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今月の一枚 2022年8月

こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。

(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

ビルマ仏教寺院の多文字刻文

シンガポールのノヴィーナ地区にはビルマ仏教寺院がある。前身の寺院が1875年に建てられ、1990年に現在の姿に移転改築された。この寺院の解説によると、ミャンマー国外に伝統的様式で立てられた唯一のビルマ仏教寺院であるそうだ。寺院の構内の壁に釘留めされた2枚の石板刻文がある。写真は石板の一つである。この石板は1行目がビルマ文字、2行目がシンハラ文字、4行目の途中からクメール文字、以下ラテン文字、ビルマ文字でテキストが書かれている。最初のビルマ文字はパーリ語の良く知られた偈Namo tassa bhagavato arahato sammā sambuddhassaを記したもので、同じ偈がシンハラ・クメール各文字テキストの最初の部分にも現れている。最後のビルマ文字で書かれたテキストはビルマ語で、前身の寺院の1875年から1920年代までの事跡を記している。Anna M. Blackburnは文書館の記録をもとに、当時まだ力を持っていなかったスリランカ人仏教徒が儀式のために仏像のあるこの寺院を訪れていたと推測する。クメール文字の方はカンボジア人ではなくタイ人とのつながりを示しているのではないか。というのも、タイ人は長くクメール文字をパーリ語の表記に用いていたからである。

2017年3月18日
シンガポール、ノヴィーナ、ビルマ仏教寺院
澤田英夫 撮影


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