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今月の一枚 2013年6月

こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。

(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

駅名に見る多言語主義

シンガポールのほぼ全域を網羅する地下鉄(MRT)の駅名表示には,ラテン文字,漢字,タミル文字という3類の文字が用いられている。これは,シンガポールが英語・マレー語・漢語(官話)・タミル語の4言語を公用語とし,英語とマレー語が共にラテン文字で表記されるためである。

これらの文字で表記される駅名の語源はどうかというと,英語起源のものが約半数を占め,マレー語が約20%程度とそれに続く。漢語起源のものはずっと少なく,しかも福建語・潮州語・客家語などさまざまな由来のものを含み,官話由来の駅名は多くない。インドの言語に起源を持つ駅名に至っては写真中のドービー・ゴー トDhoby Ghautぐらいしか見当たらない。ちなみにこの地名はタミル語由来ではなく,アーリア系言語,ヒンディー語あたりからの借用語であろうと思われる。
駅名表示というごく限られたソースからくるものとは言え,このような語源別地名の割合が,シンガポールの人口構成とは全く一致していないことは興味深い
(人口の約3/4が華人であり,マレー系が13%,インド系が9%)。

ちなみに,観光スポットとして有名なChinatownの漢字表記は「牛車水」であり,英語表記と漢語表記の間に何の対応も見られない。なぜ「牛車水」なのか,ずっと疑問を持っていたのだが,これは現在のチャイナタウン地域が水の供給源であったことに由来するそうだ。曰く,水が牛車を用いて各地に運ばれたのであると。
地名というのは奥が深いものである。

2013年3月18日
シンガポール MRT東北線チャイナタウン駅
澤田英夫 撮影

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