町田和彦氏所蔵
C02
旧約聖書(サンスクリット語訳)
デーヴァナーガリー文字サンスクリット語

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旧約聖書のサンスクリット語訳。文字はデーヴァナーガリー文字。英語で書かれた奥付から、出版年は1808年、出版地は Serampore セランポール(現地名シュリーラームプル)であることがわかります。インドにおける近代活版印刷の初期のものです。奥付では、ギリシャ語からのサンスクリット語訳となっています。なお、「サンスクリット」のつづりは、現代の Sanskrit ではなくSungskrit です。

画像は、旧約聖書の冒頭「はじめに、神は天地を創造した。」で始まる部分です。ほぼ同じ時期にやはりセランポールで出版された展示番号 A03 のヒンディー語訳との比較は、聖書翻訳史の上でも興味深い材料を提供してくれます。

古典語サンスクリットに訳された聖書が、インドにおけるキリスト教布教にどれほど有効であったかは不明です。しかし、当時の宣教師たちの精力的な翻訳作業とそれを支えた彼らの強い使命感を見ることができます。またこの翻訳は、言語研究の面からは、19世紀に頂点に達するサンスクリット語・ギリシャ語・ラテン語の比較研究、そしてそれに続くインド・ヨーロッパ語族に関する精緻な比較言語学構築の基礎となる当時のサンスクリット研究の水準を裏付けています。

(町田 和彦)