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今月の一枚 2012年8月

こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。

(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

文語ビルマ語の始祖

ビルマ語は文語体と口語体の差異,特に文法的機能を表す機能語の差異が大きい言語の一つとして知られる。

ビルマ語の文献は約900年の歴史を有する。現代文語には,12世紀の碑文に見られるものから,18世紀以降に用いられるようになったものまで,様々な形式が共存している。一方で,現代口語の中の,明らかに対応する文語形式と区別されてきた形式も,同一人物がコミュニケーションのタイプに応じて2つのスタイルを使い分けるという事実を背景にして,文語体の中に混入してきている。それだけに,現代文語の文法体系の全容を把握することは,現代口語の場合よりずっと難しいように思われる。

写真は,作成年についての記載がある現存最古のビルマ語碑文,ラージャクマール碑文である(発見地にちなんでミャゼーディー碑文とも呼ばれる)。方形の字形は現代ビルマ文字では丸形に変化したが,この碑文に書かれた多くの語形は現代文語に引き継がれている。歴史的な音変化を被ったと考えられる語もあれば,意味や用法が現代とは異なる語もある。また,古い起源を持つ形式のあるものが,類似の機能を持つ新しい形式との競合において「古風な」印象を与えるのに対し,別のあるものは普通に用いられ,誰もその起源の古さを意識しない。ともかく,この「文語ビルマ語の始祖」と現代文語ビルマ語の間には確かな紐帯が認められる。それは「ビルマ人らしさ」が受け継がれていることの証の一つと言えるだろう。

この碑文の作成年(仏暦1656年)からちょうど900年となる年の夏に,本研究所の言語研修で文語ビルマ語を教える。これも何かの縁だろうか。

2003年1月
ミャンマー連邦バガン,ミャゼーディー=パゴダ碑文庫
澤田英夫 撮影

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