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教育セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 矢野可奈子
2005(平成17)年度
矢野可奈子京都大学大学院人間・環境学研究科)
 本セミナーの最大の魅力は、研究の対象地域や分野は違うものの中東・イスラームというゆるやかな、しかし大きなつながりの中で、それぞれ違った研究テーマや地域への具体的なアプローチの仕方を知り、学び、影響を受けた点にあったと思う。自分の研究地域や思考の枠組みばかりに捕われがちになるなかで(特に私の研究科では)、今回のセミナーを通して他地域への視野が広がり、他の方々の問題の設定や着眼点がほんとうにさまざまで色々な研究の可能性があることに今さらながら驚いた。私の研究対象はパレスチナという中東地域ではあるが、テーマは直接イスラームに関わることではない。だが、パレスチナ社会を見る上で、宗教であり社会規範でもあり、文化・文明であるイスラームの理解を決して軽んじることはできないということを強く感じた。パレスチナのムスリムが生きる現実を知る上で、彼/彼女たちが持つイスラーム観を断片的にも感じ取ること。そういう意味で、大塚先生の仰った点―「彼/彼女たちの生活の中に息づくイスラームなるものを見出していこうとする」―が私の研究には決定的に不十分である。イスラームが分かればパレスチナ社会が分かるというのは、キリスト教が分かればイギリス社会/フランス社会が分かるというのと同じくらい暴力的だが、それでも、パレスチナという政治的に困難な場所の内側を見ていくなかで、世俗的な政治の動きや世俗的な思想に盲目的に寄った観点からパレスチナ社会を眺めることもまた暴力的で、「生活の中に息づくイスラームなるもの」を生きる人びとの現実を見損ねてしまう。

 全体的には、セミナーのプログラムや進行方法は満足のいくものだった。合宿形式を望む声もあったが、運営側の負担や、束縛のなさ、自由に思考できる時間を考えると、私は今回のように午前・午後を十分に使って充実したプログラムにする方が良いと思う。内容的には、連日決められた時間内の発表と短時間の質疑応答の繰り返しで少し単調に感じないこともないので、午後の時間をフルに使って一つの発表とその中での問題設定・ディスカッションを入れたり、フィールドワーク的なセミナーを盛り込んでメリハリをつけるなど、工夫した内容にするのも良いのではないかと感じた。また、細かいことになるが、初日の交流会を立食形式にした点はすごく良かったと思う。座敷やイスだと話せる相手が限られてくるが、自由に移動できる立食だと皿とコップを手に持ち多くの人と複数で話し、動き回ることができる。情報交換もし易い。

 最後に、初日に台風が接近しどうなることかとハラハラしましたが、このような有意義なセミナーに参加させていただいたことに感謝します。先生方、運営してくださった方々、どうもありがとうございました。
 

 

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