Top page of the Project MEIS at TUFS
 
研究セミナー >> 2005年度感想・報告 >> 森山央朗
2005(平成17)年度 前期
森山央朗(東京大学大学院人文社会系研究科)
 本セミナーに参加して得た最大の成果は、中東・イスラーム研究の多様性に触れることができたことである。例えば、イスラーム銀行のメカニズムや理念を分析した福島康博氏の報告は、私にとってはブラックボックスであったイスラーム銀行に関して、具体的な知見を与えてくれた。また、知識人と知識という自分の研究と共通したテーマを扱った久志本裕子氏の「近現代マレーシアにおけるイスラーム知識人の移動と知識の伝達」からは、分野と研究対象地域・時代の違いが問題設定や分析手法にもたらす異同が明らかになった。そして、「政策提言」という点に言及した小林和香子氏の「イスラエルとパレスチナ民族和解プロセスの現状と展望」は、衝撃的ですらあった。それは、国際関係学などに対する無知に起因するのだが、研究を以て現状改善に寄与しようという姿勢は新鮮に映った。

 今回のセミナー参加者は、7人中6人までが現代研究を専攻していた。その中で唯一歴史学を専攻し、それも約千年前を研究対象としていた私は、かなり浮いた存在であったことは否めない。果たして、自分の研究発表に対して、スタッフの方々からは有意義なコメントを数多く頂くことができたが、他の参加者から活発な質問・コメントを得ることはなかった。これは、他分野を専攻する人々に自分の研究の意義や内容を理解してもらうための努力が、まだ足りなかったためと思われる。

 これまでの中東・イスラーム研究においては歴史学が多数派を占めていたが、現代研究の比重が高まっていることは周知の通りである。その中で、千年前の歴史を専攻していても、社会人類学や国際関係学などを専攻する人々に自分の研究の意義や内容を説明する機会は増えていくであろう。そうした状況を考えれば、「学際的」な場所で意味のある議論をするために努力し、その方法を洗練させていく必要性を認識させられたことも、本セミナーで得た成果と言える。

 その一方で、それぞれの専門分野における研究の深化が、他分野との有意義な議論の前提となることも自明である。また、本セミナーの対象者となっている博士後期課程在籍者やPDは、通常、各自の専門分野の中で業績を積んでいる最中にある。特に、効率的に業績の点数を稼ぐことを課すような政策的・社会的圧力が強まっている現状において、他分野の研究に触れることで視野を広げ、討論のスキルを上げるという中長期的な展望よりも、各自の専門の中で研究を進展させ、業績を増やすという短期的な目標を優先せざるを得ないことも、現実である。もちろん、広い視野を持つことと専門分野の中で着実に業績を発表していくことの両立を目指すべきであり、本セミナーの趣旨が「討論スキルの向上」と「研究の深化」にあったことは、そうした問題意識に基づいていたものと理解される。

 しかし、本セミナーで得られた成果の中で、自分の「研究の深化」に関わる部分は曖昧である。1時間の討論を通して、貴重なコメントを得たことは有意義であったものの、このセミナーに参加しなければそうしたコメントを得られなかったとは、必ずしも言えない。

 その原因は、参加者・スタッフ相互の関連やバランスにある。普段はあまり接触がないが参加者の研究と密接な関連がある分野の研究者から意見が聞けるというのが、一つの理想であろう。マレー関係の発表に対しては、ある程度こうした配慮がなされていたが、それ以外の参加者に対しても、何らかのコメンテーターを立てていた方が、各々の研究の深化にとって、より有意義だったと思われる。

 研究の深化は本人の課題であり、セミナーに明確な成果を期待するのは甘えなのであろうが、せっかくの機会に時間と労力を費やして参加していながら、この側面で大きな成果を得たと言えないことは、私にとっては、大きな不満点であり、自身の参加のあり方に対する反省点でもある。
 

 

back_to_Toppage
Copyright (C) 2005-2009 Tokyo University of Foreign Studies. All Rights Reserved.