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こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。

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カシミールカレーとは

カシミールカレーとは何かと聞かれて、少しカレーに詳しい日本人であれば、ルーが黒くサラサラとしていて、とても辛いあのカレーを思い浮かべるに違いない。しかし、日本で「カシミールカレー」と して知られるあのカレーは、実のところカシミールとは何の関係もない。上野の名店「デリー」の創業者である田中敏夫氏が新商品を思いついた際に、当初「マドラスカレー」と命名しようとしていたのに、 印刷業者に原稿を渡すときに「カシミールカレー」と書き間違えてしまった、というのがその真相である。

北インド平野部のそれなりの都市にあるレストランに入ると、様々なチキンカレーのレパートリーの中に、「チキン・カシミーリー」という一品があるのを目にする。これは日本の「カシミールカレー」 とは似ても似つかぬ、ナッツやドライフルーツをふんだんに使った、どちらかというと甘口のカレーである。おそらく、ドライフルーツがカシミールの特産品の一つであるため、このように命名されたので あろう。しかしこの料理も、カシミールで一般的に食べられているわけではない。

では、カシミールの伝統的な、ちょっと豪勢な料理とはいったいどんなものであろうか?それは、カシミーリー語で「ワーズワーン」と呼ばれる、写真のような料理である。 ご飯の上にケバブやメティ・マーズ(フェネグリークで風味をつけたマトン)が載せられた皿がまず出され、それからロウガン・ジョーシュ(イランにルーツをもつ、羊やヤギの肉を油で煮て、 唐辛子で味付けした料理)、グシュタバー(肉団子をヨーグルトベースのグレービーソースで煮たもの)、リスタ(肉団子を赤いグレービーソースで煮たもの)、ロウガン・チャマン(チーズを揚げて、 トマトのグレービーソースで煮たもの)などが次々にサーブされる。それらをどんどんご飯にかけて食べるのである。胃腸に自信がある方は、ぜひ一度試されたい。

2024年3月4日
インド共和国ジャンムー・カシミール連邦直轄領スリナガル
小倉智史 撮影


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