インド系文字伝播図について


 すべてのインド系文字の起源は紀元前3世紀に現れたブラーフミー文字にあります。

 これは、その後4世紀頃まではごくゆるやかな変化しか受けませんでしたが、次第に北方ブラーフミー文字と南方ブラーフミー文字と二つに大別される傾向が現れています。

 北インドでは、4から5世紀にグプタ朝が広範囲にわたって勢力を確立すると、そこで用いられたグプタ文字がその後の様々な文字の発展の源流となりました。日本に伝わって悉曇文字と呼ばれるようになるシッダマートリカー文字、カシミール地方などで使われたシャーラダー文字、後にデーヴァナーガリー文字に発展する種々のナーガリー文字などが発展します。また、チベット文字もグプタ文字を元に作り出されたものと思われます。

 北インドで現在使われているベンガル文字オリヤー文字グジャラーティー文字なども文字の上部の線がなくなっている(グジャラーティー文字)丸くなっている(オリヤー文字)などの違いを別にすると字の本体部分が良く似ていることに気がつきます。

 一方、南インドでは、パッラヴァ朝、チャールキヤ朝など7世紀頃まではまだブラーフミー文字からの変化はそれほど目立ちませんが、その後急速に現代のテルグ文字カンナダ文字タミル文字グランタ文字などの形に分化発展していきます。マラヤーラム文字はケーララ州のマラヤーラム語が10世紀以後にタミル語から分化した後で、グランタ文字などを参考にして新たに作られたものだと言われています。
スリランカのシンハラ文字や、東南アジアの様々なインド系文字は大体においてパッラヴァ文字に起源を持つと考えられます。

 ビルマのピュー文字、ベトナムのチャンパ王朝のチャム文字、インドネシアの古カウィ文字、カンボジアの古クメール文字などがパッラヴァ文字との類似を明瞭に示しています。
その後、東南アジア大陸部ではモン文字ビルマ文字が発展し、クメール文字をもとにタイ文字ラオ文字が作られました。インドネシアではカウィ文字がジャワ文字バリ文字などへと発展します。
モンゴルのパスパ文字は、モンゴル人がチベット仏教に深く帰依したことから、チベット文字の影響を受けて作り出されたものです。

 ハングル文字は、形の点では独立して作り出されたものですが、子音記号に母音記号を組み合わせるという発想にはパスパ文字を通じた影響関係があった可能性も指摘されています。
悉曇文字50音図についてはそれぞれリンクを辿ってください。