●展示について


右の写真は昨年6月にカナダのホワイトホースで開かれたユーコン先住民言語センターによる出版物展示会の写真です。同じく右下の写真は同言語センターでの玩具を使った講習会の模様です。本展の目的は、このように、現在、アサバスカンの人びとがとりくんでいる、ことばと文化の復興運動を皆さまにご紹介することです。そこで今回の展示では、博物館や美術館のような展示ではなく、上の二つの展示にみられる色やかたち、また、そのアイデアを手本に展示を構成しました。

ところで、本展では、ポスターをはじめ、全体的に鮮やかな色調のものが多いことにお気づきになられたかと思います。その理由は、本展が「リバイバル」ということをテーマにしているからです。「リバイバル」というテーマは、展覧会と同時開催しました国際会議のタイトル「アサバスカンの再活性化における相互交流の役割」にちなんで設定したものです。ただ「リバイバル」と言っても様々なものがあります。今回その具体的なイメージのもとになったのは、これもまた一枚の写真でした。

この展覧会の企画がもちあがり、その準備が始まった1月の末に電子メールを通じて一枚の写真が届きました。それは小春日和を思わせるような明るい陽光の下で、ナヴァホの若い女性が愉しげに機(はた)を織っている写真でした。その生き生きとした表情、赤と青を中心とした鮮やかな色の組み合わせがとても新鮮に目に映りました(ちなみにこの女性は今回の国際会議のパネラーであるマーサ・オースティンさんの娘さんです)。この生命感に満ちた明るいイメージが今回の「リバイバル」のライトモチーフになりました。本展のポスターは、この写真の中にある色をとりだして配置しなおしたものです。いわばそれは、写真というイメージの織り物に織りこまれていた色の糸を解きほぐして、それをもういっぺん織り直し、それによって、もとのイメージと互いに呼応させながら、より生き生きとしたものとして再活性させようと試みたものです。つまりそれは「アサバスカンの再活性化における相互交流の役割」という国際会議のテーマに、デザインを通じてとりくんでみたものとしてご理解いただければ幸いです。


もうひとつの特徴は、この展覧会がワーク・イン・プログレスとして構成されているということです。つまり、この展覧会は「完成したもの」ではなく、「進行中のもの」であり、展覧会のあいだ展示が増えたり変わったりするものとして設計されています。例えば、展示パネルの中に空白や空欄があったり、空っぽの陳列ケースが置かれていたりするのはそのためです。それらは今回の国際会議に参加されたアサバスカンの方々に埋めていただくことを期待して用意した「空白」であり、「相互交流」を通じて、この「空白」が少しづつ埋まってゆく、そのプロセス自体を示すことが、この展覧会のもうひとつの目的なのです。


有難いことに、このプランの幾つかは実現されました。展示パネルの空白には写真が貼られ、空欄は直筆の文字とことばで埋められました。また、展示室では連日、アサバスカンの民話や歌などが披露され、展示品を前に口頭で解説をしていただきました(その模様を撮影したビデオを現在制作中です)。そして、最初は空っぽだった陳列ケースの中も、それぞれ持参していただいた展示品ですっかり埋まり、そのたびに展覧会がリバイバルし、活性化することができました。このように展覧会をワーク・イン・プログレスのかたちにしたのは、そもそも文化やことばというものはそれ自体、時間と空間を超えて常に変わり続けるもの(あるいは、旅するもの)であり、それは決して完了することのないワーク・イン・プログレスなものだと考えるからです。とりわけリバイバルという運動は私たちにそのことを教えてくれるものではないでしょうか。


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