<ロティの民話> 前のお話

ヤシの木ふたりの少年がはとになった話 

テキスト提供:小澤俊夫さん


 昔は地上の人間が天へ昇ることができた。そして逆に天の人びとが地上へ降りてくることもできた。そのころには天と地はもっと近かったのだ。人びとはそれぞれ望みに従って木の階段を通って行ったり来たりすることかできた。

 天のその階段から遠くないところにひとりのおばあさんがふたりの孫といっしょに暮らしていた。ある日のこと、そのおばあさんが孫たちに地上へ降りていって火を取ってこいと言った。ふたりの子どもは火を取りに降りていった。ふたりはあちらこちらと歩き回って、火のある家か火のある場所をたずね回った。長いことたずね回ったあげく、ふたりはやっと火をもっている小屋に着いた。

そこへ着くと兄のほうが言った「それ、運よく火を見つけたぞ。さあ、火を担いでおばあさんのところへ持っていこう。これが手にはいったらおばあさんはきっと喜ぶよ」。

「そうだ。だけどどうやって持っていったらいいんだろう?」と弟がきいた。

「なあに、かんたんさ」と兄は答えて、燃えている木炭をひとつ手に取った。ところがその木炭はまっ赤に燃えていたので、兄はすぐその炭を投げ出してこう言った「気をつけろよ、弟。火には歯があるぞ。ぼくの手があやうく食い切られるところだった」。

「歯だって?ちょっと待つてて。ぼくがなわを捜してくるから。なわでその炭をしっかり縛って引っぱっていけばいいだろう」。そう言って弟は出かけていってなわを捜した。そしてなわを見つけるとそれで炭をきつく縛った。それから兄に向かってこう言った「兄さん、おいでよ。炭を縛ったから引っぱっていこう」。

ところが、弟がそう言い終わらないうちに、なわは見るまにすっかり火で焼ぎ切られてしまった。「おや、なわがかみ切られてしまったぞ。さて、どうしたらいいんだろう?」と弟が言った。すると兄がこう答えた「なに、かんたんさ。ふたりでいっしょにその炭を捕まえてぼくのポケットに入れていこう」

 ふたりはその炭を捕まえて兄の上着のポケットへ突っ込んだ。一分もたたないうちに上着のポケットが燃えて、炭は地面に落ちた。ふたりの子どもは、手にかみついて痛い目に合わせ、なわは食い切り、上着のポケットには穴を開けてしまうこのちっぽけな火というものを前にして、いよいよ絶望的になってしまった。

 「そもそもこの火の歯はどこにあるんだろうね?」と弟がきいた。「ぼくにもわからないんだ。わかりさえすれば、その歯を抜いてやるんだがなあ」と兄が言った。兄弟は歯がいったいどこにあるのかと思って、炭をぐるぐるまわしてみた。けれどもどこにも歯は見つからなかったので、途方にくれてすわり込んでしまった。

 突然兄のほうがこう言った「いい考えがある。あの炭をぼくの毛布で包んでしまおう。うんとしっかり包めば、もう炭だってかめやしないだろう」。

兄はそう言うとまた炭を取って、持っていた毛布にくるんだ。それから弟に向かってこう言った「さあ、おいで、弟よ。うちへ帰ろう。もう火だって手は出せないよ」。

それからふたりは毛布にくるんだ火を持ってあの階段のところへ行った。ふたりは火がすでに毛布に燃え移っていることを知らなかった。熱くなってくると兄がこう言った「うへえ、ちょっと来てくれ、弟よ。またかみつきはじめたぞ!」 そしてふたりは階段目がげて急いで行った。

ところがそこへ着く前に毛布に包まれた火が燃え上がり、その毛布と光の体を焼いた。それでふたりは火を地面に投げ捨てた。火は草と、階段のまわりに積み重なっていた枯れ葉を焼いた。炎はだんだん高く上がり、しまいに木の階段を焼いてしまった。それで天の人間はもはや地上へ降りてくることができなくなり、ついに地上の人間はもはや天へ昇ることができなくなった。

 階段が燃えるのを見て、ふたりの兄弟はこわくなり、そこから逃げ出して森の中へ隠れた。おばあさんは天と地をつないでいる階段が火に包まれて燃え落ちたことを聞くと、それはふたりの孫のしわざにちがいないと思った。それで腹をたてて階段のあった場所へ近づいて大声でふたりの孫のことを呼んだが、答えはなかった。

 おばあさんの怒りは強くなるばかりだった。そしてふたりの孫のことをのろった。おばあさんがのろいの言葉を言い終わると、天がしだいに高くなっていくのがわかった。のろわれたふたりの子どもたちははとに変身し、天へ向かって飛んでいったが、はとが天へ着く前に天はもっと高いところへ昇ってしまった。

 二羽のはとは地上へもどってきて仲よく暮らした。はとは今日見られるように、その後数千羽にふえた。

 


前のお話  ▲トップ▲   次のお話