こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。
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ミャンマーにおいて穿耳式(ナートゥインブエー)は,男子の出家式(シンビュブエー)に対応する女子の通過儀礼である。宝石をちりばめた耳飾りをするために耳に黄金の針で穴を開けることは王族のならいであり,ことに王女が結婚前に穿耳式を行うのは義務的であった。現在主に都市部で見られる穿耳式は,この王族の習慣を受け継いだものであるのかもしれない。
写真はマンダレー第一の名刹マハームニ・パゴダで撮影したもので,女神の衣装に身を包んだ少女たちは,この写真には写っていない,王子の衣装を着た少年たちの後に続いていた。知り合いの宗教学研究者によると,この写真は出家式・穿耳式の会場に向かってパゴダから出発する「お練り行列」を写したものであるそうだ。
注意深い読者は,これから穿耳式に臨むはずの少女の何人かがすでに耳飾りをしていることにお気づきであろう。現状では,穿耳式を行う以前の幼いうちに耳に穴を開けてしまい,穿耳式はただ着飾るというのが大勢らしい。明らかに穿耳式の本来の意義が見失われるようになってきているのだ。もともと穿耳式は出家式のように仏教の伝統に支えられたものではないので,そのための形骸化かとも考えたのだが,都市部ではいまや出家式でさえ簡略化の傾向にあるとのことだ。
時がゆっくり流れていると思われてきたこの国にも,やはり変化は確実に起こっているのである。
2012年2月28日
ミャンマー連邦マンダレー,マハームニ・パゴダにて
澤田英夫 撮影
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