<イリアンの民話> 次のお話

ヤシの木いるかの皮で変装した少年

テキスト提供:小澤俊夫さん

 

 
 あるやもめにふたりの子どもがあった。それは男の子と女の子だった。あるとき、母親がかにを一ぴき捕まえてそれを娘に渡してこう言った「これを煮なさい! そして弟が泣いたら小さいほうの足だけをあげなさい。決して大きいほうの足をあげてはだめだよ」。そう言って母親は出かけていった。

弟がとても泣いた。それで姉はしまいには大きい足も弟に食べさせてしまった。母親はもどってみると、かにの胴体しかなかったのでこうきいた「大きい足はいったいどこにあるの?」 娘が答えた「坊やがいつまでも拉きやまないので足を全部あげてしまったの」。

母は腹をたてた。そして母親が行ってしまうと、男の子は起き上がって泣きながら後を追っていった。すると姉がこう言った「あんたのせいなんだよ! あんたがかにの足を全部食べてしまったからおかあさんがおこっているんだ。でも、おいで。おかあさんを捜しにいこう」。

姉と弟は母親の足跡を見つけると、それについてどこまでも行った。するとしまいに母が自分たちのために用意してくれたミルクとにわとりの卵とひとかごのごはんを見つけた。それを食べてからふたりはまた母親を追っていった。

母親はふたりの子どもの先のほうを走っていったが、そのうちにレーゲレーゲという名まえの巨人に出くわした。巨人は口を大きくあけていたので、母親はまっすぐその口の中へ入っていってしまった。するとレーゲレーゲは母親をのみ込んだ。髪の毛だけがレーゲレーゲの歯にひっかかって残った。

母親の後をついてきた姉と弟はレーゲレーゲに気づくと、姉のほうがこう言った「あの人間を見てごらん。あのひとがおかあさんをのみ込んだんだよ。おかあさんの髪の毛だけが歯にひっかかっているよ」。それでふたりは向きを変えてうちへ帰ってきた。

 姉は弟が大きくなるまでいろいろめんどうをみてくれた。弟は若者に成長すると家を出てある村へ行った。その村の若者たちがボールで遊んでいた。弟はそれに加わったが、村の若者たちはだれもこの若者を打ち負かすことはできなかった。

弟はまた別の村へ行った。そこでは闘鶏が行われていた。この若者は一羽のおんどりを持っていた−−小さなおんどりだったが−−村びとたちはこの若者を見ると、あざけってこう言った「そりゃあ無理だ。あんな小さなにわとりが勝てるわけがない」。

ところがこの小さなおんどりが村じゅうのすべてのおんどりを殺してしまった。その結果若者はたいへんな財産を手に入れた。けれども若者はそのお金を自分で担いでいかないで、ひとりの中国人を雇ってその金をうちへ運び帰らせた。

 ある日のこと、弟が姉に言った「王さまのところへ行ってぼくのために王さまの娘に求婚してきてちょうだい!」 姉はこわがった。けれども、弟はこう言った「とにかく行ってきてくれ!」 それで姉は出かけていった。けれども、恥ずかしかったのですみのほうに隠れていた。

王さまはこの娘に気づくと、家来を遣わして娘を呼び出した。娘は自分の弟のために王さまの娘をひとりいただきたいと申し出た。すると王さまがこう言った「よかろう。だが、その前におまえの弟はまずわしのために銀の家を建てなければならない」。姉は答えた「よろしゅうございます」

 若者が呪文を唱えた。するとすぐに銀の家ができあがった。それから若者は王さまのところへ出かけていったが、いるかの皮を着て行った。いるかの姿をした若者は王さまの前へ進み出た。それから王さまの家に上がる階段の前へ身を横たえた。

王さまは長女を呼んでこうたずねた「おまえはこのいるかと結婚するか?」 長女はつばを吐いてこう言った「魚と結婚するなんて考えられないことだわ!」 次女も魚と結婚するのはいやだと言った。そこで今度は王さまが三女を呼んでこう言った「おまえはこのいるかと結婚する気があるか?」

 すると末の王女は答えた「はい、結婚いたします」。いるかはこの末の王女の寝室で寝た。朝になると若者はいるかの皮を着て床に横たわった。けれども夜のあいだはその皮を脱いで妻のわきに寝た。

 ふたりの姉はしまいに妹の部屋の壁に穴を開けて、妹といるかをのぞいてみた。ところが体格のいい若者がいたのでふたりはびっくりしてしまい、自分たちもその若者と結婚したいものと思った。それで妹に向かって妹がココやしのお皿でごはんを出してばかりいると言ってしかった。けれども、末の妹は言った「でも、見ててごらんなさい。これが習慣なのよ」。

それからふたりの姉は若者と結婚しようとした。けれども若者がそれを断った。断られて姉たちは腹をたて若者を殺す計画を立てた。ふたりで若者のために食事を作りその中に針の先を混ぜておいた。若者の妻がまず先にその食事を食べてみてそれから夫にこう言った「これを食べてはいけません。このごはんの中には針の先が隠されています」。

翌日ふたりの姉たちは毒を混ぜたごはんを作った。ところが若者の妻がまずそのごはんを試してみて夫に向かってこう言った「これを食べてはいけません。毒が入っています」。すると夫がこう言った「さあ、おいで。ここから出ようじゃないか。そうでないとぼくらはいつかは殺されてしまう」。

ふたりは船に乗って若者の姉が待っている家へ帰ってきた。家に着くと若者がきいた「お姉さんはまだ結婚していなかったの?」 すると姉が答えた「ええ、わたしは結婚したくないわ。わたしはむしろあなた方といっしょにいたいの!」

 


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