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研究セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 新井和広
2005(平成17)年度 後期
新井和広(AA研非常勤研究員)
 通常、研究セミナーで教員の側が発表や講義を行ったりすることはない。しかし、今回は私が1時間だけ時間をもらって自分の博士論文について話すことになった。何を話せばいいのか他の教員に聞いたところ、「論文執筆の苦労話などがいいのでは」とのことだった。AA研側のスタッフで受講生に一番立場が近いのは私だし、博士号も2004年に取ったばかりである。おそらく大学院生の視点に立って話をできるのではないかと思われたようだ。

  何を話せばいいのか正直迷った。博士とは言っても米国と日本では取得までの手続き等、制度が違う。その辺の比較をしてみようかとも思ったが、このような情報はネットで簡単に入手できる時代である。それに受講生の大半は博士論文執筆過程にある学生なので、今さら米国に留学しようと考える人もいまい。よく考えてみれば、日本の大学院に在籍したことのない私が米国と日本の比較などできる筈がないのだった。

  それでは私が話せることで、受講生の参考になるようなものは何だろうか?みんな博士論文を早く書け書けと方々から言われて焦っているだろう。博士論文なんて自分には無理かもしれないと思っているかもしれない(論文を書いている時は、これからずっと苦しい状態が続くものだと錯覚しがちである)。だったら私がどのようにテーマを決定し、どのような調査を行い、最終的に論文を仕上げたかを話せばいいのではないか。プレッシャーは感じすぎるくらい感じているだろうから、少しリラックスできるような話をしよう。これならどこで勉強している学生であろうが共通の問題として受け取ってもらえるのではないかと考えた。

  当日はまず私の博士論文について簡単に説明した後、執筆過程のうちインフォーマルなプロセスを中心に話をした。調査などの具体的なイメージを持ってもらうよう、20数枚の写真も交えた。なぜ機械工学を捨てて中東・イスラームについて研究しようと決心したのか、なぜ米国に留学したのか、テーマはどのように選んだのか、どの助成金に応募したのか、調査地でどのように行動していたのかなど、なるべく具体的に、自分の中で不本意ながら妥協した部分なども隠さず説明した。ひとつ強調した点は、会議やワークショップなどで出会った研究者、調査地でお世話になった人たちなど、人と人とのつながりの重要性である。これらのつながりは、博士号取得、または就職後のキャリアにも影響を与えるため、学生のうちからしっかりしたネットワークを作っておく必要がある。この点についても考えながら研究を進めてほしいと言った。最後に、現在の博士論文というものは自分が行なってきた研究のけじめとも言えるべきものであるからなるべく早く書くように助言して発表を終えた。

  受講生からの質問があまりなかったのは残念だったが、評判はまずまずだったようである。3名の受講生が、「感想・報告」に私の名前を出してくれた。喜ばしいかぎりである。

 

 

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