サルとカエル
〜猿蛙合戦〜
ササク語テキスト提供:Lomok & Sumbawa Research Project (The University of Melbourne、Department of Linguistics & Applied Linguistics)
主査Peter Austin教授
ほんなら童どもに,サルとカエルの話をするとしようかのう。
この話はなあ,バナナの木がプカプカと川上から流れてきてな,それを捕まえに行こうとしたカエルとサルが出会うところから始まるんじゃ。
そいつらはバナナの木を見つけた。するとカエルがすぐさま川へ飛び込んで,バナナの木を捕まえたんじゃ。その木は川の水にすっかり洗われておった。
カエルは岸にたどり着くとこう言った。
「どうだい,ひとつバナナを育てる競争でもしないか?
俺の木とお前の木,どっちが早く実をつけるか」
「よし,やってやろう」
とサルは言った。
「じゃあ,上半分と下半分,どっちを持って帰って育てる?」
「おれは上半分をいただくとしよう。こっちの方が早く実をつけるにちがいない」
とサルは言った。
「よしきた。じゃあ俺は下半分だ」
それからカエルは,バナナの木を植えた。うまいこと穴を掘ってその中に木を入れ,周りを土で固めたんじゃ。
ああ,サルはというとな,木を土に植えることはせんで,タリマンドの木の上に持っていって,そこに吊るしておいたんじゃ。
一週間たって,サルはカエルを訪ねてこう言った。
「よう,バナナの調子はどうだい?」
「ああ,ちょうど芽を出したところさ。そっちは?」
「おれのもそんなところさ」
この話に出てくるサルは,冗談好きのいたずら好きで,本当のことは言わんサルじゃった。
また次の日,
「よう,バナナの調子はどうだい?」
「葉を二枚つけたところさ」
「おれのもそんなところさ」
一週間後,
「よう,バナナの調子はどうだい?」
「葉を三枚つけたところさ。そっちは?」
「おれのもそんなところさ」
サルの答えはいつも「おれのもそんなところさ」じゃった。
実のところサルが持ち帰ったバナナの木は,タリマンドの木の上で,暑さにやられてすっかり干からびていたんじゃよ。
サルは,実は木の先端の方になるから,上半分を持ってかえればいいと思っておったようじゃ。その方が,早く実が成るだろうとな。
話をはやく進めようかの。バナナはすっかり大きくなって,すでに花をつけ,実を結んでおった。
サルはカエルを訪ねて言った。
「よう,バナナの調子はどうだい?」
「もうほとんど熟れているよ」
「おれのも似たようなもんさ」
とサルはまた言った。
カエルのバナナは,もう十分に熟れた。
するとサルがまた訪ねてきて言った。
「ちょっと味見させてもらえねえかな」
カエルは人を疑うことを知らんかった。
請われればあげようと思っておった。
それでピョンピョンはねて木に登ろうとした。じゃが,いくらやっても滑り落ちてくるだけじゃった。
ピョンピョンとんでは,ズルズルっと滑り落ち,
ピョンピョンとんでは,ズルズルっと滑り落ち。
そのくり返しじゃった。
「おれにやらせてくれよ」
とサルが言った。
「いいとも」
とカエルは答えた。
たったの一飛びで,サルは木のてっぺんまでたどり着いた。サルはまっすぐバナナの実に向かっていった。
「うわははっ,なんてえでかいバナナだ,よく育てたもんだぜ」
木の上からサルは言った。
「じゃあまずこいつからいただこうか」
サルはバナナを一本もぎ取って食べた。
「ははっ,こりゃあ本当にうめえや」
「おおい,一本落としてくれないか」
とカエルは言った。
「まあちょっと待てよ。まだよく味わってねえんだ」
またサルはバナナを一本もぎ取った。
サルは片手に持っていたバナナを食べ終わると,もう一方の手に持っていたバナナに取りかかった。
ついに,サルは持っていたバナナを平らげた。
「おおい,俺にも一本残しておいてくれよ。自分で育てたバナナを味わって見たいんだ」
「まあちょっと待てよ。どんな味か,まだいまいちわかんねえんだよ」
とサルは言った。
バナナを平らげた時でさえ,サルはカエルのために,バナナを一本も落としてやろうとはしなかったんじゃ。このバナナを育てたのは,このカエルだっていうのになあ。
サルはカエルの気持ちなんて,まったく考えておらんかったんじゃよ。
ついに怒ったカエルは,「トゥンクラッ」を探しに行ってしまった。
「トゥンクラッ」というのは,ココナッツをふたつに割るときに使うものじゃ。
カエルは半分に割ったココナッツの中に隠れて,サルが登った木の下にいた。
バナナを平らげたサルは,木から降りてきた。
「おいカエル,どこに消えちまったんだ?」
とサルは言った。
サルは満腹じゃった。
サルはココナッツの殻に,どっかりと座った。さっきわしが言った,半分に割れたココナッツのことじゃよ。
「おーい,カエル!」
とサルは叫んだ。
「チュル」
と,サルが座っているココナッツの下から,カエルは言った。
「なんだ?金玉がしゃべってやがるのか?」
とサルはカテン方言で言った。
「カエル!」
「チュル」とカエルはサルの尻の下から応えた。
「おいどういうことだよ,金玉。なんでおまえが応えてんだよ」
またサルは呼んだ。
「カエル!」
「チュル」とカエルはココナッツの下から応えた。「はん,まだ金玉が応えてやがる。いいか,もしもう一度応えたらぶっとばすからな」
とサルは言って,また呼んだ。
「カエル!」
「チュル」
「こんのやろう!!」
サルは自分の金玉に向かって怒った。
「カエル!」
「チュル」
サルはしつこい応えに,今度こそ本当に怒った。自分の金玉が応えておると思ったんじゃな。
ああ,やつは自分で自分の金玉を殴って,痛さの余り飛び上がったんじゃ。
それを見て,カエルは言ったんじゃよ。
「ああ。悪いことをしたり考えたりすると,それ相応の罰を受けるってことなんだよ」