいろな手伝いをしなければなりませんでした。そして、青年は、ドゥグル・ドゥニア王の王国を後にしました。
ラッティン・ブンガ姫の美貌についての噂はいろいろなところに広まり、周囲の王国から多くの青年が彼女を妃にするためにやってきました。最初の青年のほかにも、別の王国から6人の青年がラッティン・ブンガ姫にプロポーズをしに来ました。ドゥグル・ドゥニア王は、その6人の青年たちに対しても、最初の青年の時と同じような態度をとりました。そして、7人目もドゥグル・ドゥニア王国で、6人の青年達と一緒に毎日、王の手伝いをさせられました。
7人目の青年がプロポーズしてすでに1年が過ぎるのですが、ドゥグル・ドゥニア王はまだ決定を下しませんでした。そのため、彼ら7人の青年達は次第に怒りをおぼえるようになりました。そして、自分達7人のうちからラッティン・ブンガ姫を妻にすることができるのはただ一人だけだということに気づくと、彼らの怒りはますます強くなりました。彼らは、これでは公平ではないと思い、話し合いました。そして、彼らは、みんなが平等にロッティン・ブンガ姫を妻とすることができないように、彼女を殺してしまおうと決意しました。彼らが話し合いをしているとき、偶然にある人が通りかかり、その彼らの計画を耳にしてしまいました。その人はそれをドゥグル・ドゥニア王に知らせに行きました。
ドゥグル・ドゥニア王はそれを聞いて恐ろしくなりました。王は、彼らが力強い剣士で、自分が力でかなう相手ではないということを知っていたからです。そのため、王は姫を連れて森の中に逃げ込みました。
森の中で、ソゥグル・ドゥニア王はサリトゥオレラ王にばったり出くわしました。最初、サリトゥオレラ王はドゥグル・ドゥニア王が自分を捕まえに来たのだと思い、恐れました。しかし、ドゥグル・ドゥニア王が、サリトゥオレラ王の目玉をほじくり出すために来たのではなく、ラッティン・ブンガ姫の命を守るために逃げ込んできたのだと説明すると、安心しました。そして、サリトゥオレラ王は、「どうしてラッティン・ブンガ姫が命を狙われる羽目になったのか」と、聞きました。
ドゥグル・ドゥニア王はサリトゥオレラ王に一部始終事情を話しました。
サリトゥオレラ王はその事情を理解して、「目玉をえぐり出さないでくれるのなら、その問題を解決してあげよう」と言いました。ドゥグル・ドゥニア王は同意し、彼らは7人の青年達に会いに行きました。
サリトゥオレラ王は7人の青年に会うと、彼らに一つの大きな土鍋を用意するように言いました。土鍋には水がはられ、そしてその土鍋は火にかけられました。そして、サリトゥオレラ王は呪文を唱えながら様々な薬草をその土鍋の中に入れました。土鍋の中の水が煮立つと、サリトゥオレラ王はラッティン・ブンガ姫にその中に入るように言いました。最初、ラッティン・ブンガ姫は嫌がりましたが、サリトゥオレラ王が彼女の身には何も起こらないと約束したのでラッティン・ブンガ姫は勇気を出して、その煮立ったお湯の中に入りました。まもなく、その煮立ったお湯の中のラッティン・ブンガ姫の姿は消えました。
それから、サリトゥオレラ王は7人の青年たちに一列に並んで立って、自分の目の前にそれぞれが穴を掘るようにと言いました。7人の青年が穴を掘り終わると、サリトゥオレラ王は、土鍋の中から煮立ったお湯を汲んで、呪文を唱えながら7人の青年がそれぞれ掘った穴にそのお湯を注ぎました。
するとまもなく、それぞれの穴からラッティン・ブンガ姫そっくりのとても可愛い少女が現れました。誰一人その7人の少女のうちどれが本物のラッティン・ブンガ姫なのか分かりませんでした。みんな全く同じ顔をしていました。

数日後、その7人の少女達とラッティン・ブンガ姫を妻にしたいと思っていた7人の青年達の結婚式が行われました。こうして、7人すべての青年がラッティン・ブンガ姫そっくりの妻を手に入れることができたのです。

 


前のお話  ▲トップ▲   次のお話