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ヤシの木植物物語  

 

むかしむかし、二人の孤児が住んでいました。二人はきょうだいで、上は男の子で、下は女の子でした。その二人のきょうだいの暮らしは、食べるものがなくておなかをすかせる日々でした。毎日二人は森にイモを探しに出かけました。しかしそのイモは誰かが植えたものではなくて、森のどこかに生えているものを探すしかありませんでした。彼らの暮らしは、森のイモしか食べることができない、非常に苦しいものでした。

ある日、兄は妹に、森を切り開いて畑を作ろうと言いました。鉈と斧を研いだ兄は、妹と一緒に豊かな土地を求めて谷や丘を越えていきました。二人は豊かな7つの谷と丘を切り開きました。3ヶ月ほどかけて木々や雑草を取り払ったので、色々な植物を植えるのに適した豊かな畑ができたのでした。

「植物を植える畑はもうあるけれど、肝心の種は一つも持っていないな」と兄は妹に言いました。兄は植物の種がないのでとても心配になりました。

「兄さん、心配しないで! どうぞ私を殺して!」

「一体どういうつもりなんだ?」と兄は驚いた調子でたずねました。

「私を殺すのよ」と妹はもう一度答えました。

「そんな事を言わないでくれ」と兄は言いました。やさしい兄は妹を死なせたくはなかったし、もちろん殺したくだってありません。兄は妹と生死をともにしたかったのです。

「兄さん、私を困らせないで! もし兄さんが私を殺さないなら、私たちは食べるものを何一つ手に入れられないのよ。兄さんがいつも空腹で心配しないように私を死なせてちょうだい」と妹が、兄のために犠牲になることをいとわずに言いました。

妹の言葉を聞いていた兄は、妹を殺したくないという気持ちに変わりはありませんでした。しかし、妹は自分を殺すようにといつも兄に勧めるようになりました。

「私はたったひとりの妹を殺したくはないけれども、お前は私にそうさせようとする。私がお前を殺したあとに、私は一体何をするというのだ?」と兄はたずねました。

「私の血を畑の四隅にかけ、片方の足をひとつの角に、もう片方の足をまた別 の角に植えてください。両手はまた他の角に、頭と胴体は畑の中心に植えてください」と妹は言いました。

「植物が生えてくるのに何日かかるか教えてほしい」と兄は頼みました。

「もし私が死んだら、すぐに村に戻ってください。村に着いて3日後にこの畑にやってきて調べてみてください」と妹は言いました。

ついに、兄は妹の言う通りにしました。目を閉じながら、兄は鉈を妹に振り下ろしました。頭を切断して畑の中央に埋め、両足を切って下の二つの角に埋め、両手を上のほうの角に埋めました。残った胴体は畑の真中に埋めました。そうして、兄は村に戻っていきました。

村について3日後、兄は畑に戻ってきました。畑の端につくと、とうもろこし・稲・豆・イモなどの色々な種類の植物が畑に生えているのを見て、兄はとても驚きました。全ての植物を見ながら、兄は妹を思い出して泣きました。

やがて、植物は収穫の時期になったので、兄は倉庫をたてるために村に戻りました。倉庫ができあがった時、兄は「もし妹が妹のいない孤児の私を愛しているのなら、全ての植物は畑からやってきて、倉庫の中に入るのだ」と言いました。

兄がそう言うと、ジャリ(※数珠玉。イネ科の多年草で、薬用に栽培される)を除く畑の全ての種類の植物が倉庫の前にやってきました。ジャリが倉庫にやってこないのを見て、他の植物は「おい、ジャリ、どうしてご主人の倉庫へやってこないのだ?」とたずねました。

「私は足にけがをしていて動くことができないんだ」とジャリは答えました。ジャリは他の植物にご主人を呼ぶように言いました。

「我々のご主人を呼びなさい! ご主人は私を大切に頭にのせ、家まで運んでくれなくてはいけない」とジャリは他の植物に命令しました。

「おい、ジャリ。どうしてお前は我々のご主人から大切にしてもらわなくてはいけないんだ?」と他の植物がたずねました。その質問にジャリは答えませんでした。自分で倉庫に来ようとせず、主人の頭に大切にのせてほしがるジャリを見て、倉庫の前にいた全ての植物もまた畑に戻っていきました。

ついに、自分で倉庫へやってくる植物はひとつもありませんでした。ですからご主人は畑に行きました。全ての植物は収穫され、全ての収穫物は家に着いて倉庫に入れられるまで大切にされるようになりました。

 


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