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ヤシの木一番おなかの大きい動物

〜水牛とウシガエルのかけっこくらべ〜 

 

ウシガエルはこぶし大の大きなカエルで、頭は小さいのですが、おなかが大きく膨らんでいます。雨がやむと、ウシガエルの鳴き声が大きく響き渡ります。とりわけ何匹か集まると、ウシガエルの鳴き声は静寂を引き裂くような大合唱になるのでした。

ある日の夕方、激しい雨があがるとすぐに、水牛は、ウシガエルの住む場所の近くで草を食べ始めました。水牛が草を食べるのに夢中になっていると、突然ウシガエルが大声で鳴きはじめました。

「ゲロゲロ、ゲロゲロ、ゲロゲロ!」と一匹のウシガエルが鳴きはじめると、他のウシガエルも一緒に鳴きはじめました。水牛はどんなに驚いたことでしょう。水牛は、その声が雷の音だと思ったのです。水牛は雷が恐くて、水辺に走って行きました。

水辺に着くころに、「ゲロゲロ」という鳴き声が聞こえました。水牛は立ち止まって耳をそばだてました。よく聞くと、その声はウシガエルの声だということが分かりました。

その日はもう暗くなりはじめていたので、水牛は水辺で眠りにつこうとしていました。水牛が草を食んでいると、その水辺のまわりに住んでいるウシガエルたちの声が聞こえました。ウシガエルたちの声は、絶えることなく一晩中続きました。水牛は、水辺にいるウシガエルたちに文句を言いました。

「ちょっと、ウシガエルさん! あなたたちの口は小さいのに、声は大きくて、竹が割れる音みたいにひどいものだね」水牛は悪口を言いました。

「ねぇ、水牛さん。あなたは昼も夜もずっと食べつづけているから、あなたのおなかが山みたいに大きいのは当たり前だね」とウシガエルが答えました。

「わたしのおなかは確かに大きいけれど、大きい私の体にはちょうどいいんだよ。あなたの大きいおなかは、小さいからだと頭にふつりあいだよ」と水牛は言いました。

水牛とウシガエルがお互いに悪口を言い合っていると、一匹のネズミがやってきました。ネズミはその水辺の近くに住んでいるのでした。ネズミは、水牛とウシガエルの間の「大きいおなか」の問題を終わらせようとしました。

「水牛さんもウシガエルたちも今日はもうこのくらいにして、明日の朝に、かけっこで勝負をしよう。負けた人が大きなおなかの持ち主だよ」とネズミは言いました。

「いやだよ」とウシガエルは言いました。

「それはいい考えだね」と、勝てると思った水牛は言いました。

「もしウシガエルが勝負したくないなら、人間に負けたと宣言しなければいけないんだよ。人間に、一番おなかが大きいのはウシガエルだって言うんだよ」

「わかったよ。わたしはまだ負けをみとめていないけど、今晩考えてみるよ」とウシガエルは言いました。その晩、ウシガエルは、水牛とのかけっこ競走に勝つような知恵を考え出しました。ウシガエルは他のウシガエルに、太陽が昇る前に水牛のしっぽのところにいるように命令しました。

日が高くなる前で水牛がまだ水辺で寝ているときに、ウシガエルの友達はそっと水牛のしっぽの根本にむかっていました。しっぽの根本の下には小さな洞窟に似た場所があって、そこにウシガエルの友達はかくれていました。

その日の朝、水牛が立ちあがって水辺から出るとすぐに、ウシガエルはかけっこ競走をすぐにしようと言いました。水牛もうきうきして、証人と審判としてネズミを呼びました。

かけっこ競走の開始をネズミが宣言すると、ウシガエルは走るのを見せつけました?。なぜなら、水牛も走るのが速いからでした。地上で立っているウシガエルが走ることはありませんでした。一方、水牛のしっぽの根本にかくれている、もう片方のウシガエルは、ゆっくりと水牛の腰の上に移動して、水牛の頭の上でじっとしていました。ゴールラインに来るやいなや、そのウシガエルは、まるで水牛よりも早く着いたかのように、前にとびこんだのでした。

「わたしのほうが早かったね」と誇らしげにウシガエルは言いました。水牛は、ウシガエルがもうゴールラインにいたのを見て、驚いてしまいました。水牛がかけっこ競走に負けたのでした。約束したように、負けた方が人間に自分が一番おなかの大きい動物だと言わなければなりません。ですから、水牛は人間を探しに出かけていきました。

「ねぇ、人間さん。わたしはウシガエルとのかけっこ競走に負けました。負けたから、この世で大きいおなかをしている動物は私です」と、人間に会ったときに水牛は言いました。

「あなたのおなかは大きいけれど、あなたは正直だね。」と人間が水牛に言いました。

「だったら、わたしと友達にならない?」とうれしそうに水牛はたずねました。

「いいよ。水牛みんなをわたしがお世話するよ。ウシガエルや水辺はほうっておいてさ」と人間は答えました。

その答えを聞いて、水牛はとても嬉しかったのでした。水牛は人間とお友達になりました。水牛は、田んぼを耕したり、人間の荷物を運んだりして人間の仕事を手伝うことになったのでした。

 


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