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学界・研究動向報告 Vol. 2

アメリカ言語学会・アメリカ先住民諸語学会2011年大会/Linguistic Society of America, Society for the Study of Indigenous Languages of the Americas 2011 Meetings

渡辺己
日時:2011年1月6日-9日
場所:アメリカ,ピッツバーグ


2011年1月6日から1月9日の4日間で,アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグでアメリカ言語学会(Linguistic Society of America,略称LSA)大会が開催された。例年通り,本大会と5つの「姉妹学会」が同時開催された。それらは,アメリカ先住民諸語学会(Society for the Study of Indigenous Languages of the Americas,略称SSILA),アメリカ方言学会(American Dialect Society,略称ADS),アメリカ名前学会(American Name Society,略称ANS),北アメリカ言語学史学会(North American Association for the History of the Language Sciences;略称NAAHoLS),ピジン・クレオール言語学会(Society for Pidgin and Creole Linguistics,略称SPCIL)である。本大会は,毎年異なる都市のヒルトンホテルにおいて,2階分くらいを借り切って1月上旬に開催される。

大会では,朝9時から(なかには朝8時から)夜遅くまで,6学会あわせておよそ400件のレギュラーセッションのほか,79のポスター,9件のシンポジウム(発表数53),5件のワークショップ・チュートリアル(発表数25)があり,その他,学会長の講演や招待講演などもあった。のべ1000人位が参加し,18の会場で並行しておこなわれるため,参加者はそれぞれ聞きたい発表から発表へと駆け回ることになる。

日本の言語学会大会との違いについていくつか取り上げる。まず,上述したように,その規模がけた違いに大きい。アメリカ国内外から1000人ほどの研究者・学生が参加し20近くの会場において計560もの発表・講演がおこなわれる。発表・講演のほか,賞やフェローの授賞式,公開の委員会等も開催される。その他,会場の廊下やホールでは,学生への就職支援コーナー,学会誌Languageの窓口,研究助成金の団体職員による窓口などが設けられている。学生支援としては,大学院生が対象・主体となっておこなわれる大学院生向けパネルセッションがあり,大学院時代をどう過ごしたらよいか,どのように研究・教育職につくかなどを議論し,後継者養成が図られている。大学院生のみの懇親会も開催され情報交換・交流の場となっている。アメリカらしいと言えるかもしれない点は,多様な参加者への支援が充実していることである。女性研究者の支援や,障害を持った方への支援に敏感であるため,保育室完備(最近では日本言語学会においても設置されている)・車椅子など障害者に対する支援なども徹底している。大きな講演には手話通訳がつく。

そのほか印象に残ったことを取り上げると,まず,セッションの組み方で,「大御所」といえる様な著名な研究者と修士・博士課程の大学院生が,分け隔てなく30分枠のレギュラーセッションに次々と出てくることである。著名な研究者が現在取り組んでいるテーマについて聞くことができるのは刺激的である。ここ数年は若い世代によるTwitterの利用も活発である。例えば今年は‘#lsa2011’というタグをつけ,それぞれ学会中に感想をTwitterでつぶやいている。研究発表に関する感想,印象,感激,興奮などから,「今著名なXXがとなりでビール飲んでる!」というようなことや,ホテルの周りのカフェ情報などもあった。

発表はどれも短い発表時間の中で多くを話そうと早口でテンションがとても高い。発表が終わった途端に聴衆が次々と手を挙げ質疑応答がおこなわれる。学会の大会がこれほどまでに活発なのは,文化の違いかとも思うが,国際的に研究活動を展開していくためには,私たちもそのような文化の中で発表し議論していく必要があることを,毎回のことながら感じさせられる。

渡辺己はアメリカ先住民諸語学会において,“Coordinate Constructions and Coordinators in Sliammon Salish”というタイトルでスライアモン・セイリッシュ語の等位構造と等位接続詞について発表をおこなった。


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