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ャハラン王国成立の伝説

 

アチェのタンプ王国のニニ姫は、とても美しいことで有名で、その噂は周辺の王国にまで伝わっていました。そのため、彼女と結婚したいと思っている王子達がたくさんいました。ニニ姫は、テウク・マラリ王と母チャ・マの娘でした。

チャ・サイマンという一人の王子が、彼女を無理やり自分の妃にしようとしているという噂がありました。彼女の両親がその結婚を許可しないならば、チャ・サイマン王国はタンプ王国に攻め込んでくるでしょう。チャ・サイマン王国はとても強力でした。タンプ王国は力ではチャ・サイマン王国に敵いませんでした。そのため、ニニ姫も両親もチャ・サイマンのことが好きではありませんでしたが、チャ・サイマンの要求に従わなくてはなりませんでした。

しかし、ニニ姫には実は内緒で付き合っている人がいました。彼は平民の出身で、家もなく、椰子の実採りの仕事をしていました。名前をガマ・デワといいました。ニニ姫がムアラ・トゥジュの泉に落ちてしまったのをガマ・デワが救ったのが二人の出会いのきっかけでした。

チャ・サイマンは傲慢で貪欲だったので、ニニ姫は彼のことが嫌いでした。チャ・サイマンは誰に対しても暴力を振るいます。彼は他人を見下していました。ガマ・デワのことも見下していました。

ガマ・デワがチャ・サイマンに物乞いをすると、彼はガマ・デワを殴りました。そのとき、ガマ・デワは、彼に宗教的な訓戒を与え、彼の傲慢な態度を非難しました。幸いにも、チャ・サイマンの暴力行為は、ニニ姫の付き人によっておさえられました。そして、ガマ・デワはその付き人に善の言葉を与えました。

チャ・サイマンはニニ姫とガマ・デワの関係を知ると、とても怒りました。そして、彼は国中の兵士を集め、テウク・マラリの統治するタンプ王国を襲撃しようとしました。

テウク・マラリは、チャ・サイマンの計画を知ると、チャ・サイマンが本当に攻め込んできたら、自分の王国はどうなってしまうのか、と気が動転してしまいました。

テウク・マラリのご意見番のトゥアンク・ガンポンは、すぐに、チャ・サイマンに、早まるなと説得しました。トゥアンク・ガンポンはテウク・マラリが今、姫を説得しているところだから、と言いました。

一方、テウク・マラリは、護衛官にガマ・デワを捕らえるよう命じました。ガマ・デワは、その危機を招いた張本人と見られていたからです。チャ・サイマンはトゥアンク・ガンポンの忠告には耳も傾けませんでした。ニニ姫の付き人も一緒になって、悪心に従うなとチャ・サイマンを説得しました。

チャ・サイマンは、ニニ姫の付き人の言葉が実はガマ・デワから受けた訓戒であることに気づくと、とても腹を立てました。そして、ニニ姫の付き人をすぐに捕らえ、地下牢に閉じ込めました。この権力まかせの残忍な行為を知ると、ニニ姫はチャ・サイマンに対する憎悪心が増しました。彼女は、強固に彼の愛を拒みました。

テウク・マラリの護衛官は、ムアラ・トゥジュの泉の辺を探してもどこにもガマ・デワはいなかった、と報告しました。護衛官達が出会ったのはただ、王に会いたいと言っている神の王国からの一人の使者だけでした。その神の王国からの使者は、王を彼のところによこすように言いました。

テウク・マラリ王は、その使者の要求どおり、その場所へ行くことにしました。彼の妃とニニ姫、トゥアンク・ガンポンも一緒でした。また、チャ・サイマンも数人の護衛官を従えてテウク・マラリ王と一緒にムアラ・トゥジュの泉へ行きました。そこで、彼らは、神の王国からの使者、トゥアンク・パティに会いました。彼らはすぐにチャ・サイマンの求婚がニニ姫に断られたことで起こったタンプ王国の危機について話し合いました。

彼らが熱心に話し合っていると、突然、茂みの中から品のよく、顔立ちのよい青年が現れました。彼は真っ白できれいなジュバ(すその長い上衣)を着ていました。彼は、まさしくガマ・デワその人でした。彼は、近くの清らかな泉からとった、清水で顔を洗って、見違えるような姿になっていました。それを見て、そこいた皆、特にニニ姫は驚きました。

トゥアンク・パティは、彼らに善の宗教的訓戒を与えました。とくにチャ・サイマンに対しては、もう権力を振りかざしての残忍な行為はしないよう忠告しました。

チャ・サイマンは、そのような忠告をありがたく受け入れるような人ではありません。彼は短刀を引きぬ くと、トゥアンク・パティの胸を突き刺そうとしました。幸いにも、トゥアンク・パティがチャ・サイマンの体を硬直させ動けないようにしてしまったので、トゥアンク・パティは無事でした。

トゥアンク・パティは、チャ・サイマンはまだ更正できると思ったので、体をまたもとに戻してあげました。しかし、逆にチャ・サイマンはいきなり発狂し、そして、王と王妃を殺してしまったのでした。

タンプ王国の護衛官達が、チャ・サイマンを捕まえました。チャ・サイマンは裁きを受けるため王国に連れて行かれました。しかし、彼は裁判が始まる前に自殺しました。

そして、結局、ニニ姫はガマ・デワと結婚しました。彼らは、国をよく治めました。のちに、王国の首都は王と王妃がチャ・サイマンに殺され命を落とした場所に移されました。

その王国はチャハランと名づけられました。「チャハラン」という名前は「茅草を刈る」という意味の「チャ・アラン」という言葉から作られたものです。そこに王宮を建てようとしたときに、そこにたくさん生えている茅草をまず刈り取らなければいけなかったから、そのような名前がつけられたのでした。

 


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