FIELD PLUS No.8
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3Field+ 2012 07 no.8契丹文字解読の最前線責任編集 荒川慎太郎 左のFIELD+の文字はどこかおかしいですね。この「疑似アルファベット」、実は「疑似漢字」である契丹小字のいくつかを並べたものなのです。『フィールドプラス』を毎号読んでくださっている皆さんにも、初めて手に取られる方にも、古代文字に親しんでもらえれば幸いです! 今から千年ほど前、中国北部に「契丹(遼)」という国がありました。後に大帝国を形成する、モンゴル人と同系統の「契丹人」の国家です。現在の縦書きモンゴル文字が生まれる前、契丹人は自らの言語を、漢字を模倣した「疑似漢字」、契丹文字によって記しました。 この契丹文字、ややこしいのですが、タイプの異なる「契丹大字」と「契丹小字」がありました。初めに作られた文字が大字、後に作られた文字が小字と言われてきました。ごく大雑把に言えば、大字は「漢字の字形を表意・表音文字的に利用し、契丹語の発音で読んだ文字」、小字は「表音文字をハングル風に並べた文字」です(図参照)。契丹人は小字を作った後も大字を使い続けます。しかも同時に漢字も使用していたのですから、さらにややこしいですね。現在のモンゴル人が多言語に長じているのも分かるような気がします。 契丹大字・小字は、解明されていない文字の一つ(二つ?)です。しかし、相次ぐ文字資料の出現と、研究者の増加により、研究が進展しつつあります。 古代の文字や言語の研究は、ドラマチックなエピソードばかりではなく、地道な発掘調査による資料の発見や、判読データの蓄積という基礎作業の上に成り立ちます。この特集では、近年の資料発見の実情、最先端の解読状況、契丹文化研究の最前線を、各方面の専門家に語っていただきました。話者のいない、「古代語のフィールドワーク」という特異な現場へ皆さんをご招待したいと思います。 本特集は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の共同利用・共同研究課題「契丹語・契丹文字研究の新展開」の企画です。このプロジェクトのウェブサイト(http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/projects/jrp/jrp174)もご覧ください。

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