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今月の一枚 2010年8月

こちらにはひと月に一度,AA研スタッフや共同研究員がフィールド調査の際に撮った写真を載せています。

(写真の著作権は撮影者にあります。無断・無許可でのご使用は固くお断りします。)

国境での出会い-クルドの少女

国境の砂漠地帯にある難民キャンプ。夜は厳しい寒さが,昼は灼熱の暑さが襲うイラクとの境界線沿いに,その出会いはあった。2003年に始まったイラク戦争により,国内の治安悪化や政治不安を受けて数十万から百万人ともいわれる難民が周辺国へ逃れることになった。なかには入国を許されず,国境地帯の仮設テントに足止めされる人々もいた。私は知人のNGO関係者の仕事を手伝うことになり,政府の許可を得て一緒に,彼らがとどまる難民キャンプを訪れたのであった。

クルド語,アラビア語,英語がとびかう診療所。ひどい砂埃や整わない衛生施設のため,目や肌の不調を訴える人が多い。それらの通訳をしていたときに,ベールをかぶった祖母に連れられてきたのが写真の少女だった。愛らしいおさげ髪に,はっとするほど美しい碧の瞳。こちらをじっと見つめる無防備なまなざしに吸い込まれるように,思わずシャッターを切っていた。キャンプの置かれた位置づけや難民自身の政治的立場のために,写真撮影や記録は厳しく警戒されている。とはいえコンテナを利用した診療所の中,ほかに何が映るでもない。同伴の家族はまるで気にとめた様子もなく,自分の番とばかりに娘を医師の前に差し出した。

あれから5年の時間が経つ。彼女は,あの親子はどこへ行ったのだろうか。キャンプにいたクルド人の多くは,UNHCRの支援で第三国へ移住していったと聞く。名前も知らない彼女らの足取りを知るすべもない。元気でやっているだろうか。厳しい環境のなか曇ることのなかった瞳のまま,今日も笑顔でいてくれればいいと願う。

国境での出会い-クルドの少女

イラク国境の難民キャンプにて
2005年2月
錦田愛子撮影

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